気象衛星の運用からスタートし、ISS(国際宇宙ステーション)やはやぶさなどの国の重要宇宙プロジェクトを45年以上影で支え続けてきた株式会社アイネット。同社は、近年の宇宙産業の市場規模拡大に向けて、豊富な宇宙開発ノウハウを活かし、宇宙に携わる優秀な人材の育成・採用に力を入れている。
今回は、未来の宇宙エンジニアの育成を見据えて、高専生に特化した「宇宙インターンシップ」を実施した。
本記事では、インターンシップに実際に参加した高専生の率直なインタビュー内容をもとに、ホームページだけでは決して伝わらない、アイネット社の魅力について紹介する。
宇宙で働くことを志す高専生たち
選考を通過した高専生3名のプロフィール紹介
今回は、全国の高専からインターンシップ参加者を募り、数ある参加希望者の中から宇宙で働くことを志す3名の学生が完全オーダーメイドのインターンシップに参加した。
高専から大学編入 - 東京大学航空宇宙工学科2年次の中田さん
ブラックホールや相対性理論に興味を持ち、そこから宇宙の構造や星の進化の過程、宇宙はどうやって誕生したのか、宇宙の謎を解き明かすことが夢になったという中田さん。中学生の進路選択の時期と、はやぶさ2の打ち上げ時期が被り、はやぶさ2のような宇宙探査機を設計し、工学を通して科学を発展させようというビジョンを描くようになり工学を学べる高専に入学。その後、東京大学航空宇宙工学科に進学して、今に至る。
ー 今回の「アイネット宇宙インターンシップ」に参加したきっかけは?
(中田さん)自分の宇宙への夢の実現のために高専では、実学重視の工学を学んできました。
大学の前期教養課程ではきっちりと学問を学んでおり、宇宙論や相対論、量子力学などの宇宙を記述する基礎方程式との出会いやマルチメッセンジャー天文学という新たな「目」の存在を知り、探査だけではなく天文観測にも興味がわいてきました。
現在、将来の進路について、どの道に進むのか模索中ということもあり、実際に企業で行っている業務に近いことを「手を動かしながらやりたい!」という思いで、今回のインターンシップに参加しました。
ー インターンシップに期待することは?
(中田さん)「はやぶさ2」は自分のキャリア選択に大きな影響を与えてくれました。編入した大学を選んだのも、はやぶさに貢献していた先生が大学にいたことが大きいです。アイネットには、宇宙探査機に関わっている方がいるとも聞いていて、ニュースにはならない現場での苦労や打ち上げ当時の裏話などが聞けるのではと、とても楽しみにしています。
高専専攻科在学中 - 舞鶴高専専攻科1年次の松本さん
小学生になる前からモノづくりが好きで、10歳の時に行った旅行先の石川県でコスモアイル羽咋を見学し、宇宙開発の歴史に触れたことをきっかけに宇宙の魅力にのめり込んでいったという松本さん。
ー 今回の「アイネット宇宙インターンシップ」に参加したきっかけは?
(松本さん)現在、全国の高専合同プロジェクト「KOSEN衛星」の開発に携わっており、衛星を主体とした宇宙開発にとても興味を持っています。
宇宙開発は豊かで安心安全な生活を実現するという工学的な楽しさに限らず、未知の領域を知るという理学的な楽しさも兼ね備えており、わくわくしながら社会に貢献できるモノづくり分野であると考えております。今回は実際に宇宙開発領域で活躍されている方の働き方に興味があり、応募しました。
ー インターンシップに期待することは?
(松本さん)宇宙開発の現場を見てみたいです。
現在、衛星運用に関わるソフトウェアの開発をしているので、とりわけソフトウェア領域に興味があります。また興味を持っている大学の研究室がアイネットと共同で「うみつばめ衛星プロジェクト」を行っているので、その話も聞いてみたいです。
高専本科在学中 - 木更津高専5年次の佐藤さん
小さい頃から大きな装置や機械、システムに興味がありエンジニアとして新規事業のバックエンド開発に参加していた経験もあるという佐藤さん。その中の一つとしてロケットや衛星開発にも魅力を感じていたとのこと。
ー 今回の「アイネット宇宙インターンシップ」に参加したきっかけは?
(佐藤さん)小さい頃から大きな装置や機械、システムに興味がありその中の一つとしてロケットがありました。
ロケットの打ち上げや着陸のライブなどを見る中で、宇宙空間や星のことを知るようになり、未知で規模が大きい宇宙そのものに興味を持つようになりました。そんな中で宇宙特化の高専生インターンシップをやっていると聞いて参加を決めました。
ー インターンシップに期待することは?
今までは、ソフトウェアやWebといったオーソドックスなものばかりに関わってきたので、今回のインターンシップでは、宇宙開発エンジニアの具体的な仕事内容や実際に使っているアーキテクチャ等を知れるのではとワクワクしています。
宇宙という環境だからこそ考えなければいけないことを学ぶことができれば、今後のキャリア選択のための貴重な経験になると期待しています。
IT企業「アイネット」が宇宙産業を牽引している理由
アイネットはどのような会社?
