
2026年2月12日、QPS研究所は、小型SAR衛星 QPS-SAR5号機「ツクヨミ-Ⅰ」 の商用運用を再開したと発表した。
同衛星は一時、通信系の不具合により運用継続が困難な状況に陥っていたが、その後の復旧作業により再び観測データの取得と提供が可能となった。
本記事では、復旧に至るまでの経緯を整理し、この事例が示す技術的意義と事業面での影響について解説する。
QPS-SAR5号機「ツクヨミ-Ⅰ」これまでの経緯
今回発生したQPS-SAR5号機「ツクヨミ-Ⅰ」の故障から復旧までの経緯は、以下の通りである。
2024年9月|通信系の不具合を確認
同衛星は、2024年9月、地上からの指令受信および衛星状態のモニタリングに関わる通信系統のうち、衛星側送信部に不具合が発生していることが確認された。
発生原因については、宇宙空間における放射線の影響を受けた電気系統の故障である可能性が高いと説明されている。これを受け、QPS研究所は通信系統の切り替え作業を開始した。
2025年7月|一部通信が復旧
不具合が確認された系統を介さない経路での通信確立に成功。
ただし、通信の安定性およびサービス品質の観点からは、定常運用に必要な水準の稼働状態には回復しておらず、商用サービスへの復帰には至らなかった。
2025年8月|SAR画像の取得に成功
段階的な機能確認の結果、SAR画像の取得に成功。姿勢制御系および電源系は正常に稼働していることが確認され、通信系も限定的ながら安定傾向を示した。
一方で、通信系を中心とした制約は依然として残っており、商用ミッションに参加できる状態ではなかった。
2026年2月|品質確認を経て商用運用を再開
取得されたSAR画像の品質が商用利用に耐えうる水準であることが確認され、ミッション運用が可能な状態に回復した。
これを受け、QPS研究所は商用運用の再開を発表。今後はアーカイブ画像の取得・提供を経て、通常の商用サービスに正式に組み込まれる段階に入る。

衛星復旧の難しさ
QPS-SAR5号機「ツクヨミ-Ⅰ」は、通信系不具合の確認から商用復帰まで約1年半を要した。
この経過が示す通り、軌道上衛星の復旧は短期間で完了するものではない。通信の再確立、機能確認、データ品質の検証といった工程を段階的に積み重ねる必要がある。商用復帰までに長期間を要する事例も少なくない。
その背景には、軌道上運用特有の制約がある。
宇宙では物理的修理ができない
人工衛星の運用において最大の制約の一つは、軌道上での物理的な修理が基本的に不可能である点にある。
地上の機器であれば部品交換や直接点検が可能だが、宇宙ではすべて遠隔操作によって対応しなければならない。とりわけ通信が途絶した場合、状態把握すら困難になり、復旧の難易度は飛躍的に高くなる。
重大な通信障害が発生した場合、機能制限運用へ移行する、あるいは運用停止に至るケースも珍しくない。
完全復旧は非常に稀なケース
今回の事例が注目される理由の一つは、通信の再確立だけでなく、観測機能を含めた実運用レベルまで回復させた点にある。
衛星のトラブル対応では、故障箇所を特定するだけでは十分ではない。利用可能な機能を前提に運用方法を見直し、状況に応じて手順を組み直していく必要がある。
こうした対応は機体の性能だけで決まるものではなく、運用の設計力やソフトウェア制御のノウハウが大きく問われる領域である。今回の復旧は、そうした運用技術が実際に機能した事例といえる。
エンジニアの声
今回の復旧について、QPS研究所のエンジニアは次のように振り返っている。
宇宙にある人工衛星は直接見えず、修理しに行くこともできません。特に5号機については通信することもできない状態が続き、考えられる復旧方法は限られていました。
開発時と同じように検証を重ね、粘り強く地上から信号を送り続けた結果、衛星との通信が再開できたときには管制室に歓声が上がりました。
その後も商用運用に向けた調整を進め、今回の発表に至りました。
このような現場の試行錯誤は、衛星運用が単なる機器の管理ではなく、長期間にわたる地道な運用技術の積み重ねによって支えられていることを示している。
さいごに
今回のQPS-SAR5号機「ツクヨミ-Ⅰ」の完全復旧は、軌道上トラブルから商用レベルへ復帰した事例として注目される。
宇宙ビジネスにおいて重要なのは、衛星を打ち上げる能力だけではなく、長期間にわたり安定して運用し続ける能力である。コンステレーション時代には、多数の衛星を同時に管理し、異常に対応しながらサービスを継続することが不可欠となる。
その意味で、今回の復旧は「運用技術の成熟」を示す象徴的な事例であり、今後のSAR衛星ネットワーク構築においても重要な経験として活かされていくことになるだろう。
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参考
小型SAR衛星QPS-SAR5号機「ツクヨミ-Ⅰ」商用運用の再開に関するお知らせ(QPS研究所, 2026-02-16閲覧)








