スペースワン、カイロスロケット3号機の搭載衛星が決定
©Space Connect

2025年8月31日、小型ロケット「カイロス」を開発するスペースワン株式会社は、同ロケット3号機の打上げ輸送サービスについて、国内複数の顧客と契約を締結したと発表した。

本記事では、スペースワンの近年の事業展開と、3号機に搭載予定の衛星の概要を整理している。

スペースワンについて

スペースワン株式会社は、IHIエアロスペース、清水建設、キヤノン電子、日本政策投資銀行などの出資により2018年に設立された民間ロケット企業である。

同社が開発する小型ロケット「カイロス」は固体燃料を採用しており、事前に燃料を充填できるため短時間での打ち上げが可能という即応性を備える。この特性は、防衛分野における迅速な衛星投入のニーズに合致し、商用市場のみならず安全保障の観点からも注目されている。

また、同社は2020年代に年間20機、2030年代には年間30機の打ち上げを目標に掲げている。実現に向け、専用射場「スペースポート紀伊」(和歌山県串本町)の体制強化や、量産に対応したサプライチェーンの整備を進めている。

近年の動向

スペースワンはこれまでに2度の打ち上げを行った。1号機(2024年3月)、2号機(同年12月)はいずれも衛星投入には至らなかったが、原因究明と改良を重ね、開発を着実に継続している。

その一環として研究開発を進めているのが「増強型カイロス」である。

打ち上げ能力や軌道投入精度の向上を目的に、メタンエンジンを含む上段部の性能強化を進めており、防衛省が85億円で発注した「アッパーステージ能力向上研究」の一部を担っている。

増強型カイロスの開発は、文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」にも採択されている。2023年9月の採択以降、2024年9月にステージゲート審査を通過し、2025年2月には追加配分4.1億円が決定するなど、国から継続的な支援を受けている。

2025年5月には、防衛省が進める「多軌道観測実証衛星の打ち上げ」事業において、Space BD株式会社と契約を締結。打ち上げ輸送サービスを担うこととなり、商用需要に加え防衛分野での存在感を一層高めている。

スペースワンの近年の動向
スペースワンの近年の動向 ©Space Connect

カイロス3号機に搭載される衛星

スペースワンが公表したカイロス3号機の搭載衛星は4機。スタートアップから教育機関まで、多様なプレイヤーが参画している。

Space Cubics「SC-Sat1a」

宇宙用コンピュータ開発を専門とするJAXA発ベンチャーで、今回のカイロス3号機には、同社が開発した3Uサイズ(10×10×34㎝)の超小型衛星を搭載。2号機に搭載されていた「SC-Sat1」と同様に、自社開発の宇宙用コンピュータ「SC-OBC Module A1」の耐障害性能を、長期運用を通じて実証する。

テラスペース「TATARA-1R」

2020年創業の小型衛星ベンチャーが開発した70kg級衛星「TATARA-1R」を搭載予定。

2号機に搭載された「TATARA-1」の後継機で、衛星に搭載した小型放出機を用いて複数の超小型衛星を異なる軌道に投入する「人工衛星軌道投入サービス」と依頼を受けた部品やデバイスを衛星に搭載し、実際の宇宙環境で性能を検証する「ホステッドペイロードサービス」の2つの軌道上実証を行う。

TATARA-1R完成イメージ図
TATARA-1R完成イメージ図 ©テラスペース

アークエッジ・スペース「AETS-1」

衛星コンステレーションの設計・量産・運用を手がける同社が開発した3Uサイズの衛星。衛星バス技術の実証を目的とし、6U衛星や100kg級衛星への技術的フィードバックが期待されている。

広尾学園中学校・高等学校「HErO」

広尾学園は、海外大学進学実績でも知られる中高一貫校であり、数年前に生徒が校内で宇宙関連の自主講座を立ち上げたことを契機に同校の宇宙への挑戦が始まった。

今回の「Hiroo Engineering for Orbit(HErO)」は、生徒主体で開発された衛星で、LED光通信により基板の温度情報を地上へ送信するミッションに挑戦する。

さいごに

スペースワンは、増強型カイロスの開発や防衛省関連事業への参画を通じ、商用市場と防衛分野の双方で存在感を着実に高めている。
打上げ時期は未定ながら、3号機は同社の技術的な蓄積を示すとともに、今後の成長戦略を占う重要なマイルストーンとなるだろう。

参考

カイロスロケット3号機の打上げ輸送サービス契約を国内の複数の顧客と締結(スペースワン, 2025-09-03)

2024 年のラウンドにおいて新たに資金調達を実施(スペースワン, 2025-09-03)

文部科学省 SBIR フェーズ 3 事業における追加資金 4.1 億円の配分が決定(スペースワン, 2025-09-03)

防衛省実証事業 多軌道観測実証衛星の打上げ輸送サービスを受注 Space BD と共同で参画(スペースワン, 2025-09-03)

小型ロケットの能力向上の進捗状況について(防衛省, 2025-09-03)

テラスペース、70キロ超小型衛星"TATARA-1R"のカイロスロケット3号機での打ち上げ決定軌道上サービス実証実験を実施(テラスペース, 2025-09-03)

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