2024年5月3日、無人月面探査機『嫦娥(じょうが)6号』を搭載したロケット「長征5号遥8」が中国の海南省文昌から打ち上げられた。
嫦娥6号は、月の裏側に着陸、土壌のサンプルを採取した後、地球に帰還することをミッションにしている。この一連のミッションが成功すれば世界初の快挙となる。
本記事では、中国の月面開発の歴史を通じて、嫦娥6号のミッションについてご紹介する。
中国の月面開発の歴史
今回の無人探査機による月面着陸は、中国にとって4回目の挑戦となる。
『嫦娥3号』- 月面着陸に成功
中国が初めて月探査機の月面着陸に成功したのは2013年12月14日のこと。
中国が国家プロジェクトとして推進する月探査計画「嫦娥計画」において、嫦娥1号、2号を月の周りを周回する軌道に投入して軌道上から月の探査を行った後、「嫦娥3号」が月面着陸に成功。
これは、1976年にソ連が実施したルナ24号ミッション以来のものであり、中国は、ソ連、アメリカに次いで月面着陸を成功させた3番目の国となった。
嫦娥3号は、月の表側(地球に面している側)にある月の溶岩が固まってできた平原「雨の海」に着陸したことで知られている。
搭載していた月面探査車「玉兎(ぎょくと)号」とともに、月面からの天体観測や月の内部構造の調査などの科学観測にて、成功を収めている。
『嫦娥4号』- 世界初の月の裏側に着陸
2回目の月面着陸は2019年1月3日。
月面探査車「玉兎2号」を搭載した「嫦娥4号」は、世界で初めて月の裏側に着陸した月探査機となった。
月は常に同じ面を地球側に向けていることもあり、月そのものが障害となる月の裏側では、地球との通信が困難である。
この問題に対して、中国は嫦娥4号と地球との通信を中継する通信衛星「鵲橋(じゃっきょう)」を用いることで、この問題を解決し、話題になった。
『嫦娥5号』- サンプルリターンに成功
2020年12月1日には「嫦娥5号」が月の表側に着陸成功。
中国史上初となるサンプルリターンを目的としたミッションであった。嫦娥5号は月の周りを周回する軌道に配置した帰還船から分離された後に、月の表側にある月の海の1つ「嵐の大洋」に着陸して、サンプルを採取。
着陸から2日後の12月3日に月面を離陸して、軌道上の帰還船にドッキング、無事地球に帰還した。
これにより月のサンプルリターンの領域においても、中国はアメリカ・ソ連に次いで、世界で3番目の国となった。
『嫦娥6号』のミッション内容
月の裏側でのサンプルリターン
今回のミッションで中国は、世界初となる月の裏側でのサンプルリターンに挑戦する。
着陸予定場所は「南極エイトケン盆地」、月の裏側に位置する巨大なクレーターだ。
今回の計画では、月の地域・時代別に応じた月物質のサンプル調査並びに科学探査の実施を予定している。
サンプル採取を完了した後に、月面から離陸して軌道上の帰還船にドッキングし、地球に帰還する。
嫦娥6号の打ち上げから帰還までの全プロセスは約53日を予定している。
また、嫦娥6号と地球間での通信は、事前に打ち上げていた「鵲橋2号」を使用予定だ。
鵲橋2号は、前号機と比較して、性能が大きく向上しているとのことで、今回の嫦娥6号だけではなく、 7号や8号でのミッションにも使用されるとのことだ。
月への輸送ミッション
今回の嫦娥6号は、サンプルリターンだけではなく、国際協力の一環として、他国の衛星や科学機器を月まで輸送するミッションも担っている。
嫦娥6号が月に輸送する機器は以下の4つ。
提供機関 | ミッション機器 | 役割 |
欧州宇宙機関(ESA) | NILS(マイナスイオン探知機) | 太陽風が月面に衝突することで生じる陰イオン等の測定 |
フランス | DORN(ラドンガス探知機) | 月の土壌の物資的性質に関する調査 |
イタリア | レーザー反射鏡 | 地球と月などの天体間の距離の測定 |
パキスタン | ICUBE-Q(キューブサット) | 光学カメラを搭載し、月面を撮像 |
中国は、今回のミッションでも理解できる通り、国際月科学研究ステーション構想(※1)の観点からも宇宙における国際協力には前向きな姿勢を示している。
※1 中国国家航天局とロシアのロスコスモスによって計画されている月面基地構想計画のこと
さいごに
いかがでしたか。
これまでアメリカ・ロシアに次いで月面探査領域に力を入れてきた中国。
今回の嫦娥6号のミッションが成功すれば、月面探査領域において、中国は重要な一歩を進めることになる。
嫦娥計画では、「嫦娥7号」にて月の南極の環境・資源調査を展開し、「嫦娥8号」で7号とともに月の南極における科学ステーションの基本形の構築や、国際月科学研究ステーションの建設を展開する予定となっている。
嫦娥計画が実現されれば、月の環境探査や資源利用実証はもちろんのこと、月を拠点とした火星・金星着陸などの深宇宙探査にも大きく貢献することとなるだろう。