株式会社アイネットは、1971年の創立以来、ICTサービスを通じて、お客様の利便性向上のためのソリューション提供に努めてきた会社である。特色としては、国内最高レベルの安全性を備えた自社データセンターと、長年培ったシステム運用管理のノウハウを活かし、システムの企画・開発から運用・監視、印刷・封入封緘、さらには先進のクラウドコンピューティングに至るまで、お客様の様々なニーズに最適なソリューションをワンストップで提供している会社である。
宇宙事業に取り組むアイネット
アイネット社は、老舗の上場企業としてのイメージが強い一方で、AI、データアナリティクス、IoTといった最先端分野にも積極的に事業を展開している。その中でも特に注目すべきは、宇宙分野への取り組みである。
同社は、長年にわたり宇宙開発事業に携わり、約45年間で人工衛星のシステム・サブシステム設計から検査・試験、運用・評価解析と多岐にわたる実績を積み重ねてきた。
特にアイネット社の強みは、独自のデータセンターを活用した安全かつ一貫したサポート体制である。衛星画像データや衛星運用管制システムのソフトウェア開発から、評価・解析に至るまでの一連のプロセスをトータルで支援できる点は同社のユニークなポイントである。
また、国際宇宙ステーション(ISS)にはその建設当初から運用に携わっており、将来的には有人宇宙探査関連のミッションへの対応も視野に入れている等、宇宙開発事業において常に先進的な姿勢を持ち続けている優良企業である。
アイネットが高専生を積極的に受け入れている理由
これまで官主導で進めてきた宇宙開発だが、米国の民間移転に伴いフェーズが変わりつつあり、日本の宇宙産業の市場規模も急速に拡大している。
それに伴い、これまで少人数で対応してきた宇宙事業部門の人材採用ニーズも急激に高まり、宇宙産業を通じて社会を変革しようと志す若者の需要が社内で増してきている。
大学卒業生の採用も積極的に行っているが、現場経験が少ない人材は育成に多少の時間を要するのが課題である。その点、高専生は手を動かしてものづくりを経験してきた実践力を持つ者が多く、また高専ロボコン · 高専プロコンといった高専独自のものづくり技術を磨くコンテストなどで培われた忍耐力や根性を持ち合わせている点でこれからの宇宙開発にとって、重要な財産になる。
前提として、宇宙開発に長く携わるベテラン企業であるので、宇宙開発に対する教育体制も整っているが、急速に進化する宇宙市場に対応するためには、素早いキャッチアップと成長可能性を求めており、その点で高専生のポテンシャルに注目している。
宇宙インターンシップではどのような体験ができるのか
今回のインターンシップでは、1日目にベテラン社員からの講座や若手座談会、2、3日目は実際の現場にて実習を行った。すべて参加者の希望に合わせたオーダーメイド型のインターンシップとなっており、他では体験することができない内容が濃いものとなっている。
学校では決して学べない!? インターンシップならではの学びとは
高専生が選ぶ、1日目のハイライト
(中田さん)中野さん[※1]のシステム設計の話については、学校で一度習ったことがある内容でしたが、自身がシステム設計の本質を理解できていなかったことに改めて気づかされました。
学校の授業でシステム仕様書を初めて書いたときは、重要性が理解できていなかったため、あまり力を入れずに作成した結果、先生からたくさん修正をいただいた記憶があります。
その時は、なぜこれほど指摘されるのかよくわからなかったのですが、今回の講義を経て、そもそもシステム設計を行い、根拠のある仕様書を作成しないと、各サブシステムの能力を生かすことができないし、それどころかその仕事そのものを無駄にしてしまう可能性があることを学びました。
学生時代先生から仕様書について、重点的に指導された理由が今更になってよくわかりました。教科書上ではわからない本質を教えていただけるのは、現場で働くエンジニアゆえの視点だと思います。
[※1] 講師を務めた中野さんは、これまで30年ほど人工衛星システムの設計に従事。その後アイネットに入社し、現在は人工衛星のシステム概念設計の担当をしつつ、後進育成にも尽力高専生が選ぶ、2.3日目のハイライト
インターンシップ2、3日目は実際に手を動かす人工衛星開発の現場体験を実施。手順書に従って機器の外観検査から試験ケーブルの作成・熱試験をベテラン社員の経験談を交えながら丁寧に対応いただいた。
(中田さん)
衛星のコンポーネントがどのような環境で製造・検査が行われているのか、学校の座学だけでは全くイメージできていなかったので驚きの連続でした。
実際に見学・体験をすることがいかに大切なのか身を持って知りました。参加前と比べて、宇宙機製造が身近になった気がします。
特に衛星コンポーネントの検査は、高専の実験で行うような検査も含まれていることに驚きを感じました。ただ高専の実験検査と今回の実習では内容は似ていても全く異なるものでした。
宇宙開発において、検査は「最後の砦」と言われているそうで、検査にミスが出ないように工夫がたくさん施されていました。
