国土地理院と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、地球のあらゆる地域をカバーする衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)に関する国際機関「国際GNSS事業(IGS:International GNSS Service)」の解析センターとして2023年12月に認定された。
国際GNSS事業とは、地上の位置情報の取得に必要な測位衛星の位置と衛星に搭載された時刻情報を世界最高精度で有する機関であり、その解析センターとして日本の機関が認定されたのは今回が初めてである。
本記事では、GNSSとGPSの違いや衛星測位システムの仕組み、国際GNSS事業に日本の機関が認定された意義などを解説します。
GNSSとは
GNSSは人工衛星を用いて、地球上のあらゆる位置情報を特定する衛星測位システムの総称である。
スマートフォンなどの受信機が最低4機以上の衛星から電波を受信し、受信にかかった時間から衛星と利用者間の距離を求め、その情報をもとに地上の位置を割り出すのが基本。
ナビゲーションやお店検索、測量や災害管理など様々な分野で利用されており、今日では不可欠なものとなっている。
また、測位衛星には精度の高い時計が搭載されているため利用者は測位と同時に正確な時刻を得ることもできる。
GNSSとGPSの違い
位置情報を特定するシステムというと「GPS(Global Positioning System)」という言葉がよく使用されるが、実はGPSはアメリカが運用するGNSSのこと。
GNSSにはGPSの他にも、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国のBeiDouがある。
日本では初期からGPSを利用していたため衛星測位システムを指してGPSとよぶことも多い。
「アロンアルファ」が「瞬間接着剤」を指すのと同様の現象だ。
日本の衛星測位システム「みちびき」
日本の準天頂衛星システム「みちびき」は、アジア・オセアニア地域を対象とした衛星測位システム。
特定地域での測位を実現する衛星測位システム(RNSS:Regional Navigation Satellite System)に分類される場合もあるが、GNSSの一部として機能する場合もある。
2018年から、4機体制での運用がスタート。
衛星測位システムはより多くの衛星から信号を受信して解析することで精度が高まり、「みちびき」はGPSと同一の信号を送信できるためGPS衛星群の一部とみなして使用される場合が多い。
これによりGPSの位置情報の精度を高めているほか、「みちびき」は日本のほぼ真上(準天頂)に長時間留まるよう工夫されているため、GPS衛星が日本の真上にないために信号が日本に届きにくい場合にも位置情報を取得できるようになるのだ。
現在ではiPhone 6s以降のiPhone、多くのAndroidやカーナビなど、私たちの身の回りの多くの機器でGPSなどのGNSSとみちびきの情報が組み合わされて使用されている。
また、「みちびき」は独自の信号も送信することができ、専用の受信機でこれらの信号を受信することでアジア・オセアニア地域にて誤差数㎝の位置情報を取得することも可能にしている。
今後、みちびきはさらに3機の衛星の打ち上げが予定されており、合計7機体制になることでGPSなど他国の測位衛星を利用せずとも常に日本での位置情報を取得することが可能となる見込みだ。
衛星測位システムの仕組み
衛星測位システムは複数の衛星から信号を使用してスマートフォンやカーナビなどの受信機の位置を決定する。
この際、それぞれの衛星からの信号がどの程度の時間で到達したかを測定。この測定された到達時間と各衛星の位置情報を使用して、受信機と各衛星との距離・方向を計算することで受信機の位置を求めるのだ。
そのため、衛星の位置が正確にわからないと自分がいる場所を正確に計算することはできない。
多くのGNSS衛星は高度20,000㎞以上、特に 「みちびき」は、高度約32,000~40,000kmの位置にいるが、衛星の位置を1m以内の誤差で予測する必要がある。
また、衛星からの信号の到達時間を測定して受信機と衛星間の距離を求めるには、受信機と衛星間の時刻の同期も必要となる。
測位衛星には高精度の時計が搭載されているのだが、わずか1マイクロ秒(100万分の1秒)の時刻のずれが約300mもの測距誤差を生む。
このため、地上ではGNSS衛星の位置や時刻情報(精密暦と呼ばれる)を正確に算出する必要があるのだ。
IGSの解析センターに日本機関が初認定
地上ではあらゆる機関がGNSS衛星の位置や時刻情報(精密暦)を算出しているが、世界で最も高い精度を有し、実質的な国際標準として広く活用されているのが「国際GNSS事業(IGS:International GNSS Service)」の精密暦である。
国際GNSS事業ではこれまで計12の解析センター(北米、欧州、中国)が承認されており、各解析センターが独自に算出した精密暦を国際GNSS事業が統合処理することで世界最高精度の精密暦を算出してきた。
しかし、2023年12月1日に開催された国際GNSS事業の会議において、国土地理院・JAXAの算出する精密暦の品質が認められ、解析センターとして日本で初めて認定されたのだ。
国土地理院・JAXAが解析センターとしてこの精密暦の算出に参画することで、日本が高精度測位に必要となる基盤の整備に大きく貢献することとなる。
位置情報は国家安全保障や国土測量、その他多くの分野で重要な情報であり、これまで、日本の位置の基準は海外機関に大きく依存しているという課題があったが、今回の認定はこの課題の解決に繋がると考えられる。
また、国際社会において日本の技術の信頼が高まることにより、国内外での取引や協力関係の強化や関連事業・製品の世界の市場における競争力の向上に期待できるとだろう。
さいごに
いかがでしたか。
世界でトップの技術を日本が独自で有し、それが国際社会で認められていることは非常に重要な意義を持つだろう。
また、これまで日本の位置情報は他国の衛星・技術に依存していたが、今後はみちびき3機の打ち上げも予定されており、日本の位置情報は日本の衛星と技術で取得可能となる。
日本の技術のさらなる発展が楽しみだ。