『人は亡くなったら、お星さまになる。』
そう豪語するのは、民間で初めて宇宙葬ビジネスを確立させた株式会社SPACE NTK代表の葛西智子氏だ。
宇宙産業と全く関わりのなかった一般人がSpaceXのロケットを利用し、宇宙葬を成功させたことで、世間を賑わせたのは記憶に新しい。
一体、どのような経緯を経て、宇宙葬ビジネスを実現させたのだろうか。深掘りしていくと、そこにはイーロンマスクも唸る美しすぎるビジネスモデルがありました。
そこで今回は、SPACE NTK代表、葛西 智子氏に宇宙SOH(葬・想)ビジネスの全容について聞いて参りました。
(本記事は、vol.1とvol.2の2部作構成になっております、この記事はvol.1です)
SPACE NTKの事業概要
ー 本日はよろしくお願いします。早速ですが、SPACE NTKの事業概要について教えてください。
はい、私、SPACE NTKの代表を務めさせていただいております葛西 智子と申します。
SPACE NTKは、新しい葬儀の形として、世界初の『宇宙SOH(葬・想)』事業を企画している会社です。
ー 宇宙SOH(葬・想)って、宇宙 × 葬式ってことですよね。どのような経緯で宇宙葬に行き着いたのか気になります。
実はもう一つ別の会社を経営していまして、その会社が地球上での葬儀の総合プロデュースをしている会社です。
で、私は業界のプロとして、そこで30年近くキャリアを積んでいるのですが、近年では、墓の維持や購入が手間、子孫に迷惑をかけたくない等、少子化や価値観の変化により、『自然葬』が注目を集めています。
ー 自然葬とはどのようなものですか。
自然葬とは、遺骨をお墓に納めるのではなく、海や山など自然の中に散骨することで、自然と一体化できるという考え方の下、誕生した葬送スタイルのことです。
先程は、少子化や価値観の変化って言いましたが、本質的なところで語ると、現代社会に疲れきった私たちが最期のステージとして、自然回帰に辿り着くのはごく自然な流れだと思っています。
そんな自然葬が近年注目を浴びる中、お客様と向き合い続けているうちに、このような素朴な疑問にぶつかりました。
「自然に還るといった流れの中で海と大地があるのに、なぜ宇宙(そら)はないのだろうか。」
全ては宇宙から始まったことを考えると「宇宙に還る」は、自然葬の本来あるべき姿そのものではないでしょうか。
私自身、幼い頃に母が言った「人は亡くなると、星になって、地上の人たちを見守るんだよ」という台詞が今も強く心に残っています。
ここで『最期は星になりたい』私自身の想いと故人のために『最高の葬送の儀をプロデュースしたい』プロとしての想い、この2つが交わる先はどちらも同じじゃないのかなって思ったんです。
それがすなわち「宇宙葬」。
この1つの結論に辿り着いたのです。
ー なるほど。葬儀の形の完成体、それが『宇宙葬』ってことですね。でもそんな簡単に実現できるものではないですよね...
もちろん、前途多難でしたよ。
最初は、日本のロケット会社を通じて、宇宙葬プロジェクトを計画していたのですが、そもそも日本では民間の人が宇宙ビジネスに入るチャンスはありませんでした。
ー やっぱりそうですよね。事業自体はいつ頃から始動したのですか。
2016年ぐらいから始めました。
今でこそ民間の人にも宇宙ビジネスの門戸は広がってきてはいますが、当時は、宇宙なんて言葉を口にしただけで、もう葛西さん頭がどうかしちゃったんじゃない。
そんな感じでした。
それでもどうしても諦めきれなくて、JAXAの方に日本ではできないとは思うが、アメリカに行ったら民間の宇宙輸送会社がいっぱいあるので、何とかなるんじゃないのかって言われました。
なので、単身でアメリカのスペースポートツアーに行きました。
SpaceXと繋がった経緯
ー 行動力(笑)。そこからイーロン率いるSpaceXのロケットを使用することになったのですね。繋がるまでの過程が知りたいです。
はい、どのような流れでSpaceXと繋がったのかと言いますと、まずアメリカのスペースポートツアーに出向いた際に国際宇宙開発会議というのがあるのを知りました。
実はその時、私は全く英語ができなかったのですが、プレゼンくらいの英語なら多少勉強すればできるかなと思い、もうノリと勢いでしたね。
で、私が参加したロサンゼルスで開催されている宇宙開発会議にゲストスピーカーとして、ジェフベゾス(Amazon創業者、現Blue Origin CEO)が来ていて、世界各国から人が来るわ来るわ。
この流れに便乗して、英語で私もこういうビジネスをしていますって伝えるために、とにかくビラをまきまくっていました。
そこにたまたまいたのがSpaceXの関係者だったわけです。
