シャープ、スマホ技術を衛星アンテナ開発に応用 ~船舶DXの促進へ~
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2024年9月4日、シャープ株式会社は、低軌道/中軌道衛星用の通信アンテナ開発について、船舶向け機器における経験やノウハウを有する古野電機株式会社と協業を開始したと発表した。

また、同月11日には衛星通信アンテナの性能測定を行うための電波暗室をアンテナ開発拠点に新設したことを明らかにした。これにより、衛星通信アンテナの開発を加速していくという。

本記事では、シャープの衛星通信アンテナ開発におけるポイントについて解説する。

衛星アンテナ開発のポイント

シャープは、2023年10月に国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)による「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業」の公募に採択され、11月から低軌道/中軌道衛星向け通信アンテナの開発を行っている。

同社の衛星通信アンテナ開発のポイントは以下の3つだ。

  1. 高品質かつ高速大容量の通信が可能な低軌道/中軌道衛星通信向け
  2. スマートフォン設計技術の活用により、電波の損失が少なく安定的な通信が可能
  3. 小型かつ軽量で、船舶への搭載が可能。将来的にはドローンや自動車への搭載を目指す
LEO/MEO衛星通信の活用イメージ
低軌道/中軌道衛星通信の活用イメージ (PRTIMESから引用)

1. 低軌道/中軌道衛星通信の有用性

衛星通信は従来より、海上や山地、島しょ部など通常のモバイルデータ通信が困難なエリアで活用されてきた。

これまでは赤道上空約36,000㎞の静止軌道上にある静止衛星を利用した通信が主であったが、近年は高度数百㎞から数千㎞の低軌道~中軌道上を周回する衛星を多数打ち上げ、連携させて運用する(コンステレーション)方式が増加。

地上との距離が近い低軌道や中軌道の衛星を利用することで、通信遅延の少なさ通信品質の向上が期待できる。

海上を航行する船舶においても、セキュリティの常時監視等により高品質かつ高速大容量の通信の需要があるため、その導入拡大が期待されているのだ。

2. スマートフォン設計技術を活用

衛星通信アンテナを開発するにあたり、同社はスマートフォン設計で培った様々な技術を積極的に活用していく。

実は、スマートフォンと衛星通信アンテナに必要な技術には多くの共通する技術が存在する。例えば、以下のような技術である。

  • スマートフォンのジャイロセンサー:衛星通信アンテナの自動追尾システムに応用される。常に移動する衛星に向けて正確に電波を送受信するためにアンテナの位置や方向を微調整することが可能。
  • 高周波技術:衛星では、スマートフォンと同様に高周波の電波を利用して情報をやりとりするため、かかせない技術。
  • 高効率放熱技術:通信時に発生する熱を効率よく放散するための技術。

さらに、小型・軽量なアンテナの開発という点では、スマートフォンの小型化技術をそのまま活かすことができるだろう。

3. まずは船舶、将来はドローンや自動車に

現在、シャープは船舶向け衛星通信アンテナの早期実用化を目指している。これにより、航海時の通信環境の向上に加え、船舶業務のDX促進に貢献する。

2024年9月より舶用電子機器分野大手の古野電気と協業を開始しており、船舶分野における専門的な知見や支援を得て開発を加速。同月中旬には、両社で連携して実証実験を実施する予定だ。

実証実験では、古野電気の実験艇に開発中の衛星通信アンテナを搭載し、海上の試験用コースを航行。

橋などの障害物のほか、船体の向きや速度が通信へ与える影響など、航海中のさまざまな状況下における実用性と課題を検証する。

実証実験で使用する古野電気の実験艇
実証実験で使用する古野電気の実験艇(PRTIMESから引用)

将来的には、幅広い周波数に対応することで異なる周波数の電波を使用する衛星にも対応可能とし、さらなる小型化も目指すようだ。

ドローンや自動車などに搭載することで、山地や災害時における被災地の通信回線確保に貢献。

さらに、天候や道路状況などの情報をリアルタイムで取得することが求められる自動運転車への活用など、モビリティ分野での用途開発にも取り組むとしている。

性能測定が可能な最新設備で開発加速

コンパクトな空間で高精度測定を実現

シャープは衛星アンテナの開発を加速させるため、低軌道/中軌道衛星通信アンテナの性能測定が可能な電波暗室を新設。2024年9月12日から運用開始した。

衛星通信アンテナの開発には、アンテナの指向性や感度、信号の品質などについて設計通りの性能が発揮できているかを、外部の電波の影響を受けない環境で正確に測定・確認することが不可欠である。

同社の電波暗室は、コンパクトな空間でアンテナの性能を高精度に測定できるCATR(Compact Antenna Test Range)方式を採用。同方式では天井・壁・床の6面を電波吸収材で覆うことで電波の反射を抑え、パラボラ反射鏡を用いることで同心円状に広がっていく電波を一方向に進む電波に変換。

これにより、通常は十分に長い距離を必要とする「衛星から届く電波」の再現を、短距離で実現した。

例えば口径80cmの衛星通信アンテナの性能を測るには、一般的な電波暗室では60m以上の幅の空間が必要であるが、同社の電波暗室ではわずか約7m幅のコンパクトな空間の中で、高精度な測定が可能になった。

同社は、この暗室を衛星通信アンテナの開発を行う幕張事業所に設置。試験や測定を迅速に行い、商品化に向けた開発スピードを加速していくのだ。

SHARPの電波暗室
SHARPの電波暗室(PRTIMESから引用)

次世代スマートフォンにも活用

また、新しく設置した衛星アンテナの性能を測定する電波暗室は、衛星通信に使用される周波数帯の電波の測定だけでなく、6Gの周波数帯として注目される電波の測定にも対応。

次世代スマートフォンなど、さまざまな製品の試験や技術検証にも活用していくという。

さいごに

いかがでしたか。

シャープの衛星通信アンテナ開発は、船舶だけでなく、将来的にはドローンや自動運転車など、さまざまな分野において活用されることが期待されている。

これからの展開に注目だ。

参考

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