2025年8月に刷新、JAXAスタートアップ支援制度について解説
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2025年8月、JAXAは従来の「JAXAベンチャー支援制度」を改正し、新たに「JAXAスタートアップ支援制度」として運用を開始した。

本記事では、本制度の概要や改定の背景を解説するとともに、認定された企業事例をご紹介する。

旧「JAXAベンチャー」制度 改正の流れ

JAXAは、職員の新規事業創出による研究開発成果の社会実装とこれによる社会課題の解決、また宇宙航空産業の活性化を図るため、2004年から「JAXAベンチャー支援制度」を運用してきた。これは、JAXA職員が中心となって設立し、JAXAの知的財産や業務で得られた知見を活用して事業を行う企業を対象に、一定の審査を経て認定し、技術支援や広報支援などを行う枠組みであった。

一方で、現在、宇宙関連産業は拡大が期待されており、スタートアップの数も増加し、事業化のスピードも高まっている。こうした動きを背景に、JAXAや政府、民間企業の強固な連携が一層重要視されている。

こうした環境変化に対応するべく、JAXAは、職員が研究成果の事業化に挑戦しやすい環境づくりと、増加するスタートアップに対して柔軟で幅広い支援を行える体制づくりを目的に2025年8月に旧制度の発展的な見直しを実施。「JAXAスタートアップ支援制度」として刷新した。

旧JAXAベンチャー支援制度と新JAXAスタートアップ支援制度の比較
旧JAXAベンチャー支援制度と新JAXAスタートアップ支援制度の比較 (出典:JAXA プレスリリース

JAXAスタートアップ支援制度の詳細

制度改正のポイントは以下の3点である。

1|支援対象の拡大

従来制度の「JAXAベンチャー」に該当する企業に加え、新たにJAXAの研究成果や特許を活用するスタートアップも支援対象となった。

新制度では支援対象として以下の2カテゴリーが設定されている。

JAXAスタートアップ:旧JAXAベンチャーに相当するカテゴリーであり、要件は以下の通りである。

  • JAXAの知的財産又は知見について必要な知識を有している機構の職員が取締役(合同会社においては業務執行社員)であること
  • JAXAの知的財産又は機構の業務により獲得した知見を利用し開発した製品やサービスを市場に提供する事業を主たる事業としていること
JAXAパートナースタートアップ:新制度で新設されたカテゴリーであり、以下のいずれかに該当する事業を主たる事業として行う企業が対象となる

  • JAXAとの共創及び共同研究活動において創出した成果を活用した、又は活用しようとする事業 ・機構の特許等の許諾契約を締結し当該特許等を活用した事業
  • 機構が開発した機器等を譲り受けこれを活用した事業 ・機構が実施する事業の移管を受けた事業

両カテゴリーに共通して、コンサルティング、アドバイザリー業務などを主事業とする企業は対象外である。また、事業の成長戦略提示が必要で、最大10年間の支援期間が設定されている。

2|認定制度から名称使用許可制度への変更

旧制度では審査会により事業計画やリスク評価が行われ、「JAXAベンチャー」としての認定を受ける形式が採用されていた。しかし、スタートアップの事業展開はスピード感が求められることから、新制度では事業計画の変更にも柔軟に対応できる仕組みとして、要件を満たす企業にJAXAが名称使用を許可する方式へと変更されている。

3|支援施策の充実化

新制度では名称使用に留まらず、JAXAと連携するファンド紹介や提携機関の支援策への推薦など、資金獲得・アクセラレーション面の支援が強化されている。 また、各種イベントへの登壇・出展の推薦などの広報支援も拡充され、従来以上に実効的な支援体制が整えられた。

加えて、JAXAがこれまで個別に進めていた民間共創施策や支援施策を体系化し、「スタートアップ支援策」として整理。新制度対象企業だけでなく、広くスタートアップ全体に提供される形へと拡張されている。

JAXAスタートアップ支援制度 支援内容
JAXAスタートアップ支援制度 支援内容 (出典:JAXA プレスリリース)

企業紹介

2025年8月以降、JAXAは旧「JAXAベンチャー」の新規受け付けを停止し、既存企業のみ支援を継続している。新制度では、JAXAの技術活用や共創の形態に応じた複数カテゴリーが用意され、幅広いスタートアップが対象となった。

以下では、この対象企業の中から主要スタートアップを取り上げ、その事業内容を紹介する。

ElevationSpace

ElevationSpaceは日本が世界に誇る小型再突入技術を軸に宇宙から地球への輸送サービス開発に取り組んでいるスタートアップである。

2023年4月より「地球低軌道拠点からの高頻度再突入・回収事業」に関する共創をJAXAと開始し、2025年11月には宇宙戦略基金(第二期)で「高頻度物資回収システム技術」の実施機関に選定されている。

JAXAパートナースタートアップとして、今後は輸送サービスのシステム開発をさらに進め、日本の宇宙開発の自立性向上と国際競争力強化を目指す。

AstroX

AstroXは、2022年に創設された宇宙スタートアップで、民間企業として世界初となるロックーン方式のロケット開発に挑戦している。ロックーン方式とは、気球によってロケットを成層圏まで放球した後、空中で点火し発射する打ち上げ方式であり、高頻度、即応型、低価格での打ち上げを実現する。

同社はこれまでJAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)を通じ、気球プラットフォーム向けの懸垂型姿勢制御装置の研究開発を進めており、JAXAパートナースタートアップとして事業をさらに拡大する計画だ。

WHERE

WHEREは、宇宙から不動産の課題を解決することをビジョンに掲げているJAXAスタートアップ企業。

JAXA宇宙科学研究所内の総合研究大学院大学にて宇宙技術の研究に取り組み、衛星データとAIを活用したオフマーケット探索AI『WHERE』を開発。どこに、どの規模の不動産があり、誰が所有しているのかを地図上で直感的に把握できる仕様となっており、不動産仕入れ業務の効率化・高度化に貢献している。

さいごに

JAXAスタートアップ支援制度は、JAXAが民間スタートアップとの連携を一層重視し、技術シーズの社会実装を加速させる姿勢を明確にした。本制度を通じて、日本の宇宙産業がさらに広がり、国際的な競争力を強めていくことが期待される。

本記事でご紹介した、ElevationSpaceやAstroXでは各ポジションにて積極的に採用を強化している。興味のある方は以下のリンクからぜひチェックいただきたい。

ElevationSpace
AstroX

航空宇宙産業に特化した人材サービス・スペジョブの概要説明

参考

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