ー なるほど。泥臭い営業からSpaceXと繋がったんですね。
そうです。その他のロケット会社にも宇宙散骨をしてくれませんかと色々声をかけたのですが、やはり断られましたね。もちろんBlue Originにも。
やはり、いきなりロケットを使って、宇宙葬をやりたいって話をすると、みんな口がポカーンという感じでした。
でも与えるインパクトは強かった印象です。
で、話を聞いて、そういうことだったらって名乗りを挙げてくれたのがSpaceXだったわけです。
たくさんのロケット会社に断られましたが、逆にイーロンマスク率いるSpaceXの人たちは「世界初でしょう、だからやりましょうよ」っていう感じで、私たち以上に乗ってきてくれました。
ー なるほど、SpaceXやはりかっこいいですね。宇宙葬事業をロケット会社に伝える上で懸念点はありましたか。
もちろんいっぱいありました。
やはり宇宙葬の話を世界に発信するとなると、宗教的な問題が絡んでくるんですよね。
最初、宇宙散骨を理解してもらえるまでは、それはもうすごい大変でした。
ただ一度、理解してもらうと今ではどの宗教でも宇宙葬は問題ないんだってことが営業を通じてわかってきて、これはいけるなって手応えに変わっていきました。
きっと宇宙散骨は、世界共通の葬送の儀になり得るものなのかなって。
ー そこに勝ち筋を見出したわけですね。その後、SpaceXとはどのような話し合いが進んだのですか。
これが面白くて。
当初は、御遺骨の一部をSpaceXさんのロケットで上げてもらえばいいなと思っていたんですが、SpaceXからの提案で、「世界初にこだわるなら人一人分も上げちゃいましょう。これなら世界初です」と。
あとは、オリジナルの人工衛星もボックス型ではありますがそれも作っちゃいましょうよっていう提案も向こうからしていただいて。
そこから話がとんとん拍子で進んで、ミッション契約にサインをさせて頂き、事業が始まりました。
宇宙葬のビジネスモデル
ー そのボックス型の人工衛星とはどのようなものですか。
実は見本を持ってきています。
打ち上げている人工衛星はアルミでできているのですが、大きさが20cm×20cm×10cm。
このボックス型の人工衛星の蓋を閉めて、3つ重ねたものをアメリカに持っていき、Falcon9で打ち上げてもらいました。
ー ということは、この人工衛星が宇宙空間に放出されて、軌道を周回するということですか。
厳密に言えば、そういうわけでもないです。
Falcon9の構造を見てもらったらわかると思うのですが、ロケットは大きく分けて、上の三角形の部分と下の部分に分かれるんですよね。
この下の部分が再利用のために地球上に戻って何回も利用するってことで世間では話題になってます。
で、ポイントになるのが、この上の部分。
ここが切り離されて、外側の白い部分がカパッと外れて、宇宙空間に約40社分の衛星が放出される仕組みになっているのですが、衛星を軌道に乗せた後に、この切り離された部分も地球の軌道を周回するんです。
私たちの人工衛星は、この上の外側の部分にくくり付けているわけです。
この上の部分は、5,6年周回した後に大気圏に突入して、燃え尽きて儚く消失してしまうのです。
要するに、星になった故人が宇宙旅行を周回した後、流れ星になって消えてしまうということですね。
ー これ面白いですね。切り離したロケットの上段部分にボックスを括り付けているから、スペースデブリが発生しないってことですね。
はい、そういうことになります。
当然、SpaceXが管理している上層部にくっついているので、変なものが飛んできても避けることができます、ゆえにデブリにはなりません。
私たちのボックス単体を宇宙空間に放出するのであれば、まだ私たちには技術ノウハウがないので、デブリになってしまう可能性も出てきます。
ですが、技術最高峰のSpaceXが監視せざるを得ないシステムを作っているので、この辺りの心配はありません。
ー なるほど、理にかなっていますね。他にも宇宙葬ビジネスの見所ってありますか。
もちろん、あります。
宇宙葬をする上で重要なことって、宇宙を見て、故人を想う環境を整えること。
葬儀のトータルプロデューサとして、ここだけは絶対に外せません。
なので、ご家族や知人の皆様が故人の居場所を常に把握できる仕組み、すなわち位置情報が確認できる環境を整えることが重要だったんですよね。
でも、私たちにはそこの技術的要素を補えなかった。
ですが、今回のようにロケットの上層部に衛星を括り付けることにより、SpaceXが上層部の場所を監視するため、デブリ問題の解決だけでなく、位置情報の把握も実現できるわけです。
実際にQRコードを読み取るといつでも場所がわかるようになってます。
ー なるほど、従来かかるであろう技術・費用的コストを上手い形でカットできています。
