
2025年12月18日、インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)は、小型人工衛星打上げロケット「ZERO」の製造体制強化に向け、福島県南相馬市に東北支社を開設したことを発表した。
本記事では、IST東北支社が担う役割や、南相馬市が選ばれた理由について解説する。
ISTの衛星打上げ用ロケット ZEROとは
インターステラテクノロジズ(IST)が開発を進める小型ロケット「ZERO」は、世界的に不足している小型衛星の打上げ需要に応えることを目的としたロケットであり、最大1,000kg級の衛星を軌道投入可能な設計となっている。
ZEROは、太平洋側に向けて東側・南側の海域が開けている北海道大樹町の宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」に整備される射場を拠点として打ち上げられる計画で、この地理的条件を活かすことで、さまざまな軌道への投入に対応しやすい柔軟な宇宙輸送サービスを目指している。
東北支社の役割
ZEROの製造体制強化へ
今回南相馬市に整備された東北支社では、ロケットの姿勢制御装置やエンジンへの指令を担う「頭脳」となる電子回路(アビオニクス)や射場支援システム、衛星を覆うフェアリングなど、飛行の安全性やミッション成功に直結する重要機器も含めて、開発・製造・試験を担う。施設内には温度試験や振動試験等に対応した設備も導入されており、宇宙環境や打上げ時の厳しい条件を想定した評価を行うことができる。
本施設は敷地面積約17,942㎡、建築面積約2,570㎡の規模を持ち、広いスペースを必要とする量産化にも対応する。これまでISTは南相馬市産業創造センター内で活動してきたが、今回の支社開設により機能が集約・強化され、体制が大きく拡張された形となる。
約30名規模のオフィス機能も整備され、すでに地元採用を含むメンバーが勤務を開始している。また、旧金房小学校跡地を活用して整備された拠点であり、震災後の地域資源活用という意味でも象徴的な存在だ。
東京の拠点と北海道の拠点をつなぐ地理的中継点としての利便性もあり、ロケット開発・輸送の観点でも重要な拠点となる。

南相馬市である理由
南相馬市は、もともと航空機関連をはじめとする製造産業の基盤が強い地域であり、震災からの復興に向けた支援制度が整備されていることも、企業進出の後押しとなっている。特に、航空宇宙産業は国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」における重点6分野のひとつに位置付けられており、企業誘致、研究開発支援、実証環境の整備が一体的に推進されている。
実際に、現在、株式会社ElevationSpace、将来宇宙輸送システム株式会社、AstroX株式会社など、複数の宇宙・先端産業関連企業が南相馬市に拠点を構え、「宇宙産業の集積地」として国内外から注目されつつある。
ISTは2021年7月、ロケット企業として初めて同市に進出した企業であり、今回の東北支社開設は、これまでの取り組みをさらに前進させる発展的なステップといえるだろう。
ZEROへの期待
東北支社の整備によって、ISTは「開発 → 製造 → 試験 → 射場運用」という一連のプロセスを、より効率的かつ安定して進められる体制へと近づいている。
ロケットが一本ずつ特別に作られる機体から、必要なときに確実に利用できる“輸送サービス”へと進化していくためには、安定した製造力や品質を保証する試験体制、地域産業との連携といった基盤づくりが欠かせない。今回の拠点強化は、その土台を固める取り組みだ。
ISTは現在、スタートアップによる研究開発を後押しする文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」の採択企業として、ZEROの開発を進めている。
日本政府は、2030年代前半までに国および民間ロケットを活用し、国内の打ち上げ能力を年間約30件規模にまで高める方針を示しており、ISTは小型ロケット「ZERO」の開発を通じて、日本が自国で衛星を打ち上げられる体制づくりへの貢献を目指している。

さいごに
インターステラテクノロジズが南相馬市に開設した東北支社は、日本の宇宙輸送を民間主導で前進させるための「製造と試験の拠点」であり、国内の宇宙輸送力強化と地方産業振興を同時に進めている。 ZEROが実際に宇宙を目指すその時に向けて、ISTの挑戦はさらに加速していく。







