大分県の宇宙港計画が加速 ~Sierra Space社とのパートナーシップに日本企業が新たに参画~

2024年7月12日、アメリカのSierra Space(シエラスペース)社、兼松、日本航空(JAL)、そして大分県の4者は、シエラスペースが開発を進めている宇宙飛行機「Dream Chaser」の活用検討に向けたパートナーシップに、あらたに三菱UFJ銀行と東京海上日動火災保険が参画したことを発表した。

これにより、大分空港の宇宙港(スペースポート)としての活用実現に向けた取り組みを一層加速させるという。

本記事では、大分県の宇宙産業について紹介するとともに、三菱UFJ銀行や東京海上日動が大分県の取り組みに参画した背景について考察します。

大分県の宇宙産業

宇宙港中心の強みを活かした産業づくり

大分県は、宇宙産業において注目すべき活動を展開している地域の1つである。

その核となるのは、大分空港。

大分空港は宇宙港「スペースポートおおいた」として活用する準備が進められており、スペースプレーン(宇宙飛行機:翼を持ち、飛行機のように水平に離着陸する宇宙機)による衛星の輸送や宇宙旅行に向けてインフラが整えられている。

「スペースポートおおいた」の強みは、以下の3つ。

  • 3000m級の滑走路:大分空港に大型航空機が離発着可能な滑走路が備えられている
  • 多様な産業蓄積:石油、化学、半導体、自動車、精密機器、鉄鋼など、幅広い分野の産業がバランスよく集積
  • 豊富な観光資源:打ち上げ事業者などがクライアントや投資家を招き、もてなす際に活用できる

また、宇宙港以外にも、民間企業等と協力しながらビジネスアイデアの事業化支援、人材育成、製造業の宇宙産業参入支援なども実施。

内閣府からは、衛星データ等を活用した宇宙ビジネスの創出を主体的・積極的に推進する「宇宙ビジネス創出推進自治体」にも選定されている。

大分県は、宇宙港を中心にあらゆる産業を巻き込みながら宇宙産業を成長させることで、観光、先端技術、ビジネスなど様々な面から地域の活性化を行っているのだ。

スペースポートおおいたのこれまで

Virgin Orbitとの連携

「スペースポートおおいた」がまず大きく注目されたのは2020年4月、アメリカの小型人工衛星打ち上げ企業であるVirgin Orbit社とのパートナーシップ締結である。

Virgin Orbitは、専用の飛行機から衛星を搭載した小型ロケットを空中発射する打ち上げシステムを開発していた企業。

大分県は、大分空港のアジア初となる水平型宇宙港としての活用に向けてVirgin Orbitや関係機関と連携して調査・調整を進めていたが、2023年4月に同社が経営破綻し、連携は中止となった。

Sierra Spaceとの連携

Virgin Orbitとの連携が中止となった一方で、2022年2月にアメリカのSierra Space社及び、日本の総合商社である兼松と締結されていた、宇宙飛行機「Dream Chaser」の活用検討に向けたパートナーシップは現在も継続

Sierra Spaceの「Dream Chaser」は、垂直型ロケットに搭載されて宇宙空間に打ち上げられ、宇宙から帰還する際には空港の滑走路を使って着陸する。

同社は世界各地に着陸拠点を確保するために動いており、大分空港はアジアの拠点として選択された。

これまで、同パートナーシップではJAL(日本航空株式会社)も加わりながら、宇宙飛行機着陸や法規制の課題整理、宇宙港周辺経済圏の構築など、宇宙港の実現が拓く幅広い可能性について議論が重ねられてきた。

「Dream Chaser®活用に向けた新たなパートナーシップの拡大」兼松株式会社 ーPRTIMESから引用

宇宙港の活用に向けた取り組みが加速

今回、「Dream Chaser」の活用検討に向けたパートナーシップに、三菱UFJ銀行、東京海上日動が新たに参画した。

新参画企業とSierra Spaceの繋がり

参画した三菱UFJ銀行、東京海上日動と、兼松、Sierra Spaceの4社は、2023年9月にアジア太平洋地域における戦略的パートナーシップを締結している。

この際、三菱UFJ銀行、東京海上日動、兼松はSierra SpaceのシリーズB資金調達ラウンドにおいて共同で大型投資を行った。

この背景にあるのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の公募「持続可能な地球低軌道における宇宙環境利用の実現に向けたシナリオ検討調査」だ。

この公募では、国際宇宙ステーション(ISS)退役後の宇宙環境利用の継承を目指しており、2022年10月に兼松を中心とした、三菱UFJ銀行、東京海上日動、Sierra Spaceを含む計10社からなるチームが採択された。

同チームは2025年以降の宇宙環境利用の在り方について課題や事業モデルを提言。

Sierra Spaceは、宇宙ステーションへの物資補給、また有人宇宙飛行を行う宇宙機「Dream Chaser」や、Blue Originとともに開発する商用宇宙ステーション「Orbital Reef」の技術情報を提供している。

兼松、三菱UFJ銀行、東京海上日動は、これらの活動により日本の宇宙産業サプライチェーンのさらなる拡大や新たな産業創出にむけて取り組むほか、大分県を中心とした地域経済へも貢献することを目指しているのだ。

宇宙港利用の効果は約3,500億円!?

日本の宇宙港を海外企業が利用する場合、宇宙港の利用料や来日人数の増加、国内企業との連携等、様々な形での効果が期待できる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の試算では、スペースポートおおいたが「Dream Chaser」のアジア拠点・宇宙港として活用された場合、日本全体で約3,500億円、大分県内で約350億円の経済波及効果が見込まれるという。

「Dream Chaser」は、2024年後半にも初号機によるISSへの補給ミッションが行われる予定であり、各試験を順調に通過。2機目もすでに製造が始まっている状態だ。

今回の三菱UFJ銀行、東京海上日動の参画によって、法整備等の宇宙港活用に向けた取り組みが加速されれば、近いうちに大分宇宙港の活用実現が期待できるだろう。

さいごに

いかがでしたか。

三菱UFJ銀行、東京海上日動といった新たな日本企業を迎え、「Dream Chaser」の「スペースポートおおいた」活用に向けてともに進んでいる。

Virgin Orbit社の経営破綻で一度は 困難に直面した大分空港だが、宇宙空港としての活用実現に向けひた向きに取り組んできた。

今回の参画により、大分空港の宇宙港としての活用に向けた取り組みがさらに加速し、地域経済や日本の宇宙産業全体への大きな貢献が期待される。

参考

宇宙往還機Dream Chaser®活用に向けた新たなパートナーシップの拡大~大分空港を宇宙港へ~

Sierra Space Corporation、三菱UFJ銀行、兼松、東京海上日動による戦略的パートナーシップ契約の締結について

Sierra Space HP

大分空港・宇宙港将来ビジョン~『ドリームポートおおいた』の実現に向けて~

JAXA の「持続可能な地球低軌道における宇宙環境利用の実現に向けたシナリオ検討調査」に参画

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