2024年12月11日、日本酒「獺祭」の製造を手掛ける旭酒造株式会社は、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟内で、人類初となる宇宙空間での酒造りに挑戦することを発表した。
2025年後半に、米(山田錦)、麹、酵母と水を打ち上げて宇宙空間で発酵させて地球に持ち帰り、清酒にして販売するという。本記事では、このプロジェクトの背景や詳細についてご紹介する。
目次
宇宙での酒造り、その背景とは
人類の活動拠点が月へ広がる時代
現在、世界では月や火星に人を送るために様々な探査ミッションが計画されている。
例えば、国際協力によって推進される「アルテミス計画」。同計画は月面に拠点を建設して、2040年代までには数ヶ月以上、人類が月で持続的に活動できる能力を実証し、有人月面探査活動や有人火星探査に向けた準備を行うことを目指すアメリカ主導の計画だ。
日本を含む世界中のおよそ50か国が参加しており、新たな科学的知見の創出や人類の活動領域の拡大、地上における技術革新などが期待されている。
また、アルテミス計画以外にも、中国やロシアなど様々な国が月面での有人活動を目指し、開発を進めているのである。
日本酒を月面生活の彩りに
旭酒造は、人類が長期間を月で暮らす中でお酒は生活に彩りを与える存在になると考えており、将来的に米と、月にあると言われる水を使い、月面で獺祭を造ることを計画している。
お酒にも様々な種類があるが、その中でも日本酒は原料である米の重さが軽いため、月まで輸送しやすいという特徴がある。
というのも、1度のロケット打ち上げで宇宙に輸送可能な荷物の量には制限があり、重い荷物であるほど輸送コストが高額となるのである。
そして、月の南極には水があると言われており、一度製造装置を輸送できれば、あとは米、麹、酵母があれば月で日本酒を醸造することができるのだ。
今回のISSにおける日本酒醸造は、その実現に向けた第一歩。
日本実験棟「きぼう」内で月面の重力である1/6G(地球:1Gの約1/6)を再現し、醸造試験を実施する。ISSにおける日本酒醸造
旭酒造は、2024年7月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「きぼう」有償利用制度に承認されて以降、三菱重工業株式会社および愛知県(あいち産業科学技術総合センター)の協力の元、開発と打ち上げ準備を実施してきた。
「きぼう」有償利用制度とは、ISSの日本実験棟である「きぼう」を民間企業や研究機関が有償で利用できる仕組みのこと。この制度により、利用者は独自の目的で「きぼう」を活用し、その成果を独占的に取得・使用することが可能となる。
1/6Gの再現と醸造装置での発酵
今回のISSにおける醸造試験は月面の重力である1/6Gを再現した環境下で行う。そのために、「きぼう」日本実験棟内に設置されている「細胞培養追加実験エリア(CBEF-L)」が用いられる。
CBEF-Lでは、ターンテーブル上に実験サンプルを配置してテーブルを回転させることで、サンプルに働く遠心力を利用して人工的な重力環境を作り出すことが可能。
今回はCBEF-L内のターンテーブル(画像左下部分)に醸造装置を設置し、1/6Gとなるように回転速度を調整することで月面環境を再現するのだ。
また同社は今回、獺祭の醸造装置内に酒米(山田錦)、麹、酵母を入れた状態でISSに装置を打ち上げる。
そしてISSでは、宇宙飛行士によって原材料と仕込み水が混ぜ合わせられることで発酵がスタート。その後は自動撹拌とアルコール濃度のモニタリングを行いながら、もろみの完成を目指す。
日本酒醸造特有の技術である、麹酵素による原料穀類の液化・糖化と酵母による発酵が並行している発酵形式である「並行複発酵現象」を、世界で初めて宇宙空間で確認する予定だ。
出荷額を全額宇宙開発事業に寄付
旭酒造は現在、醸造装置の開発に取り組んでおり、2025年後半の打ち上げを目指している。
醸造試験終了後は「きぼう」での試験で原材料を発酵させた後にできる醪(もろみ)約520gを冷凍状態で地球に持ち帰り、地上で搾って清酒を製造。
そして分析で必要な量を除き、100mlをボトル1本に瓶詰めする予定だ。
その1本のお酒「獺祭MOON – 宇宙醸造」 は、希望小売価格1億円での販売を予定しており、旭酒造はその出荷額を全額、今後の日本の宇宙開発事業に寄付するとしている。
販売の詳細は別途、改めて発表されるとのことだ。
さいごに
いかがでしたか。
宇宙での日本酒造りは、単なる科学実験に留まらず、将来の人類の月面進出や文化の多様性を象徴する取り組みでもある。
旭酒造の挑戦が成功すれば、日本酒という伝統文化が宇宙時代においても新たな形で息づくことになるだろう。
これからの進展にぜひ注目だ。