荏原製作所、宇宙輸送の新段階に向け電動ターボポンプの実液試験に成功
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2025年9月18日、株式会社荏原製作所は、2022年から開発を進めてきたロケットエンジン用電動ターボポンプに関して、液化天然ガス(LNG)と液体酸素(LOX)を用いた実液試験を実施し、安定稼働を確認したと発表した。

本記事では、この電動ターボポンプ開発の背景、技術的意義、今後の展望について解説する。

荏原製作所について

荏原製作所は1912年に創業した、日本最大手のポンプメーカーである。建築、エネルギー、農業、環境、インフラ、精密・電子といった幅広い産業を支え、国内外で高いシェアを確立している。

宇宙分野への取り組みは2000年代初頭に始まり、同社が得意とする回転機械技術を活用し、JAXAのロケットエンジン用ターボポンプの改良を支援してきた。JAXA宇宙探査イノベーションハブの研究テーマでは、三菱重工と共同で「外部漏れなく腐食性の強い流体を加圧できる電動遠心ポンプ」の開発課題に取り組んでいる。

2021年には本格的に宇宙事業を立ち上げ、低コストかつ高い柔軟性を備えた輸送手段の実現に向けて、ロケットエンジン用電動ターボポンプの開発を開始

2024年には将来宇宙輸送システム株式会社と協定を締結し、自社開発の電動ポンプを活用したロケットエンジンの共同開発に着手するなど、宇宙輸送の信頼性と性能向上に資する取り組みを加速させている。

ターボポンプの役割と開発課題

ターボポンプの役割

ターボポンプはロケットエンジンの「心臓部」と呼ばれる重要なシステムである。

燃料と酸化剤をタンクから高圧で燃焼器に送り込み、燃焼によって生じた高温・高圧ガスをノズルから噴射することで推力を得る液体ロケットにおいて、燃焼器へ確実に推進剤を供給する役割を担う。

内部にはタービンが備えられ、1分間に数万回転、超高速で回転しながら軸でつながったポンプを駆動し、推進剤を高圧にして送り出す。軸受や軸シールなどの機構は、極低温・低圧の燃料と高温・高圧のガスが混ざらないように設計されており、極めて高度な技術が求められる。

開発課題

ターボポンプは、超高速回転に伴う振動や熱に耐える強度を備えつつ、同時に軽量化も求められるため、ロケットエンジン開発の中でも特に難易度が高い分野とされる。

現在主流の「ガス駆動式ターボポンプ」は、一部の燃料や酸化剤を燃焼させて得られる高温・高圧ガスでタービンを回す方式だが、構造が複雑でコストも高く、運用面での制約も多い。

荏原製作所が開発する電動ターボポンプの特長

一方で荏原製作所が取り組むのは、バッテリー電力でモータを駆動する電動式ターボポンプである。従来のガス駆動方式に比べて構造を大幅に簡素化でき、出力制御も容易となる。これにより、システムとしての簡素化や信頼性向上、精密なスロットル制御が可能になる。

同社の開発対象は、次世代の低コスト・再使用型ロケットで注目される液体メタンを燃料としたエンジンであり、現在は推力3トン級の小型〜中型のロケットを想定している。

ニュージーランドのRocket Labが開発する小型ロケット「Electron」ではすでに電動ターボポンプを実用化[※1]しているが、日本国内ではまだ前例がない。

荏原製作所の取り組みは、日本で初めて本格的に電動ターボポンプを導入する試みであり、将来の宇宙輸送システムの信頼性と効率性を高めるうえで重要な一歩といえる。

[※1]Rocket Lab「Electron」ではRP-1/LOXを用いる電動ポンプ式がすでに実用化されているが燃料種は本開発のLCH₄/LOXとは異なる

荏原製作所 電動ターボポンプの実液試験のようす
試験のようす(荏原製作所 プレスリリースより引用)

試験結果と今後の展望

荏原製作所は2024年9月、液体窒素を用いた性能試験で設計通りの動作を確認していた。今回は新たに、液体メタンを多く含む液化天然ガス(LNG)と液体酸素(LOX)を用いた実液試験を実施した。

荏原製作所 電動ターボポンプ試験の概要
荏原製作所 電動ターボポンプ試験の概要 ©Space Connect

試験では異常振動や液体漏洩といったトラブルは発生せず、目標回転数への到達とともに、流量・圧力といった計画データを正確に取得できた。要するに、同製品の安定稼働が実証された。

今後は2028年の実用化を目標に、さらなる性能向上に向けた詳細設計と追加試験を重ねていく方針である。

さいごに

改めて電動ターボポンプ最大の強みは、シンプルな構造と高い制御性にある。

モータ制御によって推進剤の流量を精密に調整できるため、エンジン推力を自在にコントロールでき、再使用型ロケットに不可欠な着陸時の推力制御や、多段階での推進最適化にも直結する重要な特長を有している。

今回の実液試験で得られた成果は、こうした電動方式の有効性を明確に示すものであり、2028年の実用化が実現すれば、ロケット開発においては、設計自由度と運用効率を高める上で重要な要素となるだろう。

参考

実液を使用したロケットエンジン用電動ターボポンプの運転試験完了(荏原製作所, 2025-09-23)

新しい宇宙輸送の早期確立へ!将来宇宙輸送システムのエンジン開発戦略とは(Space Connect, 2025-09-23)

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