探査機に“声”を  JAXAとイディナが宇宙機との対話を目指す共創を開始
©Space Connect

2026年7月3日、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)とイディナ株式会社(以下、イディナ)は2026年6月より「宇宙機の対話認知インターフェース事業」に関する共創活動を開始したことを発表した。

本共創では、探査機に”声”を与えることで、運用データや過去知見へのアクセスを、探査機との会話形式で行うことの可能性について検討している。

本記事では、JAXAとイディナが進める「宇宙機の対話認知インターフェース事業」について、取り組みの概要とイディナの技術が担う役割を解説する。

宇宙機の対話認知インターフェース事業とは

JAXAとイディナが取り組む「宇宙機の対話認知インターフェース事業」に関する共創活動は、探査機に“声”を与え、宇宙ミッションと人との新たな関係性を創出することを目指すものである。

本共創では、対話認知インターフェースプログラム「Mission Buddy」を活用し、探査機との会話を通じて運用データや過去知見へアクセスする仕組みの実現可能性を検討

例えば、以下のような取り組みの実現を目指している。

  • 運用者が会話するように探査機に話しかけ、過去データにアクセスすることで、運用者の認知負荷低減を目指す取り組み
  • 展示館の訪問者が探査機に「いま、どこを飛んでいるの?」と聞くと、探査機が自分の声で、現在の旅路やミッションの目的を答える取り組み
JAXAとイディナが進める「宇宙機の対話認知インターフェース事業」に関する共創活動のイメージ画像
「宇宙機の対話認知インターフェース事業」イメージ画像 ©Space Connect

こうした取り組みの実現を目指す背景には、宇宙機運用と科学コミュニケーションの両面における課題がある。

まず、宇宙機運用では、運用者同士の意思疎通は会話で行われる一方、宇宙機の状態確認や過去データの検索は、数値や文書、グラフなどの視覚的な情報に依存するのが一般的となっている。

探査機や国際宇宙ステーションのような長期間運用されるミッションでは、これらの視覚的情報に加えて、過去データや知見を熟知した人材の経験も重要となる。しかし、こうした経験は視覚的情報だけでは十分に伝えることが難しく、運用者の世代交代に伴う技術・知識の継承が課題となっているという。

また、宇宙開発をはじめとする科学技術の情報発信では、専門的な内容を正確に保ちながら、老若男女を問わず幅広い層に分かりやすく伝えることや多言語で発信することが求められる。しかし、テキストや動画などの視覚的情報を中心とした一方向の発信だけでは、受け手の知識量や関心に応じた説明を行うことが難しく、双方向に理解を深める仕組みには課題が残る。

JAXAとイディナは、探査機自身が利用者と対話できるようになることで、各ミッションの魅力や目的をより身近に伝え、人々と宇宙との継続的な関係性を育む新たな体験につなげたい考えだ。

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イディナの技術を活用し「Mission Buddy」を設計・試作

本共創は、J-SPARCにおける事業コンセプト共創フェーズとして2026〜2027年度にかけて実施される。

期間中は、現在運用中または今後運用される探査機や人工衛星などの宇宙機を対象に、各ミッションの特性や語り口を反映した対話体験の可能性を検討。また、実際の運用現場や相模原キャンパスの展示館において実証を行い、対話型認知インターフェースが持つ価値を検証する予定だ。

実証に向け、JAXAとイディナは最新の音声合成技術や生成AI技術に加え、イディナが持つ対話基盤や人格設計基盤を活用し、探査機や人工衛星などの宇宙機が自らの“声”で語る対話認知インターフェース「Mission Buddy」の概念設計と試作を進める。

Mission Buddyにおけるイディナの技術
Mission Buddyにおけるイディナの技術 ©Space Connect

イディナの対話基盤とは、利用者からの問いかけに対し、関連する情報や文脈を踏まえて、音声やテキストで応答するための技術・仕組みである。利用者が自然に問いかけながら理解を深められる体験として設計されている。

一方、人格設計基盤は、対象となる人物やキャラクター、宇宙機、ミッションなどの特性、役割、語り口、伝えるべき情報の範囲を整理し、一貫した“らしさ”を持って応答できるようにするための設計手法・運用基盤である。

これらの技術を活用することで、「Mission Buddy」は、宇宙機を単に擬人化するための仕組みではなく、ミッション情報、観測データ、運用知見、研究成果を基盤に、研究者・運用者、教育機関、一般利用者を対話でつなぐ認知インターフェースとなる。ミッション理解、学習支援、科学コミュニケーション、知識の継承と活用、多言語による情報発信など、幅広い活用が期待される。

事業実現により何を目指すのか

本共創が目指すのは、宇宙ミッションが「情報として伝えられる対象」から「人々に語りかけ、問いに応え、関係性を育む存在」へと変化する未来である。

人と宇宙機が対話しながらミッションに向き合う関係を形にすることで、これまで宇宙開発に触れる機会が限られていた人も、探査機や人工衛星の活動をより身近に感じられるようになる。こうした対話体験を通じて、宇宙ミッションを自分ごととして捉える人を増やすことが期待されている。

また、対話認知インターフェースは宇宙開発にとどまらず、複雑な科学技術情報を分かりやすく、正確に、多言語で伝えるための基盤として、幅広い分野への応用が見込まれる。将来的には、展示館や科学館での常設利用、配信コンテンツ、学習支援、技術継承支援などを通じて、科学技術と社会をつなぐ新たなコミュニケーションモデルの創出を目指す。

JAXA 宇宙科学研究所太陽系科学研究系 准教授 村上 豪 氏は、以下のようにコメントしている。

宇宙ミッション遂行の裏には常に強固なチームワークがあり、そこでは綿密なコミュニケーションが行われています。
探査機が"声"をもつということは、探査機自身がそのチームの一員となりチームワークを強化できるだけでなく、その"声"や個性を通じて広く多くの人をミッションに惹きつけ、新たなクルーとして迎えることでミッションの拡大につなげられると期待しています。

探査機に“声”を与える取り組みは、運用を支える関係者の情報活用を助けるだけでなく、宇宙ミッションを応援する人々を新たな担い手として巻き込む可能性を持つ。Mission Buddyの実証を通じて、宇宙機と人との関係がどのように変化していくのか、今後の展開が注目される。

さいごに

JAXAとイディナが進める「宇宙機の対話認知インターフェース事業」は、運用データや過去の知見を会話形式で活用しやすくすることで、宇宙機運用における知識継承や判断支援につなげるとともに、一般の人々が宇宙ミッションに触れ、理解を深める新たな入口をつくることを目指している。

イディナが持つ対話基盤や人格設計基盤は、宇宙機ごとの役割やミッションの特性を踏まえながら、正確性を保った対話体験を設計するうえで重要な役割を担うとみられる。

今後は、2026〜2027年度にかけてプロトタイプの構築や実証が進められる予定だ。Mission Buddyが運用現場、展示施設、教育の場でどのような価値を生み出すのか、宇宙機と人との新たな関係性を形にする取り組みとして期待される。

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参考

「宇宙機の対話認知インターフェース事業」に関する共創活動を開始〜探査機に“声”を与え、宇宙ミッションと人との新たな関係性を創出〜(JAXA, 2026-0705閲覧)

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