高専の実験ではミスをしても再実験すればよいと思ってしまうこともあり、検査の重要性について深く向き合うことは少なかったですが、今回の検査を見て認識が180度変わりました。衛星の検査の場合、1つ1つミスが出ないよう器具の配置や実験手順、装置の完璧な理解など細部まで気を配っており、プロの仕事をまじまじと見せつけられました。目立たない作業でありつつも、これが機器を守る最後の砦だと思うと一つ一つの操作に大きな意味を感じました。
宇宙インターンシップの率直な高専生の感想
佐藤さんの感想
1日目の印象としては、ニュースやプレスリリース等で宇宙ベンチャー企業の名を見かけることが増えましたが、実際に企業がどのようなことをしているのか、どのような課題があるのかについては、参加前はほとんど知りませんでした。
それこそ宇宙で働くと聞くと、研究職(大学院の延長)といったイメージが強く、エンジニアとして宇宙産業に関わるイメージが掴めなかったため、民間企業への就職といった観点でも宇宙に関わるイメージを掴めて、勉強になりました。
アイネットは、宇宙ベンチャー企業にアドバイスを送る立場でもあることから、宇宙ベンチャー企業の現状や市場についてかなり詳しく、全体的に中身の詰まった有意義な時間であったと印象に残っております。
また、宇宙開発エンジニアとWebエンジニアとの間にキャリア観の違いがはっきりあった点にも驚きました。座談会では、社内でSEを志しながらも全く異なる宇宙の部署に配属され、実際に活躍されているといった方とお話しする機会もあり、他業種への応用といった複合的なキャリアを考えるきっかけがあったのは良かったです。
2日目で印象的だったのは、クリーンルームの見学です。これまで写真でしか見たことがなかったクリーンルームの中を間近で見ることができ、特に印象に残っています。
実際に打ち上げる予定の人工衛星が、どのような場所で作られ、どのように組み立てられているのかを間近で見た際は、とても興奮しましたし、現場で確認する重要性を再認識しました。
今回は、人工衛星や宇宙産業に関する知見をあまり知らない状況で参加しましたが、インターン生の仲間や社員の方々から詳しくかつ丁寧に教えていただき、今後のキャリア選択に大きな影響を与える機会になりました。とりわけ、プロフェッショナルとは何かを学ぶ良い機会となりました。
またアイネットは、宇宙産業に長年関わっているだけあって、信頼性の高い会社でしたが、現状の取り組みに妥協せずに、どんどん産業をアップデートしようとしている現場の熱にも感銘を受けました。
私も一技術者として、衛星開発の楽しさというものを第一線で感じながら働かれている方が多い職場には魅力を感じました。
松本さんの感想
インターンシップ参加前からアイネットの名前は知っていましたが、具体的にどのような業務をしているのかまではあまり理解しておらず、漠然と大手衛星メーカーとの連携は薄いものだと思っていました。
しかし今回のインターンシップ参加後、アイネットの印象は大手衛星メーカーと深い信頼関係のもと見えないところで、衛星のコア技術を支えている影の立役者といったものに変わりました。
また、1人1人の社員の皆様が他者に思いやりを持ちながらプロジェクトを進めることを大切にされており、ミスの許されない衛星開発においては、思いやりのあるコミュニケーションが大切であると学びました。
なかなか見ることができない貴重な現場を拝見したり、検査業務の体験を通して衛星開発に求められる正確性の厳しさを知ることができ、国家プロジェクトは少し神経質な人が多いという理由がなんとなく実感できた気がします。
中田さんの感想
アイネットは元の母体がIT企業なので、製品開発というよりは、宇宙産業のDX化を進めている企業なのだと参加前は思っていました。でも参加してみると実態は全然違いました。
もっと衛星開発に関わる基礎設計の部分から関わっており、機械工学的な仕事や運用・管制などの職務内容から、日本の宇宙業界の基盤を支え続けてきた企業であることが参加してみて分かりました。
入社数年でXrismやISSなどの国家プロジェクトに関わることができるのも純粋に羨ましいですし、アイネットならではの魅力ではないでしょうか。
また、これからの宇宙業界に対する熱いビジョンもしっかり持っている会社で、利益第一優先は前提として置いておりますが、今回のインターンシップのような宇宙産業の未来を見据えたインフラ整備といった観点でも熱量高く取り組んでおり、IT企業の強みを生かした宇宙開発で業界の下支えをしようといった想いがすごく伝わってきたので、率直に良い会社なんだろなと感じました。
講義、座談会などでは、学校や教科書上では知ることのできない社員の方々の経験がもとになっていた生の声を聴けたのもすごくよかったです。
さいごに
いかがでしたか。
アイネット社の特色を宇宙の人材屋の観点から分析すると、「IT上場企業ならではの安定感や教育制度を持ち合わせながら、宇宙べンチャー企業との関わりも多く、熱量の高い職場で宇宙開発に取り組むことができる知る人ぞ知る優良企業」といったところでしょう。
アイネットでは、高専生の積極受け入れはもちろんのこと、新卒、中途採用にも力を入れているとのことです。
(詳しくはスペジョブのアイネットページをチェック)
少しでもアイネットに興味を持った方がいれば、後編のアイネット社の事業紹介についてもチェックしてみてください。