
2024年に実施された、米航空宇宙大手ボーイング社が開発した有人宇宙船「スターライナー」初の有人飛行試験“Crew Flight Test(CFT)”について、NASAは2026年2月、同試験を事故分類の最上位である「Type A mishap」に該当すると位置付けた。
本記事では、スターライナーCFTで発生した事象、Type Aと評価された理由、そして商業有人宇宙輸送への影響について整理する。
目次
スターライナーCFTで何が起きたのか
ボーイングのスターライナーは、NASAの商業乗員輸送プログラムにおいて、スペースXのクルードラゴンと並ぶ有人輸送システムとして開発されている有人宇宙船である。その初の有人飛行試験(CFT)では、ブッチ・ウィルモア氏とスニ・ウィリアムズ氏の2名の宇宙飛行士を乗せ、2024年6月に打上げを実施。
主な目的は、打上げから軌道投入、国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキング、地球への帰還までを通して、商業乗員輸送サービスとして必要な一連の機能を確認することであり、本試験は運用開始に向けた重要なマイルストーンであった。
しかし飛行中、推進系における複数の異常が確認された。主には以下の通りである。
- ヘリウムガスの漏れ
- 姿勢制御を行う複数の小型エンジンの出力低下・停止
- 推進系冗長性の低下
特にISSへ近づく最終段階では、姿勢制御のための小型エンジンが十分に使えない場面があり、ドッキング操作の難易度が上がった。
結果、宇宙飛行士の手動操作によりISSとのドッキングには成功。しかし、安全面の追加評価のため当初約10日間だった滞在は延長され、スターライナーは2024年9月に無人で地球へ帰還 。ウィルモア氏とウィリアムズ氏はISSに残り、約286日間の滞在を経て、2025年3月にクルードラゴンで地球へ帰還した 。

NASAの評価「Type A mishap」の理由
NASAは航空宇宙活動における事故や異常を「mishap」という共通の基準で分類している。被害規模や安全影響の大きさによってType AからType Dまでに分けられる。
最上位のType Aに該当するのは、次のような場合である。
人的被害が発生している場合のみならず、重大事故に発展する可能性があった場合にも対象となる点が特徴であり、NASAの歴史では、スペースシャトルの事故などが代表的な事例として知られている。
- 乗員重傷・死亡
- 宇宙機・航空機の喪失
- 重大な安全リスク
- 高額な資産損失
宇宙ミッションでは、一つの装置が故障しても別の手段で運用を続けられるよう、予備の仕組みを持たせる「冗長性」を高めることで安全性を確保している。その前提のもとで、本事例がType Aと分類されたことは、きわめて重い意味を持つ。
今回のスターライナーによる有人試験では、推進装置の異常が複数同時に発生したことが、Type A評価につながった。個々の不具合だけを見れば、直ちに重大事故に直結する水準ではないとされたものもあった。しかし、問題が重なったことで、姿勢制御能力や冗長性の低下がみられ、状況次第では乗員の安全に深刻な影響を与えていたと判断されたとみられる。
有人宇宙輸送への影響とNASAの対応
ISS輸送における二社体制の揺らぎ
NASAの商業乗員輸送プログラムは、スターライナーとCrew Dragonによる二社体制を通じて、冗長性を確保することを目指してきた。しかしスターライナーの運用遅延により、現状ではクルードラゴンへの依存度が高まっている。
有人輸送のように安全性が最優先となる分野では、単一の仕組みに頼る状態は長期的なリスクとなり得る。ISSでは食料や機材の補給、乗員の交代、緊急時の帰還手段の確保などが不可欠であり、宇宙船が使えない状況が続き、代替手段も確保できなければ、滞在する宇宙飛行士の安全確保にも影響が及ぶ可能性がある。
その意味で、スターライナーの運用復帰は単なる一企業の課題ではなく、プログラム全体の安定性に関わる重要な論点である。
同時に、この状況は高い安全要求と商業化を両立させる難しさも示している。安全性を最優先にすれば、試験や評価には時間がかかる。一方で、商業運用として継続性も求められる。この二つをどう両立させるかが、商業有人宇宙輸送の構造的な課題といえる。
NASAの対応
NASAは今回の事例を、最も重い区分であるType Aと正式に位置づけた。そのうえで、ボーイングと協力し、同様の状況が再発しないよう体制を見直すとしている。
報告書は最終版とされているものの、技術的な根本原因の解明は継続される。機体や運用面の課題について、引き続き検証を進める方針だ。
さらに、報告書の提言に基づく是正措置を実施。これはスターライナーに限らず、NASAの他のプログラムにも反映される。
NASAは、技術課題が十分に理解され、対策が組み込まれたと判断されるまで次の飛行は行わない計画だ。ボーイングと連携し、準備が整った段階でのみ再飛行を実施する方針である。
さいごに
NASAによるスターライナーCFTのType A認定は、有人宇宙飛行における安全評価の厳しさを改めて印象づける出来事となった。
ISS輸送の商業化やArtemis IIなどの有人ミッションが進む中で、スターライナーの再評価と運用復帰の動向は、有人宇宙輸送の今後を占う上で引き続き注目されそうだ。
参考
NASA Releases Report on Starliner Crewed Flight Test Investigation(NASA, 2026-02-23閲覧)









