日本のロケット開発企業であるスペースワン株式会社が、2024年3月9日(土)11:00~12:00頃にカイロスロケット初号機の打ち上げを実施する。
打ち上げ場所は同社が所有する射場「スペースポート紀伊」。衛星は内閣衛星情報センターの「短期打上型小型衛星」を搭載する。
今回、民間が所有する発射場からの衛星の打ち上げと、ベンチャー企業によって開発されたロケットによる衛星の打ち上げはともに国内初。
本記事では、スペースワンのロケット「カイロス」の特徴や強みについてご紹介します。
目次
スペースワンとは
スペースワン株式会社は、小型衛星用の宇宙輸送サービスの開発・事業化を行う企業。
同社はキヤノン電子株式会社と、株式会社IHIエアロスペース、清水建設株式会社、株式会社日本政策投資銀行等の共同出資により設立された。
設立の背景には、近年の民間の宇宙ビジネス参入に伴う小型衛星の打ち上げ需要の拡大や、2016年11月に人工衛星等の打ち上げ及び管理に関する法律が成立したことによる事業環境の進展がある。
上記の4社は、2017年に小型衛星の打ち上げサービスの早期事業化に向けて企画・検証を加速させるため「新世代小型ロケット開発企画株式会社」を発足。
翌年の2018年に、事業化に向けて社名を「スペースワン」に変更し、「信頼に足るビジネスパートナーとして、利便性の高い宇宙輸送サービスを、世界最高の打上げ頻度で、提供すること」を企業理念として掲げて事業を展開してきた。
2019年には和歌山県串本町を小型ロケットを打ち上げる自社専用の射場の建設地に選定し、民間企業が建設する日本初のロケット打ち上げ射場の工事に着工。
その後も射場の建設と小型ロケット「カイロス」の開発を進め、今回、同射場「スペースポート紀伊」によるカイロスロケット初号機の打ち上げに至った。
カイロスロケットについて
基本情報と特徴
カイロスロケットの基本情報は以下の通り。
- 基本構成:3つの固体燃料エンジンを搭載した3段式+第4段目に小型衛星を軌道に投入するための液体燃料エンジン(キックステージ、PBS)を搭載
- 高さ:約18m
- 重量:約23t
- 直径:約1.35m
- 人工衛星打ち上げ能力:高度500㎞の地球低軌道の場合に250㎏(高度500㎞の太陽同期軌道[*1]の場合は150㎏)
また、特徴は以下の4つ。
- 世界最高水準の衛星軌道投入精度を実現するため、3つの固体エンジンに推力方向制御装置(TVC)、小型衛星が格納されている4段目に追加の推進力を提供するシステム(キックステージ)を搭載。
- 衛星を搭載する空間は広く設計されており、2機の小型衛星や多数の超小型衛星をまとめて打ち上げることも可能。
- 飛行を制御する電子機器に自動車用部品等の民生部品を活用し、小型・軽量かつ最高の性質と低コストを実現。
- 固体燃料エンジンのモーターケースに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を採用し軽量化かつ高信頼性を獲得。軽量化により燃料の低コスト化を実現。
名前の由来はギリシア神話に登場する時間神
カイロス(Kii-based Advanced & Instant ROcket System)の名前の由来は、ギリシア神話に登場する時間神カイロス。
契約から打ち上げまでの時間を世界最短、世界最高の打ち上げ頻度の宇宙輸送サービスの提供を目指すスペースワンの『時間を味方につけて市場を制する』という思いから命名されたという。
また、カイロスにはギリシア語でチャンス(好機)という意味も含まれており、変化の激しい市場環境に即時に対応し、自ら好機を掴み取り、宇宙輸送サービス事業を成功に導くという意思も込められている。
さらに、カイロス(KAIROS)の「K」に紀伊という地域性も表しており、地元の方々に愛着をもっていただくことも期待されているのだ。
スペースワンの宇宙輸送サービス
成功すればベンチャーとして「国内初」。スペースワンの強みとは?
