2023年9月29日、文部科学省が、中小企業イノベ―ション創出推進事業の宇宙分野における事業テーマについて公募選定結果を発表した。
この公募は、プログラムによっては最大140億円の支援を受けることができる、非常に大きな中小企業(スタートアップ)支援制度である。
宇宙分野では①民間ロケットの開発・実証、②スペースデブリ低減に必要な技術開発・実証の2つのテーマで募集されており、①民間ロケットでは応募した10社のうち4社、②スペースデブリでは応募3社のうち3社が採択された。
本記事では、この公募の背景を説明するとともに、採択された7社の事業について紹介する。
中小企業イノベーション創出推進事業とは?
「中小企業イノベーション創出推進事業」とは、スタートアップによる研究開発とその成果の社会実装を国が一貫して支援することで、日本のイノベーション創出を促進することを目的とした制度(SBIR(Small Business Innovation Research)制度)に基づく事業である。
SBIR制度に基づく事業は、防衛省や環境省など様々な省庁や機関が各々運営しているが、今回の事業は文部科学省が実施。
宇宙分野、核融合分野、防災分野のスタートアップが、技術実証を実施する場合に国がその経費を補助することで、スタートアップの有する技術が、実際の社会生活に普及させることを目的としている。
宇宙分野公募の背景
この事業の宇宙分野では、民間ロケットの開発・実証に総額350億円、スペースデブリ低減に必要な技術開発・実証に総額206億円の補助金が充てられた。
支援は3段階に分かれており、採択された企業は次の段階に進むときに審査を受ける。ロケット開発分野に関しては、ステップが進むにつれて採択企業は少なく、支援額は高くなる仕組みとなっている。
今回の事業はかなり大きな金額の補助金であるが、この公募はどのような背景で、どんな社会を目指したものなのだろうか。
①民間ロケットの開発・実証
今後10年間で100機以上の衛星打ち上げ需要!?
政府が民間ロケットの開発・実証を支援する目的は、多くの打ち上げ需要に応えるとともに、安定的に衛星を日本から、日本のロケットで打ち上げるためである。
日本だけでも今後 10 年間で 100 機以上の衛星打ち上げ需要が見込まれていることに加え、戦争等、国際情勢の不確実性に伴い、海外での衛星打ち上げが難しいケースも出てきているため、国内での打ち上げ需要は一層高まっている。
また、日本の衛星を海外で打ち上げる場合、海外のロケット会社に打ち上げ料を支払うことになるので、国費の流出にも繋がってしまうのだ。
しかし、現時点では民間企業の衛星打ち上げロケットは実現されていない。
そのため、優れたスタートアップ企業の事業化・成功を後押しするための資金や政府の支援が今まさに必要な状況であるのだ。
国内全ての衛星を日本のロケットで打ち上げ可能に
そして、今回の事業でロケットを開発するスタートアップへ支援を行うことで、2028 年度以降、国内の全ての衛星が、JAXAや日本の企業が開発したロケットを用いて打ち上げることが可能となるとともに、海外の衛星も打ち上げていくことを目標としている。
この事業を通じて、宇宙基本計画が掲げる「2020 年に 4 兆円となっている市場規模を、2030 年代の早期に 2 倍の 8 兆円に拡大していく」ことに貢献すると同時に、本事業の対象企業が、この事業における投資額の8倍以上の累計売上高(米国SBIR 投資による成果実績と同等以上)を獲得していくことを目指している。
②スペースデブリ低減に必要な技術開発・実証
世界中で未だ技術確立せず
宇宙空間におけるスペースデブリ(ロケット上段や運用を終えた衛星、破片等)が年々増加し、人工衛星やスペースデブリ等の物体同士の衝突リスクが上昇しているということはよく話題に挙げられている。
スペースデブリを抑制するためには、
- スペースデブリとなった物体を安全に除去すること
- 今後スペースデブリを増やさないこと
が重要となるが、世界の様々な企業が技術開発を進めているものの、本格的な技術の確立・サービス提供には至っていない。
このため、2027 年度をターゲットに、軌道上でスペースデブリとなった衛星等の除去を行うための技術開発や小型衛星等が運用終了後に速やかに軌道離脱するための技術開発、またこれらの開発成果を利用したサービスの事業化の世界展開を目指すスタートアップ企業を支援するため、公募が出されたのだ。
目指すは軌道上サービスの世界市場でシェア10%以上!
スペースデブリ低減のための技術は、衛星不備により運用を終了した衛星の故障原因究明や、軌道上環境の把握、今後の市場拡大が予想される燃料補給や修理等の軌道上サービスの実現にも寄与することが期待される。
そのため、今回の事業によって、軌道上サービスに関連する世界市場において、事業終了後 5 年以内に、本事業の支援対象企業が、本事業における投資額の 8 倍以上の累計売上高を獲得することを目標としている。
あわせて、当該企業が、この世界市場規模(2020~2030 年で推計 1.6 兆円)においてシェア 10%以上を獲得することも目指しているのだ。