2024年に民間初の月面探査を目指すYAOKIがパワーアップ!?その秘密とは

ロボット・宇宙開発ベンチャーの株式会社ダイモンは、開発中の月面探査車「YAOKI」で2024年中に民間企業として世界初となる月面探査の実現を目指している企業だ。

そのYAOKIについて、車体を安定させる部材に関して重量増加を抑えつつ、従来よりも耐衝撃性を著しく向上させることに成功したという。

本記事では、軽量かつ耐衝撃性を実現した技術についてご紹介します。

YAOKIとは

YAOKIは超小型、超軽量、高強度を兼ね備えた月面探査車(月面ローバー)である。

二輪方式を採用し、さらに特許技術を駆使する事で、従来の小型探査車に対し、重量で10分の1(現在498g)、大きさで50分の1(15×15x10cm)となる超軽量・小型化を達成。

それにより、1kgあたり1億円以上かかるといわれる月への輸送費を大幅に節減している。

YAOKIの役割は、今後の月開発に向けた探査ミッションへの挑戦と、安価で高頻度に利用できる月面実験プラットフォームの提供だ。

月面や月の洞窟内を転がって探査するだけでなく、センサーやモーター、バッテリー、通信機など、ロボットに必要な様々な要素技術をYAOKIに搭載することで、月面で実証実験することができるのだ。

©株式会社ダイモン

ダイモンは、継続的に複数台のYAOKIを月に送り込むことができるよう、月輸送サービスを提供する企業と交渉を進めている。

その中の1つがアメリカのIntuitive Macines社だ。

Intuitive Macinesは月面着陸船「Nova-C」を開発しており、2024年2月23日(日本時間)に民間世界初の月面着陸に成功。

2回目となる次のミッションで、2024年中にYAOKIを月の南極付近に輸送する予定だ。

月面着陸後、YAOKIは地球からのリモート操作による月面走行および月表面の接写画像データの獲得など、超小型ロボットによる月面運用を実施するという。

三菱ケミカルの技術を月面探査車に利用!

YAOKIが強みとするのは、100Gの衝撃に耐える強度の高さだ。

さらに、「YAOKI」の名前の由来にもなっている、転んでも倒れても走り続けることができる設計(七転び八起き)も持ち合わせており、これによりどのような高低差があるかわからないような洞窟の中を転がりながら調査することもできるのだ。

ダイモンは、YAOKIの強度や軽量性などを高めるため、三菱ケミカルグループと炭素繊維強化プラスチック部材の提供や技術支援を行う内容のパートナーシップ契約を締結し、協力して開発を実施してきた。

炭素繊維強化プラスチックは「軽量」「高強度」「耐熱」「耐放射線」等を実現する材料として、宇宙分野で注目されている材料である。

現時点では信頼性のある同材料の開発や材料の加工が難しいといった点もあるが、三菱ケミカル社は高い技術力で最先端の炭素繊維強化プラスチックを開発。

これまで多くの宇宙機器に提供してきた実績があり、YAOKIの様々な部材にも採用されているのだ。

そして今回紹介する、走行時に車体を安定させるための部材にも、三菱ケミカルの炭素繊維強化プラスチックの一種が採用されている。

耐衝撃性と軽量性の実現の秘密

月面輸送では輸送物の重さで輸送コストが変わるため、YAOKIは重量増加を抑えながら落下時の耐衝撃性を高める必要がある。

そこで同社は、柔軟性により物理的な負荷や衝撃を吸収する「コンプライアントメカニズム」という設計概念を取り入れ、素材から構造を見直すことで、重量増加を抑えつつも従来品と比較して耐衝撃性が著しく向上したモデルの設計に成功した。

この設計では、弾性を持つ素材で製品を一体的に成形することで、力や運動をしなやかに伝達し、機能を発現。

従来のような形の変わらないパーツにネジやバネなどの可動パーツを組み合わせて動きを実現する組み立て成形品と比較し、動作正確性の向上、パーツ数削減、メンテナンスフリー化、静音化、材料数の減少によるリサイクル性の向上などの特長をもった部材設計が可能となった。

また、設計の次の過程である製造面においても、同社の技術が光っている。

製品を一体的に成形するためには、プラスチック樹脂を加熱して溶解し、型に注入して冷却・固化させて製品形状をつくる「射出成型技術」が用いられるのが一般的だ。

しかしこの方法では、金型の製作に費用や期間がかかる、金型から製品を取り外せるようにするため成形品の形状に制約があるというデメリットがある。

三菱ケミカルは、自社で保有する特殊な3Dプリンターで型をつくる射出成形技術「FIM(Freedom Injection Molding)」でこの課題を解決。

この技術では製品の素早い試作や再試作を可能としており、さらに型を溶解除去することによって製品を取り出すため複雑な形状の製品の製作も可能となっている。

今回のYAOKIの車体安定用部材でも、コンプライアントメカニズムとFIM技術を用いたことで、超高機能なプラスチックを用いた製品を実現したのだ。

©三菱ケミカルグループ株式会社

さいごに

いかがでしたか。

三菱ケミカルグループでは、総合化学メーカーとしての強みである素材知見に、構造設計・最適化シミュレーション技術を融合した新たなアプローチとして、コンプライアントメカニズムを活用した製品開発を推進している。

今後も宇宙用途のみならず、幅広い分野への価値提供を目指して同技術による製品開発を進めていくという。

また、YAOKIの打ち上げ日程は公式発表があり次第更新されるとのこと。

4月9日にはダイモンのエンジニアチームがIntuitive Macine社に訪問しており、着々とその時が近づいてきているようだ。

参考

コンプライアントメカニズムを適用した設計部材が月面探査車YAOKIに採用

2021年秋、民間世界初の月面探査を実施世界最小最軽量(*) 月面探査車「YAOKI」 株式会社ダイモンと三菱ケミカル株式会社がパートナーシップ契約を締結

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