7機体制へ前進!みちびき6号機が7月から本格運用、4つのサービスを強化
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2025年6月10日、内閣府宇宙開発戦略推進事務局は、同年2月に打ち上げた準天頂衛星「みちびき6号機」ついて、2025年7月18日より順次、「衛星測位サービス」「高精度測位補強サービス」「SBASサービス」「信号認証サービス」の4つを提供開始することを発表した。

本記事では、準天頂衛星システム「みちびき」の概要、そして6号機が新たに加わることで提供体制が強化される4つのサービスについて解説する。

準天頂衛星システム「みちびき」とは

準天頂衛星システム「みちびき」の概要

準天頂衛星システム「みちびき」は、日本が独自に整備を進める衛星測位システムであり、いわば「日本版GPS」とも呼ばれる存在だ。

上空にある複数の衛星からの電波を受信し、地上で正確な位置情報を算出するこの技術は、カーナビやスマートフォンの地図アプリをはじめ、自動運転、ドローン、測量、農業など、日常や産業における多様な場面で活用が広がっている。

アメリカが提供するGPSとみちびきの主な違いはサービスを提供する範囲にある。

GPSは地球全体を対象とするグローバルな測位システム(GNSS)であるのに対し、みちびきは日本を中心としたアジア・オセアニア地域に特化し、GPSなど地球全体を対象とした測位システムの測位精度や安定性を高める役割(RNSS)を担ってきた。

独自の軌道と運用体制

衛星測位において重要な要素のひとつが、「地上から衛星がどれだけ見えやすいか」だ。地上で高精度な位置情報を取得するには、4機以上の測位衛星から同時に信号を受信する必要がある。そのため、衛星の数が多く、安定して見える時間が長いほど、測位精度は向上する。

また、特定の方向に衛星が偏って見えている状態では、測位誤差が大きくなる傾向があるため、天空全体に衛星がまんべんなく散らばっていることも、精度確保の鍵となる。

みちびきはこうした課題に対し、静止軌道(GEO)と準天頂軌道(QZO)という2種類の軌道に衛星を配置することで、「見えやすさ」と「配置のバランス」を両立させてきた。

準天頂軌道に投入された衛星は、北半球では地球から遠い高高度をゆっくり通過し、南半球では地球に近い低高度を高速で通過するという特異な軌道を描く。これにより、衛星は日本の上空に長くとどまりやすくなる。

従来では、この軌道に3機を配置し、それぞれが交代で天頂付近に位置することで、常に1機が日本の真上にいる状態を維持。

さらに、日本からは南の低い空に見える赤道上空に、地上から見て常に同じ位置にある静止衛星を1機追加し、合計4機体制とすることで日本全体に対する衛星の分布を最適化。この体制で、GPSなど他国のGNSS衛星の信号を補強し、測位精度や安定性を高めてきた。

測位衛星システムの概要・GNSSとRNSS
測位衛星システムの概要 ©Space Connect

みちびき 7機体制への強化

2018年11月から4機体制での測位サービスを提供する準天頂衛星システム「みちびき」は現在、7機体制の構築に向けて開発・整備が進められている。

みちびき6号機は、7機体制に向け新たに追加される3つの衛星のうち、最初に打ち上げられた衛星である。

7機体制で運用する主なメリットは以下の2つ。

準天頂衛星システム「みちびき」7機体制のメリット ~精度向上と自立性の確保
準天頂衛星システム「みちびき」7機体制のメリット ©Space Connect

まず、7機体制になることで、日本上空からは常に4機のみちびき衛星が見える状態となり、海外の衛星に頼ることなく、高精度な位置情報の取得が可能となる。

そして、6号機を含む追加の3機には、新たな高精度測位技術「ASNAV(Advanced Satellite Navigation System)」が搭載されており、以下の2つの要素によって測位精度が向上する。

