2023年12月20日、株式会社Pale Blueは東京計器との協業を発表し、小型衛星用の水エンジンの量産化に向けた試作機の製造と組み立てを開始したことを明らかにした。
この協業は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のディープテック・スタートアップ支援基金(DTSU事業)の一環として行われる。
本記事では、Pale Blueが水エンジンの量産化に向けて東京計器と協業することとなった背景についてご紹介します。
Pale Blueとは
Pale Blueは、安全で環境に優しい「水」を燃料とする人工衛星用のエンジンを開発している企業。
水エンジンの中でもトップレベルの推進力を実現し、低コストでの提供を可能にしている。
水エンジンはこれまでにソニーのプロジェクト「STAR SPHERE」で開発された衛星「EYE」に搭載されるなど、宇宙での運用実績も持つ。
また、小型衛星の開発・利用で有名な韓国の延世大学から注文を受けるなどしており、国内外での需要が高まっているのだ。
協業の背景
NEDOの支援事業に採択
東京計器との協業の背景にあるのは、NEDOが実施するディープテック分野のスタートアップ企業を支援するプログラム(ディープテック・スタートアップ事業)だ。
NEDOは国や経済産業省から予算を受けて政策や制度をもとに技術戦略の策定やプロジェクトの企画立案を行い、産学官の連携や様々な支援を通じて技術開発や社会実装を促進する役割を持つ。
その中で、ディープテック・スタートアップ事業は経済産業省が策定した方針に基づいて2023 年度から 2027 年度まで実施。
「実用化研究開発(前期)」、「実用化研究開発(後期)」、「量産化実証」の3つのフェーズに区分されており、Pale Blueは量産技術の確立を支援する量産化実証のフェーズで採択された。
量産化の必要性
ディープテック・スタートアップ事業におけるPale Blueのテーマは「水を推進剤とする人工衛星用推進機の量産技術の確立」である。
近年は世界的に衛星の製造・打ち上げ市場が拡大しており、それに伴い衛星用エンジンの需要も増加している。
現在、地球低軌道を周回する小型衛星の中にはエンジンが搭載されていない例も多く見られるのだが、最近はスペースデブリ化防止のために運用が終了した衛星を軌道から離脱させることが重要となっており、そのためにもエンジンの重要性は増している。
同社は今後の事業拡大のために低価格・短納期・安定した品質で量産可能な生産能力を必要としているのだ。
東京計器との協業に至った理由
Pale Blueは、エンジンの量産技術の確立に向けて試作機のサブシステムの製造組立を東京計器と共に実施する。
東京計器は、国内初の計器メーカーとして明治時代に創業し、現在は、民間・官公庁両方の事業で社会インフラを支えているBtoB企業。
幅広い事業分野を有しており、船舶港湾、産業機械、建設機械、上下水道、防衛、鉄道などの安全安心に貢献する製品を提供している。
Pale Blueが東京計器との協業に至った主な理由は以下の3つ。
- 長期ビジョンの成長ドライバーとして宇宙事業を掲げていること
- 2023年に衛星機器の組み立てや試験を行う施設を新たに建設し、宇宙事業の拡大を図っていること。
- 宇宙ベンチャーであるSynspectiveとも小型衛星の量産工場のパートナーとなった実績があること
両社は量産技術の確立に向けて、製造や組立手順に基づき複数台の量産試作機を製造し、コストや製造期間、品質の評価を実施する予定だという。
さいごに
いかがでしたか。
Pale Blueの代表取締役である浅川純氏は、今回の協業について以下のように話している。
一度宇宙に打ち上げると修理ができないことや、宇宙空間という特殊な条件の中で要求されるような品質、費用、納期のバランスをとっていくことが宇宙機器の量産化の難しいところです。
「宇宙機器の量産化は業界全般の課題であり、成功している企業は世界にも多くはありません。
Pale Blueとして、製品に対して今の市場環境に合った基準を作っていく形で、東京計器さんとともに事業拡大に取り組んでいきます。」
株式会社Pale Blue 共同創業者兼代表取締役 浅川 純氏
宇宙機器の量産化技術は同社だけでなく、日本、そして世界の課題となっている。
同社と東京計器の連携により量産技術のスタンダードが確立し、日本の宇宙産業に新たな価値が生まれることに期待したい。