神奈川大学宇宙ロケット部・高野研究室、南相馬市でロケットの打ち上げに成功!
©Space Connect株式会社

2024年12月14日、神奈川大学宇宙ロケット部・高野研究室の学生チームが、一から設計・製作したハイブリッドロケット「鈴木丸」の打ち上げを実施し、成功したと発表した。

同チームは2021年にハイブリッドロケットでは日本最高記録となる高度10.1㎞に到達しており、今回はその記録をさらに上回る高度20㎞への到達を目指していた(結果は現在分析中。)

本記事では、今回の打ち上げにおける成果のポイントについてご紹介する。

神奈川大学宇宙ロケット部・高野研究室とは

神奈川大学 宇宙ロケット部と航空宇宙構造研究室(高野研究室)は、共同でハイブリッドロケットを一から設計開発・製造し、宇宙を目指す団体である。

宇宙ロケット部は2014年に設立された。ロケット開発を通してモノづくりのプロセスやプログラミングを学ぶだけでなく、SNS運用やイベント参加といった広報活動にも力を入れている。

また、高野研究室は超小型ロケットの開発の他、宇宙機における軽量性・信頼性の向上に寄与する複合材料の強度研究や、3Dプリンタによる高強度・高剛性構造物の研究開発などを行っている。

両者の最終目標は超小型ロケットを開発することで超小型衛星の安価な打ち上げを実現すること。

超小型衛星とは重量100㎏以下、一辺あたり十~数十㎝程の、比較的に短期間・低コストで開発可能な衛星であり、近年では様々な大学や企業によって開発されている。しかし、こうした衛星を宇宙へ輸送する手段は、日本国内では特に限られているという課題がある。

宇宙ロケット部・高野研究室の超小型ハイブリッドロケットは、そういった課題を解決し得る。同団体ではまず、高度100㎞への到達を目標に掲げ、日々の活動に取り組んでいる。

これらの活動を通じて、宇宙ロケット部と高野研究室は、学生たちに実践的な学びの場を提供すると同時に、日本の宇宙開発における新たな可能性を切り開いているのだ。

打ち上げ実験の結果とポイント

今回の打ち上げ実験の概要と結果は以下の通り。

打ち上げ概要と結果
©Space Connect株式会社

ハイブリッドロケットとは、固体燃料と液体酸化剤というように、異なる2種類の推進剤を組み合わせて動作するハイブリッドエンジンを搭載したロケット。このエンジンは爆発のリスクが低く安全性が高いだけでなく、管理コストを抑えることが可能だ。

一方、ハイブリッドロケットには推力が低いという課題があり、そのため実用化された例は未だあまりない。しかし、日本を含む世界各国で研究開発が進められており、今回のような打ち上げ実験もしばしば実施されている。

▲ ハイブリッドロケットについて、詳細はこちら

ここからは、宇宙ロケット部のメンバーの方々に伺った、今回の打ち上げのポイントについてご紹介する。

軽量・高推力エンジン 燃焼異常乗り越え成功へ

宇宙ロケット部 広報担当の眞鍋 和士氏は、今回の打ち上げのポイントについて以下のように語った。

今回採用したロケットは推力が7.5kN、トータルインパルス(燃焼持続時間中にエンジンが出す推力を合計した値。単位はニュートン秒)が100kNs級と、日本国内のハイブリッドロケットの中ではかなり高推力の範囲に属します。一方で、重量が軽量に設計されている点が1つのポイントです。

高推力エンジンでは、燃焼室内の圧力や温度が高く、振動も大きいため、通常は構造を強化するために重量が増加する傾向がある。

同チームはこれを克服し、高推力かつ軽量化を実現するためにさまざまな課題を解決してきた。

例えば、エンジンの燃焼異常の課題である。眞鍋氏によれば、昨年の燃焼試験では6回中4回が失敗。原因は燃焼が早く進みすぎたことで内部に高圧力が発生し、エンジンが破裂したことだった。

この課題を解決するため、内部設計や断熱材の改良を繰り返し、今回の打ち上げ成功につなげたという。

ロケット
©Dory 誠

GPSで追跡 機体回収にも成功

2つ目のポイントは、機体回収の成功である。

2021年に行われた前回の打ち上げ試験では、高度10.1kmに到達し、従来の国内ハイブリッドロケットの最高記録を更新。しかし機体の分離・パラシュート展開・GPS位置情報の送信及び機体の回収には失敗していた。

今回は、その原因を1つに絞れなかったものの、可能性を模索しながら様々な対応策を施したとのこと。その結果、1段目と2段目の分離からパラシュート展開、着水、そしてGPS位置情報の取得に成功。

これにより、無事に機体の回収を達成した。

南相馬市にて打ち上げ ASTRO GATEが支援

今回、打ち上げ場所として選ばれたのは福島県南相馬市。同市では今年8月に初めてAstroX株式会社によるハイブリッドロケットの打ち上げが実施され、その後11月9日にも打ち上げ実験が行われた。今回で南相馬市でのロケット打ち上げは3回目となる。

南相馬市が打ち上げ場所として繰り返し選ばれている背景の1つには、ASTRO GATE株式会社の支援がある。

同社は世界中のスペースポートの調査、企画、運営に取り組む企業であり、南相馬市とも連携協定を締結。宇宙関連サービスの活性化に取り組んでいるほか、射場のセッティングや運営についても包括的なサポートを提供している。

また、AstroXとは民間企業同士として日本初のLaunch Service Agreement(LSA:ロケット打ち上げサービスの提供に関する契約)を締結しており、これまでの南相馬市での2回の打ち上げでも支援を行ってきた。

神奈川大学宇宙ロケット部・高野研究室による今回の打ち上げにおいても、ASTRO GATEが射場のセッティングを支援した。

同社CEOの大出大輔氏は、今回の取り組みについて次のように語っている。

大出大輔氏
©Dory 誠

今回は前回のおよそ2倍となる高度約20kmまで到達するため、関係者の皆様に安心していただけるよう、各方面に丁寧に説明を行いました。

南相馬市における前回のAstroX社の打ち上げが終了した後、約1か月という短い期間の中で関係事業者の皆様との調整や説明を重ねてまいりましたが、当日までスムーズに準備を進めることができ、無事に本日を迎えることができました。

ロケットの打ち上げも無事に実施でき、関係者の皆様の努力が実を結んだことを心よりお祝い申し上げます。

この地の多くの方々のご協力とご理解のおかげで、ここまでスムーズに準備を進めることができたと思います。皆様には心より感謝申し上げます。

さいごに

いかがでしたか。

今回、日本の宇宙開発を支える新しい世代が、自ら設計・製造したロケットで高度20kmへの挑戦を行ったことは、国内外でのさらなる宇宙技術の発展に向けた重要な一歩だろう。

また、南相馬市という地域において、大学や企業、そして地域住民の協力のもと、ロケット打ち上げの実績が積み重ねられている点も注目に値する。地域と宇宙開発が連携することで、新たな宇宙ビジネスの可能性が広がっていくことに期待したい。

今後も神奈川大学宇宙ロケット部・高野研究室、そして南相馬市の挑戦が楽しみである。

参考

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