  • 衛星間測距システム:衛星同士の距離を測定することによって、衛星間の位置誤差を減らし、精度を向上させる。
  • 衛星/地上間測距システム:衛星と地上の間で双方向で距離を測ることにより、これまで衛星・地上双方の時刻情報により信号の到達時間から計算して求めた際の距離誤差を打ち消し、測位精度をさらに高める。
衛星測位システムでは、地上の位置情報を「距離・速さ・時間」の関係から算出する。そのため、衛星が持つ時刻情報や軌道上の位置について、地上とのズレがあると測位誤差が生じる。

ASNAVではこの誤差を抑え、より高い測位精度を実現。全てのみちびきの機体にこの機能が搭載されると、スマートフォンやカーナビを使ったユーザーの測位誤差範囲は5~10mから1mまで小さくなる見込みだ。

また内閣府は、どの衛星が故障しても測位機能を維持できるよう、将来的には11機体制の実現を目指している。

内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より ~衛星間測距機能と衛星・地上間測距機能
内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より

みちびき6号機で利用できるサービス

2025年7月18日以降、みちびき6号機が運用を開始し、既存のサービス提供体制に加わることで、準天頂衛星システムの機能がより安定・強化されることになる。

ここからは、みちびき6号機が対応する4つのサービスについて、それぞれの特徴と意義を解説していく。

1. 衛星測位サービス

衛星測位サービスは、前章までに述べてきたように、みちびきがGPSと互換性を持つ測位信号を発信し、「みちびきがGPS衛星と同等になる」ことでGPSを補完する役割を果たすものである。

従来、都市部では高層ビルなどに遮られGPS信号が不安定になることがあったが、日本上空のほぼ真上から信号を送信できるみちびきの追加により、安定した測位が可能となる。

しかし近年では、ヨーロッパの「ガリレオ」や中国の「北斗」など複数の測位衛星の信号を受信できる技術が発達し、多くのスマートフォンやカーナビなどにも採用されている。その結果、日本上空で受信できる衛星の選択肢が増え、みちびきの優位性はやや薄れてきた側面もある。

それでも、みちびきはアジア・オセアニア地域の安定した測位環境を支える重要なインフラである。

他国のシステムへの依存は、安定的な測位サービスの提供にとってリスクとなる。例えば欧州連合(EU)の衛星測位システム「Galileo(ガリレオ)」では、2019年に大規模なシステム障害が発生し、1週間ほどシステムが全停止した。また近年では、他国の衛星を攻撃する技術が発達している。

こうした事態がもし今後起こった場合、日本でも位置情報サービスの提供ができなくなってしまうことが考えられるのだ。

今後は、みちびきの測位精度を維持・向上させるとともに、7機・11機体制で衛星間・衛星地上間測距技術を導入することで、みちびき単独での測位精度の向上も目指されている。

みちびき6号機は、2025年7月18日より衛星測位サービスを開始予定だ。

内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より ~みちびき4機体制と7機体制の違い
内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より

2. 高精度測位補強サービス「MADOCA-PPP」

高精度測位補強サービス「MADOCA-PPP」は、GPSやガリレオなどのGNSSに対して、測位誤差の原因となる要素(衛星からの信号に含まれる衛星の位置や時刻のズレ)を補正する信号を「みちびき」から同時配信することで、国内外において数十センチ単位での位置測定を可能にするものである。

これは、GPS単独では提供できない機能であり、みちびき独自の強みといえる。

さらに、MADOCA-PPPは、衛星から直接補正信号を受け取れるため、地上の固定局が提供する補正信号が届かないエリアでも利用できる補強手段として期待されており、対応受信機の普及とともに活用が拡大すると期待されている。

MADOCA-PPPは「みちびき」4機体制の下、2018年より実証信号を配信しており、2022年9月末に正式サービスに向けて設備を切り替え、試行運用を開始、安定した運用を継続していることから、2024 年 4 月 1 日に本運用に移行した。

しかしながら、実用化に向けては性能と運用性の向上が課題となっている。

このため、より短時間で精度の高い位置情報を得るために、みちびき6号機や2025年度に打ち上げ予定のみちびき7号機から、追加の補正データとして「広域電離層補正情報」の配信が進められる。

