千葉工業大らが開発!世界初の方式の大面積ダストセンサーを搭載した衛星があげた成果とは
©千葉工業大学の画像を使用

2025年1月24日、千葉工業大学は、世界初の大面積ダストセンサーを搭載した宇宙塵探査衛星「ASTERISC(アスタリスク)」が全てのミッションに成功し、1月21日の軌道離脱・大気圏突入をもって、3年2カ月に渡る運用を終了したことを発表した。

本記事では、同衛星が成し遂げた成果についてご紹介する。

宇宙塵探査衛星「ASTERISC」とは

衛星の特徴

宇宙塵探査衛星「ASTERISC」は、千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)が独自の惑星科学探査を高頻度で継続的に行うことを目指して立ち上げた超小型衛星プロジェクトの2号機である。

JAXAが大学や企業に機器や衛星等の宇宙実証機会を提供する革新的衛星技術実証プログラム2号機の実証テーマに採択され、PERCを実施責任機関として、2018年よりPERCと東北大学との共同で開発された。

「ASTERISC」は、独自に開発された世界初の方式となる膜状の粒子観測装置(ダストセンサー)を搭載。その膜にぶつかった宇宙塵と微小なスペースデブリ(宇宙ごみ)を観測できる。

3Uサイズ(30㎝×10㎝×10㎝)の衛星ながら、ダストセンサーが大きな検出面積を持つのが特徴だ。

展開前の衛星外観(左)と30cm×30cmの膜型ダストセンサー(左方向に広げられたオレンジ色の膜)展開後の衛星外観(右)
展開前の衛星外観(左)と30cm×30cmの膜型ダストセンサー(左方向に広げられたオレンジ色の膜)展開後の衛星外観(右)。膜型ダストセンサーの膜面には受信用の8個の圧電素子と2個の試験信号用の圧電素子が接着されている。©千葉工業大学

宇宙塵・微小デブリ観測の重要性

宇宙塵と微小スペースデブリはそれぞれ宇宙科学と宇宙環境問題の観点において重要な観測ターゲットである。

まず、宇宙塵は現在の太陽系が形成されるまで、様々なプロセスに関与していたと考えられている。

太陽系形成初期には宇宙塵が集まったことで微惑星(惑星の種)が形成し、さらにそれらが合体・成長することで惑星が誕生。実際に、現在の地球に集積する宇宙物質の質量の大部分を占めるのが宇宙塵と考えられており、原始の地球においても降り注いだ宇宙塵由来の有機物が地球生命の起源に寄与した可能性が提唱されているという。

しかし、宇宙にある髪の毛の太さ以下程の塵を地上から観測することは難しい。さらに、地上に飛来する宇宙塵は大気突入時の溶融や地表での風化などで大部分が失われるため回収できるのはごく一部のみであり、また回収できたとしてもいつどこから飛来してきたかを知ることは困難。

そのため、宇宙塵の分布や量などの特性を知るには、宇宙空間で直接その場で観測することが必要となるのだ。

他方、スペースデブリは、人類の宇宙活動における脅威として近年注目されている。

大きいデブリはもちろん危険であるが、数百ミクロンサイズの微小デブリであっても超高速の宇宙速度で宇宙機に衝突すると大きな被害を及ぼす

ところが、微小デブリは地上からは視えないため、衝突を防ぐのが難しく、さらにどのくらいの量が宇宙空間を漂っているのかは全くわかっていない。

微小デブリの定量的な観測および評価は今後本格的に宇宙利用を進める上で喫緊の課題といえるのだ。

大きな検出面積!世界初のダストセンサーシステム

宇宙塵と微小スペースデブリを軌道上で観測する際の課題の1つとして、いずれの粒子も軌道上で直接観測するには数が少ないことが挙げられる。

これを解決するためには、できるだけ大きな検出面積のダストセンサーを用いることが有効となるが、従来の方式のセンサーを大型化することはコストの観点で容易ではなかったという。

「ASTERISC」に搭載された膜型ダストセンサーは、粒子が膜面に衝突することで発生する波を膜面上に接着した特殊な素子により電気信号として検出し、独自の信号処理を行うことによりリアルタイムで粒子を観測。

膜型ダストセンサーシステムの概念図
膜型ダストセンサーシステムの概念図 ©千葉工業大学

膜面全体をダストセンサーとするため、膜の面積を大きくするだけで検出面を拡大可能だ。

さらに、既に宇宙実績のある圧電素子、ポリイミド膜、ケーブル、エレキにより構成されるシンプルな構成であり、従来の粒子観測装置と比較して圧倒的な低価格で製造可能。

加えて、ソーラーセイル、衛星用断熱材など他の機能を持つ膜に比較的容易にダスト検出機能を付加できるなど、将来の様々な応用が期待できるという優れものなのだ。

展開した膜型ダストセンサーをオンボードカメラで撮影した自撮り画像
展開した膜型ダストセンサーをオンボードカメラで撮影した自撮り画像。センサーが取り付けられたパドル面には千葉工業大学の校章とPERCのロゴが印字されている。©千葉工業大学

「ASTERISC」が成し遂げた成果

ASTERISCの初期運用では、膜型ダストセンサーを展開し、それを用いた粒子観測に世界で初めて成功。

また、PERC、東北大、メーカーの共同で開発した国産バスシステムの技術項目の全ての実証にも成功した。

その後の定常観測フェーズでは、低消費電力の磁気トルカを用いて衛星を回転させるスピン安定姿勢制御を確立することで、ダストセンサーを慣性空間の特定方向に指向させ続けた状態で長期間観測することに成功。(例えば数か月間、太陽方向を観測し続けるなど)。

これにより、特定の粒子が飛来してくる方向のみにセンサーを向け続けて観測できるため、科学的価値の高いダスト観測データを取得することができた。

超小型衛星でありながら、姿勢制御・高速ダウンリンクを伴う本格的な理学ミッションを遂行したASTERISCバスシステムは、より高度な将来ミッションを行うに足る性能を持つことが実証されたのだ。

実際にASTERISCが軌道上で取得した粒子観測データ
実際にASTERISCが軌道上で取得した粒子観測データ。膜面上に接着された8個の圧電素子で同時に受信した波形を解析することでノイズと真の信号を区別することが可能。

今後はJAXAのMMXにも搭載!?

「ASTERISC」の技術利用の直近の計画として、2026年度打ち上げ予定のJAXA火星衛星探査計画MMXに膜型ダストセンサーの技術を活用した1m2の大面積ダストセンサー「CMDM」が搭載される予定だという。

火星周回ダストモニタ「CMDM」は、理論的に予想されながら未だ見つかっていない火星周回ダストリングの発見を目指しているとのこと。

衛星・探査機のシステム系コンポーネントとして通常搭載される多層断熱材MLI(機器と宇宙空間や機器間で熱が伝わることを抑えるために使用される断熱材)に圧電素子を貼りつけて信号処理するエレキを搭載することで1m2の大面積センサーを実現。

CMDMは大面積を活かして、理論的に予想されながら未だ見つかっていない火星周回ダストリングの発見を目指している。

さいごに

いかがでしたか。

「ASTERISC」のミッション成功は、宇宙塵や微小スペースデブリの観測という課題に挑み、日本の技術力が宇宙探査に大きく貢献できることを証明した例である。

この成果は、単なる技術実証にとどまらず、宇宙科学の進展や持続可能な宇宙利用の基盤を築いたと言えるだろう。

日本発の革新的な技術が、宇宙探査や産業にどのような新たな展開をもたらすのか。ASTERISCが残した成果は、未来の可能性を切り開く第一歩となるに違いない。

参考

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