Amazonの衛星通信計画「プロジェクトカイパー」初打ち上げへ!― 2025年4月29日に実施予定

現在、SpaceXが展開する「Starlink」が低軌道(LEO)ブロードバンド市場をほぼ独占しており、世界中でその利便性が認識され始めている。

日本国内では災害時などに有効活用された事例もある中、Amazonも独自の構想で本分野への本格参入を進めている。それが「プロジェクトカイパー(Project Kuiper)」である。

本記事では、プロジェクトカイパーの概要から技術的特長、開発の進展、そして2025年4月29日に予定されている初の本格打ち上げ計画までを詳しくご紹介。

プロジェクトカイパーとは

Amazonが手がける「プロジェクトカイパー」は、低軌道通信衛星コンステレーションによるグローバルなインターネット提供を目指すプロジェクトである。

すでに米国国防総省防衛イノベーションユニット(DIU)や空軍研究所との共同研究にも参加しており、政府・防衛分野との連携強化も進めている。

低軌道通信衛星コンステレーションについて

低軌道通信衛星コンステレーションは、低軌道(高度約2,000km以下)に多数の通信衛星を配置し、災害時、山間部、離島など地上インフラが利用できない地域を含む世界中に高速インターネットを提供することを目的とする。

このネットワークサービスの特長は以下の3つ。

  • 従来の静止衛星通信と比べて通信速度が速く、遅延が少ない
  • 地上インフラが利用できない地域や災害時にも通信を利用可能
  • 多数の衛星を配備することで、地球全体をほぼ常時カバーできる

従来の衛星通信では、地球からみて常に同じ場所にある静止衛星(高度約36,000km)が利用されることが一般的であったが、地球から遠い場所にあるため、0.6秒以上の遅延が発生することが課題の一つとなっていた。その点、低軌道衛星は高度が低いため、信号の往復距離が短く、より高速な通信が可能である。

一方、低軌道衛星は地球に対して高速で移動しており、1つのアンテナと通信できる時間は限られる。しかし、多数の衛星で連携するコンステレーションにより、継続的な通信接続が実現される。

同様の技術としては、SpaceXが展開する「スターリンク(Starlink)」が広く知られており、実際に戦時下のウクライナや、日本の災害時にも有効に活用された事例がある。

プロジェクトカイパーの仕様

プロジェクトカイパーの特長は下図の通り。

プロジェクトカイパーの仕様
プロジェクトカイパーの仕様 ©Space Connect株式会社

プロジェクトカイパーの衛星は、590〜630kmの高度を周回。第一世代の衛星システムでは合計3,232機の打ち上げが計画されている。

また、地上で使用されるユーザー端末(通信用アンテナ)は、通信速度と大きさが異なる3タイプが用意されている。

標準端末は約28㎝四方未満、厚さ約2.5㎝未満、重量は約2.3kg未満とコンパクトでありながら、最大400Mbpsの通信速度を実現する。

最大400Mbpsの速度があれば、HD動画(約1GB)を20秒程度でダウンロードできる計算となり、一般的な家庭用インターネットとしては非常に高速な水準である。

最小サイズの端末は約18cm四方、重量は約450gで、最大100Mbpsの通信速度を実現する。これは家庭用のほか、モバイルやIoT用途にも適している。

一方、最大かつ最も高性能な端末は約48cm×76cmのサイズで、最大1Gbpsの通信速度を誇り、企業や政府機関など高帯域幅を必要とする利用者向けに設計されている。

打ち上げが実現するまでの流れ

Amazonは2018年にプロジェクトカイパーの開発を開始し、2023年10月に2機のプロトタイプ衛星(KuiperSat-1とKuiperSat-2)の打ち上げと展開に成功した。

この試験では、通信ペイロードの性能確認に加え、地上端末との接続試験、信号の遅延・安定性の検証など、商用サービスに向けた重要な評価が行われた。その中でも特筆すべき成果が、光衛星間リンク(OISL: Optical Inter-Satellite Link)の実証である。

光通信間リンクは、赤外線レーザーを用いて地球を周回する衛星同士が直接通信する技術であり、個別の衛星と地上局との通信に加えて、宇宙空間内で衛星間ネットワークを構築できる点が特長である。

Amazonは、各カイパー衛星に複数の光端末を搭載し、高速なレーザー通信によって多数の衛星を同時に接続するメッシュ型ネットワークの構築を目指している。

このメッシュネットワークにより、ネットワーク全体のデータ転送量向上と遅延削減が実現できる。

たとえば、地上からの通信が難しい地域でも、他の衛星を介してデータを伝送できるため、接続の柔軟性と復元性が大幅に向上する。また、宇宙空間では光が真空中を通ることで信号損失が少なく、同等距離を地上の光ファイバーで送る場合と比べて約30%高速に通信できるとされている。

光通信間リンクの実装には、最大2,600kmを超える距離を高精度で結びつける必要があり、さらに時速25,000km以上で移動する衛星同士の相対位置の変化をリアルタイムで補正するという高度な技術が求められる。

Amazonはこれに対応する独自の光学システムと制御アルゴリズムを開発し、KuiperSat-1および2での軌道上実証において、約1,000kmの距離で100Gbpsの双方向通信を維持することに成功した。

これらの成果により、プロトタイプ衛星は機能要件を満たし、その結果、今回打ち上げ予定の最初の量産衛星において光通信間リンクを運用可能であることが確実となった。

2025年4月29日の初打ち上げについて

今回予定されている「KA-01」と呼ばれる初回打ち上げの概要は以下の通り。

  • 日時:2025年4月29日 午前8時以降(日本時間)
  • 場所:フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地
  • 輸送手段:アトラスVロケット(ULA:ユナイテッド・ローンチ・アライアンス)

KA-01では、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)のアトラスVロケットを使用し、27機の量産型カイパー衛星が高度約450kmの軌道に投入される。

これはULAのアトラスVロケット史上最重量のペイロードであるため、メインブースターのほかに5つの固体ロケットブースターを搭載した最も強力な構成で打ち上げが行われるという。

今回投入される衛星コンステレーションは、2023年10月に打ち上げられたプロトタイプと比べて全体的に性能が向上しており、アンテナ、プロセッサ、太陽電池、推進装置、光衛星間通信システムなど、すべてがアップグレードされている。衛星表面には反射光を抑える特殊ミラーフィルムも施されており、天文観測への影響軽減も考慮されている。

衛星はロケットから分離された後、順次自動起動し、電気推進システムによって最終的に高度約630kmの目標軌道へと移動。それぞれの衛星は時速約27,000km以上の速度で周回し、90分ごとに地球を一周する予定である。

ULAの 「Kuiper 1」ぺージでは、打ち上げの最新情報を提供。打ち上げの約20分前からは生配信も実施するとのことだ。

さいごに

いかがでしたか。

プロジェクトカイパーは、Amazonの本格的な宇宙進出であり、今後数年にわたって数千機の衛星を展開していく計画である。

同社はすでに、80回以上の打ち上げをすでに確保しており、一回の打ち上げで数十機ずつ送り出す計画となっている。ULAのアトラスVロケットでは7回、同じくULAのヴァルカンロケットでは38回、そして、アリアンスペースやブルーオリジン、スペースXなどその他のロケットで30回以上の打ち上げを行う予定だ。

2025年4月29日の打ち上げは、その第一歩であり、インフラ未整備地域への通信提供、災害時の接続維持、そしてグローバルな通信の新しい形を示す重要な節目となる。

今後の打ち上げスケジュールやサービス開始時期に注目が集まる中、プロジェクトカイパーの展開から目が離せない。

参考

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