宇宙ゴミの除去技術で地球観測も!?世界初を目指すスカパー発 ベンチャー「Orbital Lasers」とは
©Orbital Lasersの画像を使用

2024年1月30日、スカパーJSAT株式会社は、宇宙事業領域の拡大を目指し、社内スタートアッププログラムから始まったレーザーを用いた宇宙ゴミの除去プログラムを次のステージへ進めるため、2024年1月12日に「株式会社Orbital Lasers(オービタルレーザーズ)」を設立したことを発表した。

Orbital Lasersは宇宙ゴミ除去事業で開発するレーザー技術をさらに活用・発展させることで、レーザー光により高精度に地表面の情報を取得する衛星ライダー事業の拡大も目指す。

宇宙ゴミをレーザーで除去する衛星ミッションに成功すれば世界初、衛星ライダー事業に成功すれば民間事業者として世界初[*1]となる。

本記事では、同社のこれら2つの事業についてご紹介します。

※1:スカパーJSAT株式会社調べ

スカパーJSATの宇宙事業

スカパーJSATは、1989年に日本の民間企業初の通信衛星JCSAT-1を打ち上げて以来30年以上にわたり国内外へ衛星通信サービスを提供してきた企業。

メディア事業では、有料多チャンネル放送「スカパー!」、動画配信サービス「SPOOX」に加え、インターネットや光回線を経由した視聴サービスの提供など、約300万件の顧客基盤をベースに多様な視聴ニーズに対応したサービスを提供している。

一方、宇宙事業としては、宇宙から海洋まであらゆる空間をビジネスフィールドとし、アジア最大規模の静止軌道衛星や低軌道衛星などを活用して事業を実施。

衛星通信サービスの提供のみならず、衛星データを利用したサービスの開発、使用済み人工衛星などの宇宙ゴミを除去する衛星の設計・開発など、様々な宇宙事業を行っている。

スタートアップの立ち上げにも積極的で、これまで衛星データ解析サービスを提供する「衛星データ企画株式会社」や、宇宙光通信技術の開発などにより地上と宇宙を統合したネットワークサービスの提供を目指す「株式会社Space Compass」の設立を手掛けてきた。

今回設立した「Orbital Lasers」は、スカパーJSATが国立研究開発法人理化学研究所や名古屋大学、九州大学と進めてきた宇宙ゴミをレーザーで除去する衛星の設計・開発事業から誕生した企業である。

Orbital Lasersとは

Orbital Lasersが取り組む予定の事業は主に2つ。宇宙ゴミ除去事業と、衛星ライダーによる地球観測事業だ。

©株式会社Orbital Lasers

宇宙ゴミ除去事業

Orbital Lasersの宇宙ゴミ除去事業では、小型衛星から宇宙ゴミに向けて遠隔からレーザー照射することで宇宙ゴミの軌道を変え、ゆっくりと地球大気圏に落下させる方法を使用する。

宇宙ゴミを除去する他の方法として、ロボットアームやネットで宇宙ゴミを回収して大気圏に再突入するなどの様々な方法があるが、同社の用いる方法の主な利点としては以下の3つ。

  • 宇宙ゴミ除去衛星と宇宙ゴミが直接接触しないため両者が衝突する危険性が低いこと
  • 適切なタイミングでレーザーを照射することで、物体の回転を止めることができること
  • 宇宙ゴミをレーザーで移動させるため、衛星が宇宙ゴミを移動させるための燃料が必要なく、経済性が高いこと

スカパーJSATがレーザーによる宇宙ゴミ除去事業について共同研究を行ってきた理化学研究所は小惑星探査機「はやぶさ」のレーザー測距機など、レーザーの基礎開発に実績がある。

また、名古屋大学はレーザーの照射方法の研究、九州大学は宇宙ゴミの回転運動についての研究を行ってきた。

Orbital Lasersでは、これらの研究成果をもとに事業化を促進。

宇宙ゴミ除去サービス事業者向けに、宇宙ゴミの姿勢を安定させるためのレーザーの販売(1)と、レーザーを使用した宇宙ゴミ除去サービス(2)を行っていくという。

  1. DTB(Detumbling)事業:2025年度に発売予定
    回転している宇宙ゴミを停止させ、除去を行いやすくする。
  2. ADR(Acticve Debris Removal)事業:2029年度に提供開始予定
    宇宙ゴミを除去するサービス
©スカパーJSAT株式会社 ©株式会社Orbital Lasers

衛星ライダー事業

Orbital Lasersでは、宇宙ゴミ除去事業で得たレーザー技術をさらに発展・活用させることで、衛星ライダー事業に取り組む。

衛星ライダーとは、衛星からレーザーを発射し、地表で跳ね返ってきたレーザーを捉えて分析することで高精度な地表面情報を取得する技術である。

似たような技術にSAR衛星という、電波を発射し、跳ね返ってきた電波を捉えることで地表面を観測する衛星もあるが、衛星ライダーで用いるレーザーはSAR衛星で用いる電波では通り抜けてしまうような小さなものでも観測可能

さらに、照射する面積を電波よりも小さくすることができるため、細かい観測や、距離の精度が高い計測ができる。

日本ではまだライダー衛星はないが、データを取得できれば建設工事やハザードマップに利用される3次元地図を高精度化できたり、森林の量(木の面積×高さの総和)を求めることでCO2の吸収量をより正確に求めることができたりするのだ。

こちらのサービスは、現時点ではサービスの提供時期は未定。

現時点では、実現すれば民間事業者として世界初となる。

Orbital Lasersの事業の必要性

Orbital Lasersの事業の1つである宇宙ゴミ除去事業は、宇宙産業が拡大している現在、非常に重要な事業である。

欧州宇宙機関の情報によると、2023年12月時点での宇宙ゴミの数は、判明しているものだけでも10㎝以上が約36,500個、1㎝~10㎝が約100万個、1mm~1㎝が約1.3億個。さらに、運用中の衛星が9,000機、軌道が判明している宇宙物体が約35,150個もある。

宇宙空間には大量のごみ、衛星があり、衛星の打ち上げ数が増加している現在、宇宙にある物体同士の衝突のリスクは年々高まっているのだ。

日本の宇宙ベンチャーであるアストロスケールをはじめ、宇宙ゴミ事業には様々な企業が取り組んでいるが、いまだ既存の宇宙ゴミ除去に成功した企業はない。

この課題の一刻も早い解決が求められているのだ。

宇宙ゴミのイメージ図 ©九州大学 ©SKY Perfect JSAT

さいごに

いかがでしたか。

今回は、スカパーJSAT発のスタートアップ企業「Orbital Lasers」についてご紹介しました。

実現数が少ない技術の確立に取り組む同社の今後の活躍が楽しみです。

参考

スカパーJSAT発スタートアップ 「株式会社Orbital Lasers」設立のお知らせ

世界初、宇宙ごみをレーザーで除去する衛星を設計・開発

宇宙用ライダーで地球観測の新たな利用を拓く

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