
H3ロケットは、JAXAと三菱重工業を中心に開発された日本の新たな基幹ロケットである。一方で、その開発や打上げの裏側には、さまざまな専門技術を持つ企業の存在がある。
本記事では、H3ロケットを支える企業として、イーグル工業株式会社、IMV株式会社、日本航空電子工業株式会社の3社を取り上げ、各社とH3ロケットとの関わりや技術の特徴についてご紹介する。
目次
H3ロケットとは
H3ロケットは、H-IIAロケットの後継として開発された日本の新たな基幹ロケットである。
安全保障や災害対応、通信、地球観測などに必要な人工衛星を、海外の打上げサービスに依存せず自国で打ち上げられる体制を持つことは、日本の宇宙利用の基盤となる。H3ロケットは、こうした国内需要に対応するとともに、国際的な打上げ市場で競争力を高めることも視野に開発された。
開発では、「柔軟性」「高信頼性」「低価格」が重視された。打上げコストの低減によって商業衛星市場での競争力向上を目指す一方、多様なミッションに対応できる運用性や、安定した打上げ能力の確保も重視している。
機体は、第1段エンジン「LE-9」、第2段エンジン「LE-5B-3」、固体ロケットブースタ「SRB-3」などで構成される。ミッションに応じて、第1段エンジンの基数やブースタの本数、衛星フェアリングの種類を組み合わせることができ、打ち上げる衛星の規模や投入軌道に合わせて機体形態を選択できる設計となっている。

H3ロケットを支える企業3選
イーグル工業|“漏れ“を防ぐ技術
イーグル工業は、液体やガスが外部へ漏れることを防ぐ各種シール製品をH3ロケットに提供した。
一例が、エンジンにおいて推進薬を燃焼室へ送り込むターボポンプ向けのシールである。ターボポンプでは、軸が高速で回転するため、本体との間にわずかな隙間が必要になる。しかし、その隙間から推進薬が漏れれば、エンジン性能の低下や機器の損傷につながるおそれがある。
それに対し、ターボポンプ向けシールでは、軸とともに回転する「回転環」と、本体側に固定された「固定環」を組み合わせ、両者が向かい合う接触面で漏れを抑える。

ただし、強く押し付けすぎると摩耗し、隙間が大きすぎると漏れが増えるため、接触面にごく薄い液膜を形成することで密封性と摩擦低減を両立させている。この際、接触面では、わずかな表面形状の違いが密封性能や耐久性に影響するため、ミクロン単位の精度が求められる。
同社は1967年に日本の液体燃料ロケット用ポンプシールの開発を始めて以降、Nロケット計画やH-I、H-II、H-IIA、H-IIBなど、国産基幹ロケットの開発・運用を支えてきた。1974年には、“世界で最も漏れ量の少ない”液体水素シールを開発しており、半世紀以上にわたって日本の液体ロケット開発を支えている企業といえる。
IMV|振動試験でロケットの信頼性を支える企業
IMVは、振動試験装置や振動計測装置、受託試験サービスなどを展開する企業である。自動車、電機、航空宇宙など、さまざまな分野で製品の信頼性を確かめる試験・計測技術を提供している。
IMVの強みは、振動試験装置の開発・製造に加え、受託試験、計測、解析まで幅広く手がけている点にある。単に装置を提供するだけでなく、試験条件の検討や、試験で課題が見つかった場合の対策支援まで行えることが特徴である。
ロケットや宇宙機器は、打上げ時に大きな振動や衝撃を受ける。そのため、機体や搭載機器が過酷な環境に耐えられるかを、地上で事前に確認することは、ミッション成功のために欠かせない。
IMVは、航空・宇宙・防衛分野でも振動試験サービスを提供してきた実績を持つ。H3ロケットでも振動試験への貢献を評価され、JAXAから感謝状を受領している。
日本航空電子工業|H3を軌道へ導く慣性センサユニット
日本航空電子工業は、コネクタ、インターフェース・ソリューション、航空・宇宙用電子機器などを手がけるメーカーである。宇宙分野では、ロケットや人工衛星に関わる電子機器も展開している。
H3ロケットには、同社が開発・製造した慣性センサユニットを提供した。
慣性センサユニットは、ロケットの姿勢や方位、飛行中の角速度、加速度などを測る装置である。ロケットは、打上げ後に予定された軌道へ向かうため、飛行中の機体の向きや動き、加速状態を正確に把握する必要がある。そのため、ロケットは、慣性センサユニットから取得した情報をもとに機体を制御し、衛星や探査機を目的の軌道へ運ぶ。
日本航空電子工業の技術は、1966年には宇宙実験用ロケットに採用されており、以来、日本の基幹ロケットを支えてきた。H3ロケット向けの慣性センサユニットでは、これまでの開発・製造実績を活用しながら、設計全般を刷新。
また、高額な宇宙専用電子部品のの見直しを進め、車載用電子部品を積極的に採用するなどし、性能向上・高信頼性の確保とコストダウンの両立に取り組んだ。
さいごに
宇宙産業の仕事はロケットメーカーだけに限られない。それぞれの専門技術があるからこそ、ロケットの安全な打上げや正確な軌道投入は成り立つ。
宇宙業界に関わる仕事は、機械、電気電子、制御、試験評価、品質保証、生産技術など、さまざまな職種に広がっている。H3ロケットの裏側にある企業を知ることは、宇宙産業で働く選択肢を広げるきっかけにもなる。興味のある方は、宇宙業界特化の人材マッチングサービス「スペジョブ」をチェックしていただきたい。














