宇宙でも活躍するフィジカルAIとは|衛星・ロボット運用を自律化する次世代技術
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生成AIの普及により、文章や画像、動画を生成するAIが急速に注目を集めている。
一方で、今後の産業分野では、現実世界で動くロボットや機械にAIを組み込む「フィジカルAI」の重要性が高まっている。

本記事では、フィジカルAIとは何か、そして宇宙開発においてなぜ重要な技術になるのかを解説する。

フィジカルAIとは

フィジカルAIとは、ロボットや機械、自律走行システムなど、現実世界で動く物理的なシステムにAIを組み込み、周囲の状況を認識しながら判断・動作させる技術領域を指す。

生成AIが文章、画像、音声、コードなどのデジタル情報を生成するのに対し、フィジカルAIは、カメラやセンサーなどで周囲の状況を認識し、その状況に応じてロボットや機械を動かす点に特徴がある。

たとえば、ロボットが物体を認識してつかむ、工場内で部品を運ぶ、障害物を避けながら移動する、作業内容に応じて動きを変えるといった場面で、フィジカルAIの技術が活用される。

フィジカルAIが宇宙分野で注目される理由

宇宙分野でフィジカルAIが注目される背景には、人が直接作業できる場面の少なさと、地上からの遠隔操作の難しさがある。

フィジカルAIが宇宙分野で注目される理由
フィジカルAIが宇宙分野で注目される理由 ©Space Connect

宇宙ステーションなどで宇宙飛行士が船外活動を行う場合には、放射線被ばくや、微小隕石・宇宙ごみとの衝突などのリスクがある。また、宇宙服に不具合が起きれば、呼吸や体温調整などに支障が出る可能性もある。

一方、月面や火星など地球から離れた場所でロボットを作業させる場合には、通信の遅れや途絶が起こる可能性があり、すべての作業を地上から細かく指示することには限界がある。たとえば、ロボットが想定外の岩や斜面に直面しても、地上からすぐに操作して回避させることは難しい。

そのため、今後の宇宙開発では、ロボット、探査機、衛星などが周囲の状況を把握し、必要な判断や動作を自律的に行う能力が求められる。

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宇宙分野におけるフィジカルAIの活用領域

宇宙分野におけるフィジカルAIの活用領域は広い。すでに、探査ローバーの自律走行や、宇宙ロボットによる作業支援、デブリへの接近・観測など、フィジカルAIに関わる技術の活用や実証が進んでいる。今後、宇宙産業が発展していくにつれて、ロボットや宇宙機が自律的に判断・動作する技術の重要性はさらに高まると考えられる。

1. 月面・火星探査ローバー

月面や火星の地形は、岩石、砂地、斜面、クレーターなどが多く、事前にすべてを正確に把握することは難しい。そのため、ローバーには、周囲の地形を認識し、安全な経路を判断しながら移動する能力が求められる

活用例としては、NASAの火星探査車「Perseverance」が挙げられる。Perseveranceでは、自律航法システム「AutoNav」により、地形を確認しながら、岩などの障害物を避けて走行する技術が使われている。

こうしたローバーの自律移動を支える技術の一つが、SLAMである。SLAMとは、ロボットや車両が周囲の環境地図を作りながら、自分の位置を推定する技術を指す。GPSなどの測位インフラが使いにくい月面や火星では、ローバーが自ら位置を把握しながら移動するための基盤技術となる。

SLAMや空間認識に関わる技術を手がけている日本企業の例としては、Kudan株式会社が挙げられる。同社は、自律移動ロボットや車両向けに、位置推定、マッピング、経路計画、障害物回避などに関わる技術を展開している。

こうした自律移動の技術を土台に、今後、月面探査や火星探査が本格化すれば、ローバーは単に移動するだけでなく、科学的に重要な対象を見つけ、観測やサンプル採取の優先順位を判断する役割も担う可能性がある。

2. 軌道上サービス

軌道上サービスとは、宇宙空間で衛星やデブリに接近し、点検、修理、燃料補給、寿命延長、除去などを行うサービスを指す。

この領域では、対象となる衛星やデブリとの距離、姿勢、回転、形状などを正確に把握しながら、安全に接近する必要がある。特に、対象物が接近を前提に設計されていない場合や、姿勢を制御できない状態にある場合には、接近や捕獲の難度が高くなる。

そのため、軌道上サービスでは、対象物との距離や姿勢を把握しながら、安全に接近・作業するための自律性が求められる。これは、宇宙空間で物理的な対象に接近し、状況に応じて動作するという点で、フィジカルAIの重要な活用領域の一つといえる。

日本企業では、株式会社アストロスケールが本技術を手がけている。同社は、スペースデブリへの接近・観測を行うミッションを通じて、非協力物体への近傍運用技術を実証している。

3. 宇宙ステーションや月面基地での作業支援

宇宙ステーションや将来の月面基地では、設備の点検、物資の運搬、構造物の組み立て、ケーブル接続、修理など、多くの作業が発生する。

これらをすべて人間が行うと、時間、コスト、安全性の面で大きな負担になる。そのため、危険な作業や点検・運搬・組み立てのように継続的に発生する作業を担うロボットの重要性が高まる。

この領域の例としては、宇宙ロボット企業GITAIの取り組みが挙げられる。GITAIは、自律宇宙ロボットの技術実証として、国際宇宙ステーション(ISS)内で構造物の組み立てやスイッチ操作、ケーブル操作などを実施した。また、ISS船外では、宇宙空間での点検・組み立て・製造に関わる技術実証を行っている。

4. 衛星や宇宙機の自律運用

フィジカルAIは、ロボットだけでなく、衛星や宇宙機の自律運用にも関係する。

衛星や宇宙機は、地上からの指示を受けて動くだけでなく、機体の状態や周囲の環境を把握しながら、自ら判断して動作することが求められる場面がある。たとえば、周囲の物体との衝突リスクを把握して軌道を調整する、観測対象に応じて撮影計画を調整する、通信経路を最適化するといった運用が考えられる。

宇宙機が自ら状況を判断できるようになれば、地上からの運用負担を減らし、ミッションの継続性を高めることができる。

特に、衛星コンステレーションのように多数の衛星を運用する場合、すべての衛星を人間が個別に管理することは難しくなる。そのため、衛星同士が連携し、運用を自律的に最適化する技術の重要性も高まると考えられる。

フィジカルAIによる完全自律運用には課題もある

宇宙機やロボットは、一度打ち上げると簡単に修理できない。AIが想定外の判断をした場合、機体の故障やミッションの中断につながる可能性がある。特に、デブリへの接近、ローバーの走行、ロボットアームによる作業などでは、わずかな判断ミスが大きな損失につながることもある。

また、AIの判断によって事故や損害が発生した場合の責任の所在、異常時にどこまで人間が介入できるか、外部からの攻撃や不正操作をどう防ぐかといった課題も残る。

そのため、当面は人間が全体を監視しながら、AIやロボットが一部の判断や作業を自律化する形が現実的だと考えられる。

フィジカルAIは、人間の作業を完全に代替する技術ではなく、宇宙での作業の安全性を高め、人間の活動範囲を広げるための支援技術として発展していくと考えられる。

さいごに

生成AIの普及により、AIは文章や画像を生み出す技術として注目されてきた。一方で、宇宙開発の現場では、ロボットや宇宙機が現実の環境に対応しながら動く技術も欠かせないものになりつつある。

フィジカルAIは、宇宙での探査、作業支援、軌道上サービス、自律運用を支える技術として、今後の宇宙産業の発展に関わる重要な領域になると考えられる。

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