広域電離層補正情報とは、大気中の電離層による信号の遅延を補正するものである。従来は正しい位置情報を得るために30分以上かかっていたところを、広域電離層補正情報を取得することで10分以下に短縮できる見通しだ。

みちびき6号機は、これらの高精度測位補強サービスの提供に向け、2025年7月18日より本格運用を開始する予定だ。

3. SBASサービス(衛星航法補強システム)

SBAS(Satellite-Based Augmentation System)は、国際民間航空機関(ICAO)の基準に基づく衛星航法補強システムである。GPSなど測位衛星の軌道、時刻、電離層の誤差を補正し、その測位結果にたいして誤差が安全上の許容値を超えた場合に、それをタイムリーに警告できることを99.99999%で保証する「インテグリティ監視機能」を備える

SBASは航空機の安全な航法を支える仕組みとして、周辺航空機の状況認識向上や障害物検知などに活用されてきた。北米、欧州、日本の空港における着陸での利用が進展しているほか、農業機器や船舶の自動運転、カーナビゲーションなどにも利用されており、今後も更なる利用が進むことが見込まれている。

日本では 2007 年度から導入されており、2020 年度からはみちびき3 号機より配信を実施。

今後、7機体制では同じく静止軌道上に配備されるみちびき6、7号機からの配信も予定しており、サービスの更なる安定化が期待されている。

SBAS配信の今後の運用については、内閣府と国土交通省が連携しながら性能向上を着実に進めており、国際標準に定められた次世代SBASの実用化や様々な分野への拡張も視野に入れている。

みちびき6号機は、2025年10月頃からSBASサービスを提供開始予定だ。

内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より SBASサービス
内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より

4. 信号認証サービス

測位信号は誰でも受信できる特性から、以下のような悪意ある攻撃を受けやすいことが課題の一つとなっている。

  • スプーフィング:偽の信号を送って位置情報を誤認させる
  • ミーコニング:正規の信号を記録・再送して測位結果を改ざんする
  • ジャミング:信号を伝える電波を妨害する

特に、「スプーフィング」については近年、市販機器でも偽信号の作成が可能となっており、自動運転やドローンなど次世代モビリティ分野、携帯基地局や金融機関など時刻同期を要するインフラなどへの影響が懸念されている。

そこでみちびきでは、これらの攻撃から信号を守るため、暗号技術を用いて測位信号の発信元を認証する「信号認証サービス」を提供。

信号に安全性を確認するための認証情報を付与することにより、偽信号の即時検知が可能となる。対象信号は「みちびき」自身に加え、信号認証機能が備わっていないGPSやガリレオの一部信号にも対応するものもあり、高い互換性が評価されている。

信号認証サービスは、自動運転やドローン配送など次世代の社会インフラを支える基盤として、今後ますます重要性を増すだろう。

政府は、信号認証サービスが利用される場面の増加や、日本企業が海外で実施する信号認証サービスの実証事業の支援を進めていく方針である。

また、11機体制に向けて信号認証サービスを拡大していくにあたり、GPSやガリレオとの相互運用性・互換性について調整していく予定だ。

みちびき6号機では、2025年7月23日にサービスが開始される予定となっている。

内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より ~スプーフィングとは
内閣府「衛星測位に関する取組方針2025」より

さいごに

いかがでしたか。

現在、多くの企業が準天頂衛星システム「みちびき」からの測位信号を利用し、様々な分野でサービスを提供している。今後、同システムが7機体制となることで、みちびきが提供する測位・補強サービスの信頼性と利便性は、今後さらに高まっていくと見込まれる。

今回紹介したMADOCA-PPPやSBAS、信号認証サービスなどは、社会インフラやモビリティ分野への応用も期待されており、日本発の測位技術がどのように活用されていくか注目される。

今後は、準天頂衛星の高度化とともに、地上のサービス・機器との連携もより重要性を増していくだろう。

宇宙を活用した安心・安全な社会の実現に向けて、「みちびき」のこれからに期待だ。

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参考

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