狙うはインド市場!? 228億円企業Synspectiveの挑戦
©Synspective

2022年8月4日、インドのNeoGeoInfo Technologies Pvt Ltd.(以下、NeoGeo)[※1]は、インドにおけるインフラ管理、公益事業、災害管理、林業、防衛/安全保障において、株式会社SynspectiveのSAR衛星を用いたソリューションサービスを利用するために、二社間で提携を結ぶことを発表した。

今回のパートナーシップ協定を通じて、両者はインドにおけるSAR衛星ソリューションによるビジネス拡大の機会創出を推進するという。

この記事では、日本の宇宙ベンチャー企業として、破竹の勢いで勢力拡大しているSynspectiveについて、軽く紹介した後、今回のニュースの注目ポイントについて記述している。

株式会社Synspectiveとは

株式会社Synspectiveは、2018年2月22日に創業した日本の宇宙ベンチャー企業である。

衛星からの新たな情報によるイノベーションで持続可能な未来を作ることを目指している同社。創業以来、累計228億円の資金調達を達成しており、日本だけでなく世界中からも注目されている。そんな衆目を集める同社の主な事業は2つ。

  • 人工衛星の開発・運用
  • 衛星データ解析によるソリューションサービスの提供

である。ソリューションサービスと聞くと、想像し難いかもしれないが、衛星データを用いて、様々なビジネスに最適化された活用法を提供するクラウドサービスのことを示している。

上記の事業内容だけでは、他の衛星運用企業との違いを認識するのは難しいであろう。そこで同社の開発・運用している小型SAR衛星StriXの魅力について知る必要がある。

SAR衛星とは

同社の衛星の魅力を詳説する前にSAR(合成開口レーダー)衛星とは何かについて説明しておこう。

SAR衛星とは、地球を観測する、地球観測衛星という人工衛星の一種である。この地球観測衛星が取得したデータを画像化したものを、衛星画像という。

一般的に衛星画像というと、空から撮像された画像を想像するであろう。このような画像を撮像するのは光学センサを用いた地球観測衛星だ。光学センサは身近なカメラと同じ原理で、太陽光の反射を観測し、画像化する。

一方、SAR(合成開口レーダー)衛星は、電波の一種であるマイクロ波を用いて地表面を観測する。マイクロ波は、波長が長く、雲を透過。

このマイクロ波を地表に向けて放射した後、反射して返ってきた電波を受信し、画像化するのがSAR衛星である。このため、光学センサでは観測が不可能な曇天時・夜間でも、SAR衛星は地表を観測可能である。

SAR衛星 レーダ
SAR衛星イメージ画像 ©︎Synspective

Synspectiveの小型SAR衛星「StriX」

SynspectiveのSAR衛星は、同社が独自に開発した小型の衛星StriXである。

注目すべき点は、重量コスト

重量は、従来の大型SAR衛星の約1/10である100kg級

コスト面は、開発と打ち上げ費用を合わせ、大型SAR衛星と比較し約1/20の価格帯を実現。大型SAR衛星と同等に近い性能を維持したまま、小型・軽量による低価格化をはかることで多数機生産を可能とした。

同社は今後2023年までに6機、2020年代後半には30機の衛星を宇宙空間に到達させることを目標としている。30機の衛星が低軌道を周回することにより、世界のどの地域で災害が発生しても、2時間以内に観測することが可能となる。

StriXと地球
小型SAR衛星「StriX」©︎Synspective

衛星データのビジネスへの活用

続いて、同社のソリューションサービスの内容について、詳細を記述することにする。同社のソリューションサービスのコアになる技術は、衛星データの解析技術であるが、この技術を駆使することにより様々な情報を、広範囲で取得することが可能である。

例えば、同社の提供する「FDA」(Flood Damage Assessment)は、衛星データの解析技術を用いた災害対応のための浸水被害評価サービスだ。天候や状況に左右されず、広範な地域を迅速に浸水被害の有無を把握。

さらに、AI技術など最先分析手法を活用し、道路・建物などの施設への影響範囲を特定する。

FDAを活用する強みとしては、

  • 浸水被害評価の一次情報の取得
  • 状況把握の所要時間の短縮

この2点が挙げられる。また、実際の活用例として、

  • 損害保険会社における水害リスク査定
  • 金融機関における保有/管理アセットに対する水害被害推定

といったものがあり、様々な業界の課題解決に貢献している。

FDA画像
FDA画像 ©︎Synspective

FDAの他にも、衛星データ解析によって

  • 地表面変動量(mm単位)
  • 土砂災害や家屋倒壊、火山灰堆積など自然災害によって生じた被害・変化状況
  • 海域での洋上風速推定とモニタリング、地形や他洋上風力発電群による影響の把握
  • 樹高推定やバイオマス量推定、林相区分、伐採検知、CO2の吸収固定量算出
  • 持続可能な開発のための実用的な地理空間的情報

といった情報を得ることもできる。

衛星開発からデータ解析、データプラットフォームまでを自社で構築することにより、”高頻度リアルタイム性高分解能” この3つのキーワードを軸としたトータルエコシステムの好循環を生み出している点が他の衛星運用会社とは違う同社の強みであると言えるだろう。

まとめ

ここまでの前提条件を踏まえた上で、今回のニュースの注目ポイントとしては、国内最大規模の資金調達を実現した同社のグローバル展開戦略の大きな一手として、インド市場を押さえに行ったことではないか、と筆者は考えている。

近年、目まぐるしい発展を遂げているインド市場。今も人口が増え続けているインドの経済成長はこれからも著しいと予想される。その一方で、国のインフラ面での課題が山積しているのも事実である。

このような課題に対して、環境に囚われず、大規模な調査・分析ができる同社のソリューションサービスとの相性は非常に良い。

ここにビジネスチャンスを見出し、グローバル展開の大きな足掛かりとして、インド市場を選んだ同社はまさに先見の明があると言っていいだろう。これからもますます目が離せない。

参考文献:

Synspective(シンスペクティブ)が インドのNeoGeoInfo Technologies とSAR 衛星ソリューション活用に向けてパートナーシップ契約を締結

株式会社Synspective 会社情報

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