
2025年3月19日、JAXA発スタートアップである株式会社Penetratorが、衛星データと水道の開栓・閉栓データを組み合わせ、空き家候補を効率的に特定する新たなシステムを開発したことを発表した。
本記事では、Penetratorの企業概要と、今回開発された新システムについてご紹介する。
目次
Penetrator PROFILE
企業概要
株式会社Penetratorは、宇宙から不動産の課題を解決することをビジョンに掲げているJAXA発のスタートアップ企業。
これまでに8社の不動産関連企業を創業した経験のある阿久津 岳生 氏が、地球の一つ上の視座から不動産市場を変えたいという思いから2022年2月に創業した。
グローバル課題に技術で取り組む起業家のための世界最大規模のスタートアップ・コンテスト「Extreme Tech Challenge」の日本大会「XTC JAPAN 2024」にて準優勝の獲得や、東洋経済「すごいベンチャー100 2024年最新版」への選出など、近年注目のスタートアップである。
主なプロジェクト
同社の主なプロジェクトは、衛星データとAIを活用して不動産仕入れプロセスをDXし、不動産所有者情報収取をワンクリックで完了させる「WHERE」。
土砂災報知のシステムや土砂災害発生後の観測調査を行う「Penetrator」の2つ。
宇宙技術で課題解決に取り組む同社の2つのプロジェクトについてご紹介する。
WHERE
「WHERE」は、どこに・どのくらいの大きさの不動産があって、誰が所有しているのか、マップを見るような感覚で簡単にわかるアプリである。
従来、不動産情報の取得は人脈を通じた紹介などが多く、網羅的に情報収集することは容易ではなかった。また不動産情報を取得した後も、その詳細を知るために実地調査を行い、不動産の大きさ等、諸条件の確認が発生するなど地道な手法をとる必要があったという。
そこで、「WHERE」は衛星データから空き地や駐車場、畑等の指定した不動産を識別し、それらの画像データと、法務省が管理する不動産登記データを連携。
これにより、ワンクリックで簡単に網羅性のある情報を取得することができ、不動産情報の取得にかかる時間やコストを大幅に削減することを実現したのだ。
2023年6月にベータ版をリリースし、2024年9月には公式版を提供開始。主にはコインパーキングやトランクルームの用地を探す事業者向けにサービスを提供しており、三井不動産、三菱地所、福岡地所など大手企業も導入している。
そして、今後は事業者だけでなく、個人でも簡単に利用できるアプリにしていく計画とのこと。
同社は衛星データと不動産関連データを組み合わせながら、世界中の不動産情報が集まるプラットフォームをつくり、将来的にまるでフリマ感覚で不動産の個人間売買ができるような未来を目指している。

Penetrator
「Penetrator」は、1990年から約20年間、JAXAの月探査ミッションLUNAR-Aプロジェクトにおいて研究開発されてきた、貫入型科学データ観測機である「ペネトレータ」の技術を地球におおける地盤モニタリングに応用するプロジェクトだ。
この技術では、人が踏み込めない危険地帯において様々な計測器等を地盤に貫入させ科学データを観測する。例えば土砂災害が起きた地域の地盤状態をモニタリングして二次災害に備えるためのシステム構築や、土砂警報知器としての役割を担うなど人々の暮らしの安全に貢献できる可能性がある。
ペネトレータは耐衝撃性能を有しており、無人で精密計測器を地盤に固定することが可能。また、本来は月面での観測を目的としていたため、より長期間にわたって観測が可能となるような設計がされており超省エネルギーで、外部環境が劣悪でも破損しにくい設計になっている。
さらに、計測したデータを使用者がタイムリーに取得するだけではなく、ペネトレータとの双方向通信が可能で、テレメトリによって各センサーの稼働状況を変えることもできるという月面という過酷な環境を想定した技術ならではの強みがある。
空き家を特定する新システムが追加!
同社は今回、神奈川県相模原市が主催する「相模原アクセラレーションプログラム(SAP)2024」の一環として、衛星データと水道の開栓・閉栓データを組み合わせ、空き家候補を効率的に特定する新たなシステムを、同社プロジェクトである「WHERE」上に構築。
実証実験により、従来よりも容易かつ高精度に空き家を発見できることを確認した。
課題感と開発背景
適切に管理されていない空き家は、雑草の繁茂や悪臭による生活環境の悪化、それに伴う健康被害、景観の悪化、不法侵入などによる治安の悪化といったリスクがある。
このようなリスクを伴う空き家は、高齢化や相続の難しさから増加傾向にあり、近年では深刻な社会問題の一つとなっている。
相模原市では、市内の住宅地の約10.4%(2018年時点)を空き家が占めており、また、市職員にとっても、空き家の実態把握や撤去対応などの負担が大きな課題となっているという。
このような状況を受け、Penetratorは、宇宙から俯瞰する「鳥の目(=衛星データ)」と、地下の情報を捉える「モグラの目(=水道の開栓・閉栓データ)」を組み合わせた空き家探索モデルを開発した。
空き家特定システムの実証方法
「SAP 2024」における同社の実証実験は、相模原市より水道の開栓・閉栓データの提供を受けて実施。相模原市の中でも特に空き家問題の対策を強化している津久井地区を対象に行われた。
空き家を特定するシステムを開発する際、衛星データにどのようなデータを掛け合わせるかは非常に重要である。
例えば、ガスの利用状況はオール電化住宅の存在により空き家判別が難しいがその点、水道はほとんどの居住住宅で使用され、かつ地域の水道局から一元的に取得できるというメリットがある。
しかし、水道データだけでは、対処の必要のない綺麗な空き家や不動産の空室などのノイズ情報を多く含んでしまい、空き家対策において重要度の低い住宅まで検知してしまうというデメリットもある。
そこでPenetratorは、自社SaaS『WHERE』上で、衛星データから判定した古家情報と水道データを掛け合わせるシステムを構築することで、対処の必要な空き家の大幅なスクリーニングを実現した。

空き家検出率100%!?調査期間3カ月から数分へ
実証実験では、水道データ上で閉栓されていた津久井地区の住宅1,200軒を対象に解析が行われた。
その結果、『WHERE』を活用することで、瞬時に579軒にまで空き家候補を絞り込むことに成功。さらに、津久井地区が2024年に独自調査で取得した空き家データと、『WHERE』が特定した空き家候補データを比較したところ、67%の物件で回答が一致。
そして、実際のフィールド調査でも、屋根の老朽化が進んでいる住宅や庭が手入れされていない住宅は、『WHERE』によって空き家として100%正しく検出されていることが確認されたという。
また、従来の人手による空き家調査には約3カ月の期間を要し、さらに人の目による判定のため、判定基準にばらつきが生じる可能性があった。
一方、『WHERE』を活用した空き家調査は、わずか数分で高精度な判定を行うことが可能であるという。
Penetrator は今後、今回の実証結果を土台として、他のエリアでの精度検証や現場での活用事例の作成など、さらなる実証を継続する予定だ。
さいごに
いかがでしたか。
Penetratorが開発した新システムによって、衛星データと水道の開栓・閉栓データを組み合わせることで、従来の手法では困難だった空き家の効率的な特定が可能となった。
これにより、深刻化する空き家問題における自治体の負担軽減や空き家対策の迅速化に期待できる。
今後も最新技術を活用し、社会課題の解決と不動産業界のDX推進に取り組んでいくという。宇宙技術を上手く地上に応用しながら課題解決に向けて精力的に取り組む同社の活躍に注目だ。