2024年7月3日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)について、太陽電池パドルやミッション機器のアンテナ展開を含めた一連の作業が完了し、軌道上で衛星を安定して維持できる状態であることを確認したと発表した。
今後、搭載機器の機能を確認する期間へ移行し、約3か月間をかけて衛星全体及び観測センサ等の機能確認を実施する予定だという。
本記事では、「だいち4号」で注目の新技術や機能をご紹介します。
だいち4号とは
「だいち4号」は、2014年5月に打ち上げた日本の地球観測衛星「だいち2号」の後継機である。
三菱電機株式会社が主要製造者として設計・製造を担当しており、JAXAと協力して開発。
新技術の導入によって「だいち2号」の性能をさらに向上させ、世界最高レベルの解像度と広域な観測を実現しており、国土全体の地殻変動、災害状況、地球環境変化、海洋など、多様な分野での貢献を目指す。
また、「だいち2号」と同じ軌道を周っているため、「だいち2号」「だいち4号」の衛星データを組み合せて解析し、両データの観測間に起こった変化等を調べることも可能である。
悪天候時や夜間でも地面の動きを捉える
「だいち4号」並びに「だいち2号」は、合成開口レーダ(SAR)と呼ばれる技術を使用して地球を観測するSAR衛星だ。
SAR衛星は、電磁波の一種であるマイクロ波(波長1m以下)を地表に当てて、その反射を受信することで地表の形状や性質に関する画像情報を取得する衛星である。
太陽光を光源として撮影する光学衛星とは異なり、雲に覆われている場所や夜間における観測も可能だ。
SAR衛星が使用するマイクロ波にはいくつか種類があるが、「だいち2号・4号」が使用するLバンド(波長24cm)は、他のSAR衛星が多く使うXバンド(波長3cm)やCバンド(波長6cm)とくらべて植物の葉等を透過しやすく、より多くの電磁波が地表まで到達する。
これにより、国土の3分の2が森林である日本においても安定して地面の動きをとらえることができるのだ。
だいち2号からの技術的進化
では、「だいち4号」は「だいち2号」と比較してどのような技術的進化を遂げているのだろうか。
主要な新技術としては以下の3つである。
- 地球を観測するための合成開口レーダ(SAR)「PALSAR-3」
- 船舶からの信号を取得し、位置や船種等の情報を自動で識別する装置「SPAISE3」
- 宇宙空間の衛星同士を繋げる光通信機器「LUCAS」
観測幅が4倍!地球観測レーダ「PALSAR-3」
三菱電機が製造を担当した「だいち4号」の地球観測レーダ「PALSAR-3」は、「だいち2号」の4倍の観測幅で地球を観測することが可能。
その秘密は、新技術のDBF-SAR(デジタルビームフォーミング)である。その観測原理は以下のようになる。
- 送信時は観測領域全体に一度にビームを照射
- 受信時は、複数のサブアレイ(小さなアンテナのグループ)で信号を受信。各サブアレイで信号を処理し、それぞれ特定の方向から得た信号のみを強調して他の方向から得た信号を抑制した受信ビームを形成。
- 一度の電磁波送信で、異なる領域の信号が強調された最大4種類のビームを受信することになり、観測幅を拡大できる。
「だいち2号」は災害状況をいち早く調べるために活用されているが、「だいち4号」では、この技術によってより災害域の広い大災害にも備えることができる。
また、観測幅が広がったことで同地域をより高頻度で観測することも可能。
「だいち2号」では日本列島の観測回数が年4回前後であるのに対し、「だいち4号」では約5倍の年20回前後となっており、異変を早期に発見することができる。
世界最先端の船舶自動識別装置「SPAISE3」
続いて、「だいち4号」に搭載されている世界最先端の衛星AIS(船舶自動識別装置:Automatic Identification System)「SPAISE3」。
船舶から送信されるAIS信号を受信する装置であり、JAXAと日本電気株式会社により開発された。
AIS信号とは、船の種類や位置、速度、目的地、積載物などの情報を含み、300トン以上のほぼすべての船から周辺船舶や陸上局に自動的に送信されており、船舶の事故防止等に役立てられているもの。
AIS信号を人工衛星で受信することで、陸上局では受信できない遠方を含む広範囲かつ世界中のAIS信号を取得することが可能となる。
「だいち2号」には「SPAISE3」の前身である「SPAISE2」が搭載されているが、運用される中で、船舶が多い海域では、電波が混みあって受信できなくなってしまう課題が浮上。
その対策技術として、「だいち4号」に搭載される「SPAISE3」では「PALSAR-3」同様のデジタルビームフォーミング技術を採用している。
「SPAISE3」は8つのアンテナからなる5mの大型アンテナによって信号を受信し、指向性の高いビームを生成。(デジタルビームフォーミング)
これにより、特定方向以外からの信号の影響を低減し、信号衝突の問題を軽減する。
また、人工衛星による洋上の船舶の把握にはレーダ衛星画像とAIS受信情報の組み合わせが有効とされており、「だいち2号」は世界で初めてこれらの同時観測を実施した。
「だいち4号」でも引き続きレーダ観測とAISを連携して同時観測を行うことが可能。
レーダ観測はAIS信号を出さない船舶も観測可能であるため、日本周辺の海洋状況把握に役立つことが期待されている。
データ伝送能力アップ!宇宙光通信「LUCAS」
光衛星間通信システム「LUCAS」(Laser Utilizing Communication System)は、衛星同士のデータ送受信を、 波長1.5µmの目に見えないレーザ光を用いた宇宙空間光通信により実現するシステムである。
JAXAを中心に、日本電気等により開発された。
「だいち4号」は高度628㎞の地球低軌道を周回しており、約90分で地球を1周するため、そのままでは1つの地上アンテナとは10分程度しか通信時間を確保できない。
ここで、観測衛星で取得された観測データ(画像等)をいったん静止衛星が中継し、静止衛星から地上局に送ることで、軌道周回1周の約半分の期間(45分程度)通信することが可能となるのだ。
「LUCAS」は、地球から見て常に同じ位置に観測される静止衛星(赤道上空約36,000㎞)と「だいち4号」間の通信を実現する。
JAXAでは、「だいち2号」でも中継衛星を利用したデータ伝送の実績がある。
「だいち2号」では通信速度は240Mbpsで、通信に用いられたアンテナは径が3.6mであった。
一方、「LUCAS」における通信容量は1,800Mbpsとなり、7倍以上高速化。
さらにアンテナ径は0.14mとなり、約1/30と大幅に小型化された。
「LUCAS」は「だいち4号」のみならず、これからの地球観測衛星のデータ伝送の大容量化、即時性のあるデータ取得を可能にし得るツールとして多大な期待が寄せられているという。
さいごに
いかがでしたか。
「だいち4号」は、異なる時期の2回の観測から数㎝~数㎜オーダーの地盤変動を捉えたり、浸水箇所や建物の損壊など災害における被害状況を把握したりすることが可能。
さらに、森林の違法伐採の監視やバイオマスの推定、水田の作付け面積の把握、台風の進路予測なども行うことができ、そのデータ活用方法は他分野にわたる。
今後、実際に「だいち4号」がどのように活躍していくのか注目である。
また、JAXAは「PALSAR-3」観測データを用いたデータ・サービス事業者も募集予定だ。
興味のある方は、こちらをご覧いただきたい。