ちなみに、位置情報がわかると、地球から500km程離れているので、肉眼では厳しいですが、望遠鏡を使うことで、故人がどの上空にいるのか、理解することができます。
第一弾で宇宙葬を活用して頂いた方は、毎晩QRコードで故人の位置情報を読み取って、お祈りしたりしています。
1日24時間のうちに夜は必ずやってくるじゃないですか。もし大切な人が星になっていれば、毎晩、宇宙を仰ぐと会うことができるわけですよ。
お墓の場合だと、そこに行かないと会うことができないので手間もかかる。
そういった意味でも宇宙葬が一番の供養になるんだなと思っています。
ー なるほど。個人的にこのビジネスモデルの面白いと思った点は、ユーザ側、NTK側、そしてローンチビークル側、全てにデメリットがないモデルを組んでる点ですね。
そうです、実はロケット会社側もデメリットがないんです。
本来、ロケットを打ち上げる際に左右のバランスを取るために重しが必要だったのですが、そこに私たちの人工衛星を括り付けることによって、従来必要だった、重しの代わりにもなっているわけです。
この重しですが、本来、お金を払って装着していたんですよね。
でも、私たちの衛星を重し代わりに使うことによって、SpaceXもお金を払う側からお金をもらう側になる。
つまりマイナスがむしろプラスになるので、SpaceX側もいいことしかないんですよね。
宇宙葬を活用するユーザにとってもメリットがありますし、当然、私たちにもメリットがあります。
3社間のメリット設計ができているからこそ、この宇宙葬ビジネスが成り立っているのです。
ーいや、葛西さん天才ですね。宇宙葬をする上で最も大切にしていることは何ですか。
この宇宙葬に関して大切なことって、人工衛星の質でもなければ、ビジネスモデルでもありません。
あくまで、このサービスを活用してもらった関係者の大切な想いを継承できるかどうか、ここが全てです。
やはり私はどこまでいっても葬儀の総合プロデューサであることに代わりはないので、やはり命の尊厳を大切にし、故人のことを1番に想い、供養するような環境を整えること。
ここに尽きますよね。
なので、当然のことながら、大切な個人のご遺骨を供物としてただ運ぶのは偲びないので、私が直接アメリカの現地まで赴いて、祈りをこめて、Falcon9に結びつけるところまで手配をしています。
公には、軍事基地の中にあるので一切公表できないのですが、全部写真で撮ってお客様にお見せしているので、確実にちゃんと現地に赴いていることは、理解してもらえるようにしています。
ー 宇宙に持っていくのはあくまで手段。本質は葬儀屋ってことなので、これは葛西さんにしかできないビジネスですね。少し気になったのですが、アメリカにご遺骨を運ぶことってできるんですか。
はい、できますよ。
ただ遺骨証明書ってものが実はあって、それをみなさんコピーして、頂いています。
それを持って行くと問題ないです。
今回は税関で引っかかることもなかったですし、ちゃんと手荷物として機内に持ち込んでいます。
ー なるほど、意外でした。あとSpaceXと契約を結んでから打ち上げに至るまでのスケジュールも教えて欲しいです。
そうですね。
私は本当に宇宙開発のこととか全く分からないので、まずはコンサルの方をつけさせて頂いて、SpaceX社とコンサル会社の方、そして私、この三者で協議をしながら話を進めてました。
やはり、大変なことが多かったです。
例えばこのボックス型の人工衛星だけでも重さを測ったりとか、耐震耐熱のテストに耐えられるものでないといけないので、詳細を事細かに聞かれます。
そうなると、簡易ボックスとはいえど、本当に人工衛星を設計している会社に頼み込んで作ってもらったりといった感じですね。
そこからテストに合格するまでなかなか大変だったのですが、だからこそこのボックス型の人工衛星を今後販売するのも需要があるのかなとも思っています。
ー SpaceXとのやり取りは直接アメリカに出向いて実施していたのですか。
全部リモートですね。
リモートになったことで、紆余曲折もありましたが、結果的に契約から打ち上げまで1年半程の短いスパンで実現することが可能になりました。
ー 便利な時代になりましたね。まだまだ聞きたいことがあるので、引き続き色々ご質問させてください。
さいごに
いかがでしたか。
vol.1では、宇宙葬に至るまでの流れを中心に会社の概要について触れましたが、vol.2ではより深いところまで。
葛西智子氏の哲学が詰まった宇宙SOH事業の真髄まで踏み込んでいきたいと思います。
vol.2はより詳細な内容になっていますので、ぜひご覧あれ。
宇宙葬の仕掛け役!? SPACE NTKの全てがわかる vol.2
参考: