
世界最大規模の小型SAR衛星コンステレーションを運用するICEYEの日本法人、ICEYE Japan株式会社が、新サービスを相次いで打ち出している。
本記事では、ICEYEの企業概要と最新の取り組みを整理しつつ、これらのサービスが日本における防衛・防災をはじめとする宇宙利用にどのような影響を及ぼすのかを考察する。
目次
ICEYEについて
ICEYE(アイサイ)は、フィンランドに本社を置く小型合成開口レーダー(SAR)衛星の世界最大手である。これまでに54基のSAR衛星を打ち上げ、世界最大級の小型SAR衛星コンステレーションを運用している。
昼夜や天候に左右されず観測できるSAR技術を強みに、取得データを数時間以内、場合によっては数分で提供する即応性を実現。
同社のサービスは、防衛・情報、保険、災害対応・復興、セキュリティ、海事モニタリング、金融など幅広い分野で活用されている。単なる観測データの提供にとどまらず、画像を「即時に使える情報」へ変換することで、現場の迅速な意思決定を支えている。
現在、ICEYEはフィンランド、ポーランド、スペイン、英国、オーストラリア、日本、UAE、ギリシャ、米国に拠点を構え、従業員は700名を超える。
日本法人ICEYE Japanでは2025年9月5日、三菱商事や日本スペースイメージングで航空宇宙・安全保障分野に長年携わってきた塚原靖博氏を新CEOに迎え、日本市場でのプレゼンスをさらに強化しつつある。

防衛・防災を支援するICEYEの新サービス
ICEYE Japanは2025年8月から9月にかけて、二つの新サービスを相次いで発表した。
広域観測モード「Scan Wide」とAI自動識別システム「Detect & Classify」である。いずれも防衛や防災の即応性を飛躍的に高める取り組みとして注目されている。
1|広域観測モード「Scan Wide」
2025年8月に発表された「Scan Wide」は、地上分解能27mで広域を捉えられる新たな観測モードである。1回の撮像で最大60,000km²をカバーし、連続観測により120,000km²まで拡張可能だ。
この広域観測能力により、違法船舶の捜索や石油流出の監視、ISR(情報・監視・偵察)の強化など、多様な海洋・防衛用途での活用が見込まれる。また、既存の「Dwell Precise」(5km×5km・25cm分解能)や「Spot Fine」(15km×15km・50cm分解能)と組み合わせることで、広域から細部までニーズに応じた柔軟な観測が可能となる。

2|AI自動識別システム「Detect & Classify」
2025年9月に発表された「Detect & Classify」は、ICEYEのSAR衛星画像とパートナー企業SATIMのAI技術を組み合わせた自動識別システムである。
本サービスでは、船舶・航空機・車両を対象に90%超えの精度で自動検知・識別し、数分から数時間で即座に活用できるデータを提供する。元画像と識別結果を統合して提示することで、情報の信頼性を高めている点も特徴だ。
これにより、本サービスは、防衛・情報機関における衛星画像解析が専門人材の手作業に依存し、時間を要していたという課題を解決する。
分析部隊は行動パターンを迅速に把握し、戦術部隊は対象を即座に特定、海上部隊は違法船舶を効果的に追跡できる。結果として、防衛領域における意思決定のスピードと精度が大きく向上することが期待される。

「Detect & Classify」にて分析した画像(ICEYE Japan株式会社のPRTIMESから引用)
日本のSAR産業に与える影響
ICEYEの新サービスは、日本の小型SAR衛星市場においても大きな意味を持つことが予想される。
国内ではSynspectiveとQPS研究所の2社が独自の小型SARサービスを展開している。
Synspectiveは25cm×90cmという国内最高水準の高分解能を実現し、インフラ監視や災害対応に強みを持つ。一方で、QPS研究所は46〜180cmの中高解像度をカバーし、最終的に36機体制で「世界のどこでも10分以内観測」を目指しており、防衛・防災だけでなく車両や船舶、人流把握など幅広い応用が期待されている。

これに対しICEYEは、25cm×25cmという世界最高水準を含む複数の解像度と観測モードを備え、広域から精細領域までを一気通貫でカバーできる柔軟性を持つ。
また最大120,000km²の広域観測や数分〜数時間で解析済みデータを提供できる即応性は、国内企業との大きな差別化要因といえる。
ICEYEの参入は、日本のSARプレイヤーにとっては、競合であると同時に共創の可能性を広げる存在でもある。とりわけ、防衛・防災の分野では「広域監視」と「即時解析」が重視されるため、今回のサービスは国内利用の拡大を後押しする可能性も高い。
さいごに
ICEYE Japanが発表した「Scan Wide」と「Detect & Classify」は、同社の強みである高解像度・広域性・即応性をさらに高めるサービスであり、日本の防衛・防災分野を中心に大きな影響を及ぼす可能性がある。
国内ではSynspectiveやQPS研究所がそれぞれの強みを発揮しつつSARデータ市場を開拓しているが、多数の衛星を既に運用し、幅広いユースケースに対応できる点でICEYEは一歩先を行く存在だといえる。
一方で、広域監視と即時解析の観点が重要なSARデータ市場では、競争と同時に共創も求められており、ICEYEの日本市場でのサービス展開は、日本のSAR産業の拡大にも大きく貢献することになるだろう。
参考
世界最大級の小型SAR衛星コンステレーションで防衛・防災を支援する「ICEYE」、最新の広域撮像モード「Scan Wide」を提供開始(ICEYE Japan, 2025-09-05)
ICEYE Japan、代表取締役社長に塚原靖博就任(ICEYE Japan, 2025-09-05)