
2026年1月28日、軌道上サービス分野で存在感を高めるアストロスケールのフランス法人(Astroscale France 、以下アストロスケール)と、衛星機動・運用技術を強みとする仏エクソトレイル社(Exotrail、以下エクソトレイル)は、戦略的な提携を結んだことを発表した。
低軌道(LEO)における衛星デオービット(制御離脱)能力の構築を目的としており、両社はそれぞれの技術を補完的に統合し、2030年までに実運用を見据えたデオービット能力実証ミッションの実現を目指す。
本記事では、提携の内容や両社の狙いについて解説する。
目次
提携の概要
本提携の目的は、運用終了後の衛星を安全かつ確実に軌道から離脱させる「制御されたデオービット能力」の構築にある。両社は段階的な技術検証を経て、2030年までに実運用を見据えた実証ミッションの実施を想定している。
本取り組みはフランスを拠点とし、欧州の技術で能力確立を目指す点に特徴がある。宇宙の持続可能性を重視する欧州政策と強く連動したプロジェクトとして位置づけられる。
なぜ今「デオービット能力」なのか
デオービット能力が注目される背景には、低軌道を取り巻く環境の急激な変化と、それに対応する制度・規制の進展がある。デオービットは将来の課題ではなく、現在進行形のリスクに対する実装可能な対策として求められ始めている。
低軌道(LEO)では、小型衛星や大規模コンステレーションの増加により軌道混雑が進み、運用終了後の衛星や破片が衝突リスクを高めている。衝突をきっかけにデブリが連鎖的に増殖するケスラーシンドロームの発生が懸念されているなか、運用終了時に確実に軌道から除去する手段が不可欠となっている。
こうした状況を受け、欧州を中心に、衛星のEOL(運用終了)時に軌道離脱を確実に実行できる体制の重要性が高まっている。
その手段としては、あらかじめ衛星自身に推進系を持たせる方法、抵抗膜などで自然減衰を促す方法など、衛星設計の分野では、衛星自身に自律的なデオービット装置を搭載する設計が重視されつつある。一方で、サービス衛星が接近・捕獲するなど外部から介入して軌道離脱を実行できる手段も必要となっている。

デオービットの方法と技術的シナジー
本提携におけるデオービット方法
本提携でアストロスケールとエクソトレイルが想定しているのは、サービス衛星が対象衛星に接近し、捕獲・制御したうえで、能動的に軌道離脱を行う「外部支援型」のデオービットである。
この方式の特徴は、運用終了後に自力で軌道離脱できない衛星や、将来的な規制強化に対応できていない既存衛星にも適用可能な点にある。あらかじめデオービット機構を搭載していない衛星に対しても、後付けで責任ある撤退手段を提供できる点は、大規模コンステレーション時代において特に重要だ。
両社の役割とシナジー
本提携の特徴は、両社がそれぞれの強みを明確に分担しつつ、単独では成立しにくい高度なデオービット能力を共同で実装しようとしている点にある。
アストロスケールが担う技術領域
アストロスケールが担うのは、近接運用(RPO)や対象物の捕獲・制御といった、デオービットの中核となる技術である。
これらは、軌道上での安全性と成功率に直結する領域であり、同社がこれまで軌道上サービス(OOS)分野で培ってきた技術的知見と運用経験が活かされる。
特に重要なのが、姿勢が不安定であったり、通信や制御が失われた状態にある衛星など、対象側が協調的な動作を行えない物体への接近・制御技術だ。こうした能力は、将来的なデブリ除去や、より高度な軌道上サービス展開にも直結する基盤技術といえる。
エクソトレイルが担う技術領域
エクソトレイルは、高機動サービス衛星「SpaceVan™」を中核として、主に捕獲後のデオービットフェーズを担う。SpaceVan™が持つ電気推進を含む高機動設計により、対象衛星を運用軌道から離脱させ、最終的には大気圏再突入を前提とした軌道へと誘導する構成が想定されている。
このフェーズでは、長時間にわたる精密な推力制御と安定した運用が不可欠となるため、同社が有する推進系技術やミッション運用ノウハウが中核的な役割を果たす。
また、ミッション設計から運用までを一体的に管理できる点も、接近・捕獲・離脱という複雑な工程を伴うデオービット任務において、大きな強みとなっている。
さいごに
アストロスケールとエクソトレイルの提携で重要なのは、それぞれが異なる強みを持つ技術を補完的に組み合わせることで、単独では成立しにくい能力を実装しようとしている点にある。
近接運用や捕獲といった高い制御性が求められるフェーズと、捕獲後に確実に軌道を変更し離脱へ導くフェーズでは、必要とされる技術や運用ノウハウは大きく異なる。両社はその違いを前提に役割を分担し、実運用を見据えた一連のプロセスとして成立させようとしている。
また、こうした能力は商業衛星の運用終了対応にとどまらず、民生と防衛の双方に関わる宇宙インフラの安全性を支える基盤技術としての側面も持つ。軌道上での接近・制御や、確実な撤去手段を確保することは、将来的に防衛分野における宇宙空間の安定利用とも無縁ではない。
本提携が実証段階から実運用へと進展するかどうかは、今後の宇宙産業の方向性を占う重要な指標であり、継続的に注視すべき動きである。