日本はかつて、「官主導」の宇宙開発により、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中心に三菱重工業やIHIエアロスペースなどの企業がロケット開発を行ってきた。
しかし、現在は「民主導」の宇宙ビジネスへと変化しており、様々なロケット開発ベンチャーが宇宙輸送サービスの開発を目指す。
2019年以降、日本のロケット開発ベンチャーは、観測を目的に短時間、宇宙空間を飛行する観測ロケットの打ち上げには成功していたが、人工衛星を宇宙に輸送するロケットの打ち上げはまだ実現されていない。
ではなぜ、2018年に設立したスペースワンが、国内初となるベンチャーによる衛星打ち上げを実現することができるのか。
その強みは、同社を設立した異業種4社の知見とノウハウによる高い経営安定性と技術力にあるだろう。
キヤノン電子
キヤノン電子はキヤノングループの大手機械メーカー。カメラ用主要ユニットや磁気製品などの精密機器を扱う企業。
宇宙事業としては、その精密機器技術や光学技術を活かして超小型人工衛星の開発や衛星に搭載する望遠鏡の開発などを行ってきた。
先日打ち上げに成功したH3ロケット試験機2号機にも同社の超小型衛星が搭載されており、打ち上げに成功して話題となった。
キヤノン電子はこれまで培ってきた民生機器の量産やコスト削減の知見・ノウハウをスペースワンのロケットシステムに活用。小型・高機能・低コスト化に貢献している。
IHIエアロスペース
IHIエアロスペースは、固体燃料ロケット「イプシロン」の開発・運用や、その他ロケット・衛星など宇宙機のエンジンシステムの開発などを通して日本の宇宙開発を支えてきた企業。
その知見・ノウハウにより、スペースワンの輸送サービスの確実な開発と高い信頼性の実現に貢献する。
清水建設
清水建設は建設事業を中心に、不動産開発、エンジニアリング事業などを展開する企業。
宇宙事業の始まりは1987年で、宇宙建築やスペースポート、宇宙太陽光発電などの研究を行ってきた。
スペースワンでは宇宙輸送サービスに必要となる各種インフラ等に関する知見・ノウハウを活用。打ち上げが実現すれば日本初となる民間主体による衛星打ち上げ射場を建設している。
日本政策投資銀行
日本政策投資銀行は、長期の事業資金に係る投融資業務等を行う政府系金融機関。
様々な投資案件を通じて蓄積してきたエクイティファイナンスの知見・ノウハウを活用し、長期的なロケット打ち上げ事業を行うための経営安定性に貢献している。
固体燃料ロケットにより即応性と低コストな輸送サービスの実現を目指す
スペースワンの開発する固体燃料ロケットは燃料を充填した状態で保管ができるため、短時間の射場作業で打ち上げることが可能。
また、構造はシンプルで部品点数も多くないといい、同社はこの特性を活かして以下のような宇宙輸送サービスの実現を目指している。
- これまで2年程かかっていた衛星打ち上げ契約から打ち上げまでの期間を1年以内に短縮
- 2020年代中に年間20機以上のロケット打ち上げ
- 打ち上げオペレーションを短くし、衛星受領から4日間での打ち上げ
- 固体燃料ロケットならではのシンプルな構造によるさらなる低コスト化
さいごに
いかがでしたか。
「官主導」から「民主導」への第一歩としてカイロスロケット初号機の打ち上げ成功に期待したい。
同ロケットの打ち上げ概要や配信情報は以下の通り。土曜日の打ち上げ予定なので、ぜひオンタイムでご覧ください。
カイロスロケット初号機打ち上げ概要・配信情報
- 打ち上げ予定日:2024年3月9日(土)
- 打ち上げ予定時刻:11:00~12:00頃
- 打ち上げ予備期間:2024年3月10日(日)から2024年3月31日(日)
- 打ち上げ場所:スペースワンが所有する打ち上げ射場「スペースポート紀伊」
- 搭載衛星:短期打上型小型衛星(内閣衛星情報センター)
搭載する「短期打上型小型衛星」は、日本の内閣官房が運用し、安全保障や大規模災害への対応などを行う情報収集衛星に不測の事態が発生した際に、短期間で打ち上げて一定期間代替することを目的とする小型衛星。
今回の打ち上げにより、その宇宙実証(有用性の評価)を実施するという。
打ち上げの見学場の入場チケットはすべて完売しており、無料WEB配信やサテライト会場の無料パブリックビューイングにより打ち上げを応援することが可能。
ライブ配信はYOUTUBEやニコニコ動画、パブリックビューイングはサービスエリアや道の駅などで行われる予定だ。詳しくはカイロスロケット初号機打ち上げ応援サイトをご覧ください。