Synspectiveと衛星打ち上げの大型契約!Rocket Lab「Electron」が提供する価値とは
©Synspectiveの画像を使用

2024年6月18日、日本の宇宙ベンチャー企業である株式会社Synspectiveが、宇宙輸送サービスを提供する米Rocket Lab社のロケット「Electron(エレクトロン)」で、今後10機の衛星打上げを行うことに合意したことを発表した。

この合意は、Rocket Labにとって過去最大規模であるという。

今回は、SynspectiveがRocket Labと大型打ち上げ契約をするに至った理由をご紹介。Rocket Labの小型ロケットが提供する価値について解説します。

Synspectiveとは

小型SAR「StriX」を開発

Synspectiveは、地球を観測する小型SAR衛星「StriX」の開発・運用から衛星データの販売と解析ソリューションの提供を行う企業である。

SAR衛星はレーダーを利用する衛星で、光学カメラによる観測と異なり、夜間、曇りや雨などの天候にも左右されず定常的にモニタリングが可能。

地表面の形状把握や物体検出を行い、それらの「変化」を分析することで、災害や危機管理、環境モニタリング、サプライチェーン、経済トレンドなどを見える化する画期的な技術だ。

Synspectiveの「StriX」は小型ながら、宇宙空間で展開すると5mの大型衛星と同等となる大きなアンテナを搭載しており、観測面積が大きいのが特徴。

これまでに実証機「StriX-α」、「StriX-β」と商用実証機「StriX-1」、「StriX-3」の計4基を打ち上げ、宇宙での実証に成功している。

「StriX-1」が取得した画像
「StriX-1」が取得した画像 ©株式会社Synspective

目指すはほぼリアルタイムの地球観測

Synspectiveは、「StriX」について、2024年に6機、2020年代後半に30機による運用を計画。

30機を連携させて運用することで、世界中のどこで災害が起きても約数十分から1時間以内でデータを取得して分析することを目指している。

例えば、広域の地盤変動を㎜単位で検出でき、地滑りや地盤沈下のリスク、洪水被害状況、土砂災害や家屋倒壊、火山噴火に伴う火山灰堆積など、災害による被害・変化状況を把握し、対応の意思決定に資する情報を提供。

他にも、風速と波の高さを観測することで洋上風力発電の設計や運営を最適化するサービス、バイオマス量の測定や伐採検知、CO2吸収量産出など森林・植生の維持・管理向けサービスも提供できるのだ。

Rocket Lab「Electron」の概要

今回、Synspectiveと合意を結んだRocket Labは、2006年にニュージーランドで設立された宇宙企業で、ロケットの打ち上げサービス、宇宙船の部品、衛星、軌道上の管理ソリューション等を提供。

現在はアメリカのカリフォルニア州に本社を持ち、宇宙へのアクセスをより早く、より手軽に、かつ手頃な価格で可能にしている。

ロケット「Electron」は同社が設計・製造し、2018年1月の最初の軌道打ち上げ以来、SpaceXの「Falcon9」に続き、アメリカで年間2番目に打ち上げ回数が多いロケットだ。

これまでに190機ほどの衛星を打ち上げており、Synspectiveの衛星についても運用中の4機すべての衛星を打ち上げ、成功させている。

「StriX-3」打ち上げの様子
「StriX-3」打ち上げの様子 PR TIMESから引用

Rocket Labと大型契約を結んだ理由

小型ロケット「Electron」の提供価値

今回、SynspectiveがRocket Labと「Electron」による10機の衛星打ち上げに合意した理由は、同社による過去の実績はもちろんのこと、柔軟な打ち上げスケジュールと各衛星の正確な軌道投入を実現する等、コントロール力にあるという。

柔軟な打ち上げスケジュール

まず、Rocket Labは両半球に3か所の発射台を所有しており、合計で年間最大 132回 打ち上げることができ、打ち上げタイミングは顧客が秒単位でコントロール可能である。

目的地についても、中傾斜軌道、太陽同期軌道 (SSO)、静止トランスファー軌道 (GTO)、地球周回軌道など、様々な主要な軌道に対応。

さらに、ロケットの製造から飛行環境の分析、打ち上げ時のミッション制御など打ち上げに必要なほぼ全てを自社で担っており、打ち上げスケジュール、 目的地等、顧客主導の急な変更をサポートする能力を有している。

軌道コントロール

目的地が複数に分かれている場合でも、それぞれに正確に衛星を運ぶことができるのもRocket Labの強みだ。

「Electron」は、ロケットのエンジン再点火機能により軌道を離脱して移動し、別の軌道に入ることが可能。

他企業のロケットでは、メインの衛星にライドシェアする場合、同じ目的地となるメイン衛星の打ち上げを待ったり、衛星自身で自分の目的地に向かう場合も多いが、「Electron」は複数の衛星をそれぞれ個別の軌道に正確に展開できる。

これまでには、約500kmも離れた2つの異なる軌道に2機の衛星を打ち上げた実績もある。

Rocket Labとの契約で事業拡大を加速

小型衛星を他の衛星のタイミングに左右されず、顧客の希望するタイミングで打ち上げ、目的地等の予定が急遽変わった場合でも迅速に対応できるサービスを提供するRocket Labの宇宙輸送。

Synspectiveは、打ち上げにおいて強みを持つRocket Labとの合意により、よりスピーディーに事業の拡大化を図り、世界中のパートナーとの関係強化や顧客へのサービス提供を拡充できると考えている。

Synspective 代表取締役CEOの新井元行氏は以下のように述べている。

Rocket Lab社は革新的な打ち上げプロバイダーであり、今後、コンステレーション構築を加速させてサービスを拡充する我々にとって、強固な基盤を得て、自信を深める合意となりました。

私たちは引き続き、私たちの世代で、人類の経済活動を、地球環境と資源を考慮した持続可能なものにするために、SAR衛星によるコンステレーション構築から、全球の環境・経済活動の可視化と解析が可能なアナリティクスプラットフォームの構築を目指します。

Synspective 代表取締役CEO 新井元行氏
東京帝国ホテルで行われた調印式の様子。Synspective 代表取締役CEOの新井元行氏、Rocket Lab社CEOのPeter Beck氏、そしてビジネス代表団を率いて来日中のニュージーランド首相のChristopher Luxon氏が参加。
東京帝国ホテルで行われた調印式の様子。Synspective 代表取締役CEOの新井元行氏、Rocket Lab社CEOのPeter Beck氏、そしてビジネス代表団を率いて来日中のニュージーランド首相のChristopher Luxon氏が参加。©株式会社Synspective

なお、今回の合意に関する10機の衛星は、2025年から2027年にかけて打ち上げられる予定だ。

また、Synspectiveは、今回の合意に至った打ち上げの他にも2024年中に2回の打ち上げを予定している。

さいごに

いかがでしたか。

2024年に入って、衛星の打ち上げに成功したり、撮像したデータを活用した地表の動きのテスト計測に成功したりと、勢いがさらに増している同社。

30機の衛星による「地球のあらゆる場所をほぼリアルタイムで観測するサービス」の実現に向けて、着実に歩を進めている。

同社の今後の活躍に注目だ。

参考

Synspective プレスリリース

Rocket Lab HP

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