2023年9月8日、住友商事は、カリフォルニアのロケット開発ベンチャー企業「SpinLaunch」が開発する衛星打ち上げサービスの日本における代理店契約を締結したと発表した。
SpinLaunchは、従来の方法とは一線を画す低コストの衛星打ち上げ技術を開発している企業で、2023年には最も革新的な宇宙企業10社にも名を連ねている。
住友商事は今年7月にSpinLaunchへの出資を果たし、今後は日本の通信事業者や官公庁向けにこの新技術を活用した打ち上げサービスを提供する方針を明らかにした。
今回は、SpinLaunchの技術が社会にどのような影響をもたらし、また、いつ頃から実用化されるのか、同社の開発する打ち上げサービスについて調査した。
SpinLaunchの打ち上げサービスとは
SpinLaunchはハンマー投げの要領で遠心力を活用して、200㎏以下の小型衛星を低軌道に打ち上げるサービスを開発している2014年に設立された宇宙ベンチャー企業。
電気モーターで衛星を載せた小型ロケットを回転させることで、上記のようなサービスを可能にしているという。
このサービスの注目すべきポイントは主に3つ
燃料削減でサステナブル
1つ目は、燃料削減による環境配慮。
従来のロケットと比較すると、燃料の使用量、すなわち二酸化炭素排出量を1/4に削減するという。
SpinLaunchの打ち上げ方法では、高重力かつ空気抵抗の強い範囲であっても、燃料を使用せずに移動することできるため、燃料使用量を大幅に削減することが可能なのだ。
費用面も1/10以下!?
2つ目がサービス提供価格の安さだ。
同サービスでは、再利用可能なモジュールを使用し、燃料コストも削減される。同社の試算によると、衛星の打ち上げ費用が従来のロケット打ち上げの約1/10以下まで抑えられるとのことだ。
オンデマンドでの打ち上げ
3つ目が、打ち上げにおける柔軟性の高さである。
なんと、年間2000回以上、単純計算で一日に5回以上の打ち上げを想定して、設計されているという。
現在、圧倒的な打ち上げ頻度を誇るSpaceXでさえ、およそ4日に1回のペースであることを考えると、この打ち上げ頻度の高さは驚異的だ。
従来では、ロケットの打ち上げ頻度が少なく、衛星側が打ち上げ時期をロケット側に合わせる必要があったが、SpinLaunchのサービスが実現されると、衛星を打ち上げたいタイミングで、すぐに打ち上げることが可能となるだろう。
これまでの流れと現在の開発状況、実用化の時期はいつ?
斬新かつ実現すれば夢のような話でもあるこの打ち上げサービスだが、現段階ではどの程度まで開発が進んでいるのだろうか。
同社は、2015年に開発を始め、2年経たずに先端回転速度の最速記録を達成。
カリフォルニア州の本社にある直径12mの加速器を使用して数百回の打ち上げ試験を実施し、2021年10月には、ロケットの射出に成功した。
その後、ニューメキシコ州のスペースポート・アメリカに直径33mの準軌道加速器を建設。
2022年9月27日の10回目の飛行試験で、NASAやAirbus等のペイロードを搭載した長さ3mの飛翔体を高度7,620mまで打ち上げることに成功した。
今後は、直径100mの加速器を新たに構築し、この100mの加速器によってロケットを高度50~70㎞まで打ち上げ、その後ロケットエンジンを燃焼させることで、搭載した衛星を地球低軌道(高度約400㎞)まで届けるサービスを実現する計画だ。
10,000倍以上の重力への対策で衛星システムを開発!?
実は、このサービスを開発するに辺り、最大の関門になっていたのは、射出時の衛星への負担である。
円運動での加速時では、ロケットに搭載された衛星に10,000倍以上の重力がかかる。その重力が衛星に悪影響を及ぼす可能性があるため、対策が必要であった。
同社は、加速器の重力に耐えることが可能で、かつ従来のロケットに搭載するための資格も満たす衛星のバスシステム(一般的な衛星に共通する、基本的な機能を担当する部分)を開発。
低コストで大量生産が可能、さらに機能ごとに部品化する設計を施しており、衛星開発者は、衛星バスの製造が必要無くなるのだ。
現在、使用用途に応じて、超小型衛星と小型衛星の2種類のバスシステムを開発しているようだ。
さいごに
いかがでしたか。
SpinLaunchは現在、2026年の打ち上げ実現に向けて、大いに走り出している。
今年の4月に財務・ビジネス面で30年の経験を持つ航空宇宙のパイオニア、Dómhnal Slattery氏を戦略アドバイザーに任命。
さらには、5月に財務とコンサルティングで20年以上の経験や多額の資金調達の実績をもつ航空宇宙業界のベテラン、Matthew Mejía氏をCFOに就任させるなど、経営体制を固めている。
SpinLaunchの打ち上げサービスが実現されれば、日本の衛星の打ち上げ機会も増え、衛星を使ったビジネスがより活発に動くことになるだろう。
今後の展開に注目である。
参考
Spaceflight Pioneer SpinLaunch Aims for Liftoff—No Rocket Fuel Required