従来の衛星の課題を解決!?日立が「構造化電波」技術の原理検証に成功
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2025年8月5日、株式会社日立製作所(以下、日立)は、宇宙からの地球観測に用いる新技術「構造化電波」の原理検証に成功したと発表した。

本記事では、構造化電波の概要と技術的特徴について紹介する。

背景:地球観測衛星の課題

気候変動に伴う自然災害の激化や社会インフラの老朽化を受け、衛星による広域観測の重要性は高まっている。

しかし既存の技術には課題もある。光学観測は人の目で見えるような直感的な画像が得られる反面、雲や時間帯の影響を受けやすい。電波を用いたSAR(合成開口レーダー)観測は、昼夜・天候を問わず利用できるものの、観測対象の形状が歪みやすく、直感的に理解しにくい傾向がある。

このため、天候や時間に左右されず、かつ多角的なデータを直感的に解釈できる新たな観測技術が求められてきた。

その解となり得るのが、今回、日立が原理検証に成功した構造化電波である。

「構造化電波」について

概要

「構造化電波」は、従来の電波観測では困難だった、物体の形状や動き、材質などの情報を同時に取得する、日立独自の電波制御および解析技術だ。

電波の波の形、偏波状態、位相、周波数といったさまざまな性質を組み合わせることで、観測目的に応じた最適な電波を生成・解析できるのが特長である。

この技術を衛星観測と組み合わせることで、災害監視、社会インフラの維持管理、環境モニタリングといった分野において、現場の迅速な意思決定や異常の早期発見への貢献が期待されている。

衛星における光学センサ・SAR・構造化電波の特徴
衛星における光学センサ・SAR・構造化電波の特徴 ©Space Connect
従来の平面波(左図)と、今回開発した構造化電波(右図)の比較(緑色:波面、矢印:電界ベクトル、右端のカラーマップ:電界の正負の振幅)
従来の平面波(左図)と、今回開発した構造化電波(右図)の比較(緑色:波面、矢印:電界ベクトル、右端のカラーマップ:電界の正負の振幅) ©株式会社日立製作所

技術的特長

日立が開発した「構造化電波」技術の注目ポイントは以下の3つ。

1|電波状態の自由設計と制御

上図右のように、渦状の波面(OAM:軌道角運動量)を重ね合わせてつくられる構造化電波の状態を、ユーザーインタフェース上で視覚的に確認しながら設計・制御可能。

観測対象に最も感度の高い電波を選択することで、観測精度の向上が期待される。

2|物体識別と速度推定

構造化電波の周波数成分を分析することで、以下の情報を高感度に取得。

  • OAMスペクトル:波面の渦状成分の種類や強さの分布
  • ドップラー成分:ドップラー効果(観測対象の移動に伴う周波数の変化)で得られる周波数成分

対象物の形状、材質、動きなどを同時に把握可能となり、インフラ異常や災害リスクの早期発見につながる。

3|直感的なデータ解釈

反射・散乱波の特徴を解析し、観測結果を視覚的に表現。

観測データの解釈が容易になり、現場での迅速な意思決定やインフラ健全度評価の高度化、環境モニタリングの効率化が実現する。

構造化電波を利用した地球観測のイメージ図
構造化電波を利用した地球観測のイメージ図 ©株式会社日立製作所

技術の原理検証に成功

日立は今回、電波と同様に波としての性質を持つ音波を用いて構造化電波の挙動を再現し、技術の原理検証を行った。

具体的には、8素子円形スピーカーアレイを用いて、渦状の波面(OAM)を持つ構造化音波の生成・受信実験を実施。その結果、以下の効果が確認された。

  • 観測対象に応じた電波を生成するための、波面構造の制御
  • 渦の種類や強さの分布を示すOAMスペクトルの検出
  • 多変数データの取得

従来の電波観測で課題とされていた情報の少なさや直感的解釈の困難さを克服し、全天候・24時間対応で高精度かつ高機能な観測手法としての実用性を示した。

さいごに

日立は構造化電波の電波生成技術やデータの抽出・取得技術を開発し、天候や昼夜を問わず、多様な情報を高精度に取得できる新たな観測手法としての可能性を示した。今後は、パートナー企業や研究機関との連携を通じて実際の電波を用いた実証などを進め、社会実装を推進する方針である。

本技術の普及により、インフラ管理の効率化や災害リスクの低減、環境負荷の最小化など、持続可能で安全・安心な社会の実現を目指している。

参考

日立、宇宙からの災害監視・インフラ管理の精度を高める「構造化電波」技術の原理検証に成功(日立製作所、2025-08-06)

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