世界初!?シャープが開発した衛星向け地上アンテナを使用して5Gを活用したNTN通信に成功
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2025年3月3日、シャープ株式会社は、低軌道衛星を経由した5G NTN(非地上系ネットワーク)通信の接続を実証する実験を実施し、世界で初めて成功したと発表した。

この実験は、地球低軌道(高度~2,000㎞)衛星通信サービスを運営するEutelsat(ユーテルサット)、半導体メーカーのMedia Tek(メディアテック)、宇宙事業向け機器を製造するAirbus Defense and Space(エアバス・ディフェンス・アンド・スペース)、そして国際的な研究開発機構であるIndustrial Technology Research Institute(ITRI)と共同で実施されたという。

本記事では、今回の実験で成功した技術の概要やその利点に加え、シャープが担った役割と技術的貢献についてご紹介する。

どんな技術?

通信の新トレンド!?NTN通信とは

近年、通信インフラの新たな形としてNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)が注目されている。これは、人工衛星や高高度を飛行する無人航空機(HAPS:High Altitude Platform Station)を活用し、地上インフラに依存せずに通信を提供する技術だ。

一般的なモバイル通信は、地上の基地局を介してスマートフォンなどの端末とデータをやり取りしている。基地局同士は光ファイバーなどの有線ネットワークで接続されており、都市部を中心に通信エリアが形成されている。しかし、山間部や海上、さらには災害時に基地局が機能しなくなった場合、通信が困難になる課題があった。

一方、NTNでは地上の基地局の代わりに衛星やHAPSが通信の中継点となる。これにより、地上インフラの届かないエリアでも通信を確保できるため、通信の新たな可能性が広がるのだ。

すでに、Starlink(スターリンク)などの低軌道衛星通信が実用化され、モバイルデータ通信が困難な場所でも高品質な通信を提供している。NTNは、こうした通信手段をさらに多層的に組み合わせることで、安定した通信環境を実現する通信システムだ。

NTNがもたらす通信の進化

NTNの大きな特長は、様々な通信手段の組み合わせによってそれぞれの長所を生かしつつ、短所を補い合えることにあるだろう。例えば、以下のような特性を持つ通信手段を利用することができる。

  • 低軌道衛星(LEO):通信速度が速く低遅延であるが、地上に対して高速で移動しているため、接続が途切れることがある。
  • 静止衛星(GEO):地上から見て常に同じ位置にあるため安定した接続が可能だが、通信遅延が大きい
  • HAPS(高高度無人機):一定の地域に留まり通信速度も速いが、カバーエリアが限定される。

NTNはこれら複数の通信手段を統合し、より信頼性の高いネットワークを構築する技術として期待されている。すでに、日本国内でもスカパーJSAT株式会社やソフトバンク株式会社等がNTNの開発を進めており、実用化に向けた取り組みが加速している。

5G NTN通信の概要とメリット

衛星通信やNTN通信における課題の1つに、通信の標準化があるだろう。現在の衛星通信では各事業者が独自の通信方式を採用しているため端末やネットワークの互換性が低く、地上のモバイル通信とのスムーズな連携が難しい。

この課題を解決する手段として期待されているのが、5G NTN通信である。5G NTN通信では、既存のモバイルデータ通信規格である5G(第5世代移動通信システム)技術をNTNに適用することで、より効率的なネットワーク運用を目指す。

この技術は、特に下図のような点で期待されている。

5G NTN通信のメリット
5G NTN通信のメリット ©Space Connect株式会社

試験概要とシャープの役割

NTN実験の概要

シャープらは、低軌道衛星を経由した5G NTN通信の接続を実証する実験を本年1月中旬から2月半ばにかけて実施した。

具体的には、地上のテスト基地局が送信した信号を、低軌道衛星を経由して、別地点に設置されたシャープ製アンテナ試作機で受信したことを確認。また逆に、シャープ製アンテナ試作機が送信した信号を低軌道衛星経由でテスト基地局が受信できることも確認。

送受信ともに5G NTN通信の接続に世界で初めて成功したという。

また、この実証実験は、国際的な共通ルールとして定められた3GPP(3rd Generation Partnership Project)規格に準拠した5G NTN通信により実施された。

左:実証実験を行った衛星通信試験場(フランス・トゥールーズ)、右:地上局用フラットパネルアンテナ試作機
左:実証実験を行った衛星通信試験場(フランス・トゥールーズ)、右:地上局用フラットパネルアンテナ試作機(シャープ株式会社 PRTIMESより引用)

シャープのスマホ技術を活かしたアンテナが活躍

今回の実験では、低軌道衛星(LEO)を経由して地上局と5G NTN通信を行うツールとして、シャープ製のアンテナが使用された

シャープは、スマートフォンの設計で培った小型・軽量化技術や通信技術を活かし、5G NTN通信に対応するLEO衛星向けの地上局用フラットパネルアンテナの開発を進めている。

一見、スマートフォンと衛星用アンテナは異なる技術のように思えるが、実はジャイロセンサー、高周波技術、高効率放熱技術など、多くの共通する技術がある。

シャープはこれらの技術を応用することで、コンパクトで高性能な衛星通信アンテナの実現を目指しているのだ。

最新の電波暗室でアンテナ開発を加速

シャープはより精度の高い衛星アンテナの開発を進めるため、低軌道・中軌道衛星通信アンテナの性能測定が可能な電波暗室を新設し、2024年9月12日から運用を開始している。

衛星通信アンテナの開発では、アンテナの指向性や感度、信号品質などが設計通りに機能しているかを、外部の電波の影響を受けない環境で正確に測定することが不可欠である。このため、シャープの電波暗室では、CATR(Compact Antenna Test Range)方式を採用し、高精度な測定環境を実現した。

CATR方式では、天井・壁・床の6面を電波吸収材で覆うことで電波の反射を抑え、パラボラ反射鏡を用いて電波を一方向に進むように変換する。これにより、通常であれば長い距離が必要となる「衛星から届く電波」の環境を、限られた空間内で再現することが可能となった。

例えば、口径80cmの衛星通信アンテナを測定する場合、従来の電波暗室では60m以上の広さが必要とされる。しかし、シャープの新設電波暗室では、わずか約7mのコンパクトな空間で高精度な測定が可能。

この最新設備の活用により、シャープは試験や測定を迅速に行い、5G NTN通信対応アンテナの早期実用化を目指す。商品化に向けた開発スピードをさらに加速し、次世代の通信インフラを支える技術の実現を推進していくのだ。

さいごに

いかがでしたか。

現在、世界中の様々な企業が5G NTNの開発を進めているほか、SpaceXの「Starlink」やAST SpaceMobileのように、スマートフォンが直接衛星と通信できる技術の開発も進んでおり、次世代の通信インフラをめぐる競争が激化している。

こうした中で、今回の成功により、シャープは一層衛星通信分野での存在感を高めたのではないだろうか。

これまでスマートフォン開発で培った技術を応用し、次世代の通信インフラ構築にどこまで食い込めるかが、同社の今後のカギとなるだろう。5G NTN市場の拡大とともに、同社の技術がどのように進化し、どんな新たな展開を見せるのか。今後の動向に注目したい。

参考

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