H3ロケット4号機によるXバンド防衛通信衛星「きらめき3号」の打ち上げが、10月30日(水)に予定されている。
本記事では、H3ロケットのこれまでの実績と4号機打ち上げのポイントについてご紹介する。
H3ロケットの狙いと実績
H3ロケットは、現在運用中のH-ⅡAロケットの後継機として開発されている次世代の大型基幹ロケットである。
開発の狙いとして、大きなものは以下の2つ。
- 日本の人工衛星を自国での打ち上げ可能にする「自立性」を確保し、衛星打ち上げ費用の海外流出を防止すること。
- 国外の衛星事業者からも選ばれる「国際競争力」を確保し、商業衛星を受注して産業基盤を強化すること。
H3では、毎年6機程度の打ち上げを安定させることで産業基盤を維持することを目指しており、 そのためには、政府の衛星だけでなく、打ち上げサービス市場からの民間の商業衛星の受注が不可欠だ。
このために、H3は世界のニーズに応えるロケットとして、以下の3つの要素を実現する。
- 柔軟性:複数の機体形態を準備し、利用用途にあった価格・能力のロケットを提供。 また、ロケット組み立て工程や射場整備期間を従来の半分以下に短縮し、年間の打ち上げ可能機数を増やすことで、受注以降、迅速に衛星を打ち上げる。
- 高信頼性:H-ⅡAロケットの高い打ち上げ成功率(約98%)を継承し、確実に打ち上がるロケットにする。
- 低価格:特注の宇宙専用品ではなく自動車など他産業の優れた民生品を活用。生産方法も一般工業製品のようなライン生産に近づけることで、打ち上げ価格を低減。 固体ロケットブースターを装着しない軽量形態で従来の半額程度となる約50億円を目指す。
H3の打ち上げ実績
H3ロケットの打ち上げ実績は以下の表の通り。
1号機の打ち上げは失敗に終わったものの、2号機、3号機と連続で成功。H-ⅡAに続き、信頼性の高いロケットとしての実績を積み重ね始めている。
海外契約の獲得も
実際に、H3はすでに3つの海外ミッションを打ち上げる予定となっている。H-ⅡAの海外衛星の打ち上げ実績が24年間に5回であったことを踏まえると、順調な滑り出しと言えるだろう。
H3が打ち上げ予定の3つの海外ミッションは、以下の3つ。
- Inmarsat社(インマルサット社;英)
- Eutelsat社(ユーテルサット社;仏)
- アラブ首長国連邦(UAE)
イギリスの衛星通信大手であるインマルサットとはH3開発中の2018年に、打ち上げサービスを担う三菱重工業株式会社が契約を締結。同社の衛星打ち上げは、2021年に行われたH-ⅡAでの打ち上げに続き、2回目となる。
次に、フランスの衛星通信大手であるユーテルサットとは初めての合意であり、同じく三菱重工業が2024年9月18日に発表。2027年以降、複数の衛星を打ち上げる予定となっている。
2024年10月11日に発表されたUAEとの契約は、三菱重工がUAE国家ミッションに対して提供する3回目の打ち上げ輸送サービス契約である。今回は、小惑星帯の探査ミッション「Emirates Mission to the Asteroid Belt(EMA)」を2028年に打ち上げる予定だ。
H3ロケット4号機のミッション
H3ロケット4号機のミッションは、Xバンド防衛通信衛星「きらめき3号」の打ち上げである。
また、H3の機体形態はエンジンの数と衛星を搭載するフェアリングの大きさによって分けられるが、4号機はこれまでの1~3号機と同じ「H3-22S」で、LE-9エンジン2基、固体ロケットブースター(SRB-3)2本、ショートフェアリングが使用される。
防衛通信衛星「きらめき3号」とは
「きらめき3号」はXバンド防衛通信衛星の1つだ。これは防衛省が保有・運用する衛星で、自衛隊の通信に利用されている。
自衛隊の衛星通信では様々な周波数の電波を利用しているが、このうちXバンドと呼ばれる周波数帯域を持つ電波は、気象などの影響を受けにくく安定。
そのため、作戦部隊の指揮統制や作戦情報支援など、部隊行動に関わる重要な通信に使用されている。
Xバンド防衛通信衛星は全3機体制で整備されており、現在運用されているのは「きらめき1号」、「きらめき2号」と、民間衛星の「スーパーバードC2」。
「きらめき3号」は「スーパーバードC2」の後継機であり、広帯域かつ周波数利用効率の改善により耐妨害性が向上されている。
防衛通信衛星の整備は、緊迫化する世界情勢を背景に、ますます重要性を増しており、防衛省が令和7年度の予算確保に向けて必要な経費や施策を財務省に申請する「令和7年度概算要求」においても、重点ポイントとして掲げられている。
4号機打ち上げのポイント
H3ロケット4号機のミッションの見どころは、H3としては初となる「静止トランスファー軌道(GTO)」への投入である。また、衛星の軌道投入後には将来の「ロングコーストミッション」に見据えたデータ取得が行われる。
「きらめき3号」は地球の赤道上空約36,000㎞上空を地球の自転と同じ速度で移動する「静止衛星」であり、静止衛星はロケットによって静止トランスファー軌道まで運ばれた後に、自力で静止軌道に移動する。
静止トランスファー軌道は楕円形で静止軌道と重なる軌道であり、赤道面と並行に軌道が描かれた場合に、衛星が静止軌道への移動に消費する燃料を最も少なくすることができる。
しかし、赤道からやや高い軌道にある種子島からの打ち上げの場合、静止トランスファー軌道が赤道面(静止軌道)に対して28.5度の軌道傾斜角が付くため、打ち上げ能力の観点でやや不利に働く。
そのため、H-ⅡAでは「高度化プロジェクト」として、ロケットの2段エンジンを再々着火することで、宇宙空間を長時間飛行(ロングコースト)し、衛星を「静止軌道により近い軌道」まで運ぶ技術を開発。
この場合、軌道傾斜角は約20度となり、衛星が消費する燃料を低減することができるという。
将来、この技術をH3でも適用するために、今回必要なデータ取得がおこなわれるのだ。
打ち上げ概要
H3ロケット4号機による「きらめき3号」の打ち上げ概要は以下の通り。
- 打ち上げ予定日:2024年10月30日(水)
- 打ち上げ予定時間帯:15時46分~17時30分
- 打ち上げ予備期間:2024年10月31日(木)~2024年11月30日(土)
- 打ち上げ場所:種子島宇宙センター 大型ロケット発射場
また、配信URLは近日公開予定となっている。
さいごに
いかがでしたか。
だいち4号を宇宙に輸送したH3ロケット3号機に続き、4号機も重要なミッションを担う。信頼性獲得のためにも、今回の打ち上げも成功を願いたい。