
2026年3月6日、宇宙環境を活用した食品開発の実証として、日本酒ブランド「獺祭」の醪(もろみ)が国際宇宙ステーション(ISS)から関西国際空港へ帰還した。
本記事では、宇宙で醸造された獺祭の醪の概要や、宇宙でのビジネスの可能性などを解説する。
宇宙で醸造された獺祭の醪
宇宙へ送られた醪は、山口県岩国市に本社を置く株式会社 獺祭が製造する日本酒「獺祭」のものだ。今回の取り組みは、「将来、人類が月面に移住した場合でも酒を楽しめるようにしたい」という構想のもと実施された。
実験では、米や麹、酵母などを入れた醸造装置を用意し、2025年10月に 種子島宇宙センター からH3ロケットで打ち上げた。
装置は国際宇宙ステーションの日本実験棟 きぼう(ISS日本実験棟) に運ばれ、宇宙飛行士が実験作業を行った。今回のミッションは、ISSの研究設備を民間企業が利用できる「有償利用制度」を活用したものとされている。
また、宇宙で醸造された醪から作られる清酒は約100ミリリットル分で、すでに約1億円で販売されており、完成後に購入者へ届けられる予定となっている。

なぜ宇宙で発酵実験を行うのか
日本酒の発酵は微生物の働きによって進む化学反応であり、周囲の環境条件によってその進み方が変化する。
特に宇宙では、重力環境や放射線環境が地上とは大きく異なるため、微生物の活動や発酵プロセスに影響が生じる可能性が指摘されている。
微小重力環境
国際宇宙ステーションでは、地球上の重力の影響がほぼない「微小重力環境」である。
地上では重力によって液体内部に対流が生まれ、酵母や栄養分が自然に循環する。しかし宇宙ではこの対流の仕組みが大きく変化するため、発酵の進み方や酵母の活動に違いが生じる可能性があると考えられている。
こうした違いが発酵にどのような影響を与えるのかを調べることは、新しい食品研究の分野として注目されている。
宇宙放射線
宇宙空間では、地球の大気や磁場による保護が弱くなるため、宇宙放射線の影響を受けやすい。
微生物は放射線環境に対して変化を示すことがあり、酵母の活動や生成される成分にも影響を与える可能性がある。こうした環境条件の違いが組み合わさることで、地上とは異なる発酵環境が生まれる可能性がある。宇宙利用ビジネスとしての可能性
宇宙産業は近年、ロケット打ち上げや衛星ビジネスに加えて、宇宙環境を利用した医薬品、材料、食品などの研究や製造へと広がっている。
食品発酵もその一つであり、宇宙環境を利用することで、地上では得られない特性を持つ製品が生まれる可能性がある。
この領域はまだ研究段階ではあるものの、将来的には宇宙旅行向け食品や宇宙ブランドの食品など、新しい市場につながる可能性も指摘されている。また、将来は月面での研究も進められる可能性がある。

さいごに
今回の獺祭の醪の帰還は、宇宙環境を利用した食品研究の一例であり、宇宙産業の広がりを示す取り組みの一つといえる。
宇宙開発はこれまで、ロケットや人工衛星といったインフラ開発が中心だった。しかし今後は、宇宙環境そのものを活用する研究や産業も重要な分野となっていくと考えられる。
食品や医薬品、材料などの研究が進めば、宇宙は探査の場ではなく、新しい産業の研究開発拠点としての役割を持つようになるかもしれない。
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参考
獺祭MOONプロジェクト 公式サイト(株式会社獺祭, 2026-03-09閲覧)
ついに宇宙へ。獺祭MOONプロジェクト、世界初の清酒醸造試験 ― 宇宙用醸造装置を10月21日に種子島より打ち上げ ―(株式会社獺祭, 2026-03-09閲覧)









