人工衛星の開発にはお金も時間もとにかくかかる。
そんな高価な人工衛星を延命させるべく、近年注目を集めているのが軌道上サービスだ。
これは軌道上の人工衛星を修理するための人工衛星を開発し、修理するといったサービスなのだが、ここで気になるのは、「軌道上サービスなどは使用せず、新しく人工衛星を作り直す方がコスパが高いのでは」といったところだろう。
今回の記事では、そんな疑問を解決すべく、軌道上サービスは本当にコストパフォーマンスが高いと言えるのかについての記事を書いてみようと思う。
(以下、軌道上サービスのために用いられる衛星のことをわかりやすくするため、補助衛星と呼ぶ)
軌道上サービスについて
まず、コストパフォーマンスを比較する上で、軌道上サービスがどのようなサービス設計のもと、成り立っているのかについておさらいしておこう。
軌道上サービスとは、既に軌道に投入されている衛星の修理や燃料の補充、軌道上の宇宙ゴミの廃棄作業などを別の人工衛星に担ってもらう延命サービスのことである。
それこそ、人工衛星のお医者さんと思ってもらえれば想像しやすいだろう。
軌道上サービスを運用する上での補助衛星の基本的な役割としては、
- 衛星に燃料を補充する補給
- 衛星や宇宙ステーションの部品交換や修理などを行うメンテナンス
- 軌道上にある宇宙ゴミや、使われなくなった衛星を回収するクリーンアップ
- 軌道上に新たな衛星を打ち上げ、運用開始前の設定や、軌道の調整などを行う配備
この4つに分類される。
その中でも今回は、衛星そのものの延命の観点で重要になる補給とメンテナンス面に着目。
そこからサービスの使用有無を比較することで、コストの観点から軌道上サービスの必要性を解いていくのがわかりやすいだろう。
軌道上サービスを利用しない場合
まずは軌道上サービスを使用せずに、新規で衛星を作ると仮定した場合の、打上げコストについて見てみよう。
大型衛星
GPSや気象情報等の複雑で高性能な機能を搭載している大型衛星の費用は非常に高額。
開発から打上げまでの合計金額を考えると、数百億円から数千億円規模まで跳ね上がってくる。
当然のことながら、多大なお金と時間がかかっているので打上げ失敗時の損失は極めて大きいと言える。
小型衛星
一方、ライドシェアなども可能な小型衛星の場合は、割とお手頃で、数億円から数十億円の費用感が相場である(それでも高いですが...)。
打上げ失敗時のコスト損失も大型衛星と比べると、圧倒的に小さくなる。
軌道上サービスを利用する場合
次に、軌道上サービスを利用する場合のコストについて考えてみよう。
軌道上サービス用の補助衛星
補助衛星の相場価格は、数十億円から数百億円と一般的に言われている。
それこそ、専門の機器や補充燃料などを積んでおり、また比較的新しい技術であるため、大型衛星以上に打上げまでのコストがかかる場合があるのだ。
修理 VS 新規
では、改めて軌道上サービスを利用する場合(修理)と新しく衛星を打ち上げる場合(新規)、どちらの方がコストパフォーマンスが高いと考えられるのだろうか。
答えは、大型衛星の場合は、軌道上サービスを使用することでコストが抑えられ、小型衛星の場合は、サービスを使用しないことでコストを抑えることができるが正解であろう。
大型衛星も補助衛星もどちらも打上げまでに巨額の費用が発生するが、軌道上サービスで使用される補助衛星の場合、1回の打上げで複数の衛星にサービスを提供できる利点がある。
これが結果として、衛星1機当たりの開発費を抑えることに結びついている。
実際に、インテルサットに提供された燃料補給サービスの例では、軌道上サービスによって1年あたり17億円も安く衛星を利用できたことが分かっている。
一方で、小型衛星の場合は、打上げまでの費用が比較的安価なため、軌道上サービスの利用料の方が割高になる可能性がある。
とはいえ、軌道上サービスの利用料が安くなるとともに、小型衛星の開発・打ち上げ費用も安くなることが今後予想されるため、小型衛星については、限定的に軌道上サービスを利用することが適切な場合もある。が正しい答えなのであろう。
さいごに
今回は、補給・メンテナンスに関する軌道上サービスが本当にコストパフォーマンスが良いのかということを検討した。
今後、軌道上サービスの発展とともに大型衛星の運用は長期化していくが、同時に小型衛星の打ち上げ数も増加していくのではと予想されている。
となると、これから課題になってくるのがスペースデブリ問題であろう。
次回は、スペースデブリに対する軌道上サービスの有意性について比較検討しようと思う。
どうぞご期待を。
参考: