
2026年2月16日、楽天モバイル株式会社(以下、楽天モバイル)は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)が運用する宇宙戦略基金事業に採択されたと発表した。
東京大学 大学院工学系研究科 中尾研究室との協力による事業で、支援総額は最大110億円。衛星通信と地上の通信を状況に応じて自動で切り替えられるAI技術を開発する。
本記事では、本技術の開発が必要な理由と、技術の概要についてご紹介する。
目次
なぜ衛星通信と地上通信網を統合するのか
現在、衛星通信はテレビやスマートフォン、農業機械など、さまざまな用途で活用されている。一方で、衛星通信と4Gや5Gなどの携帯基地局による地上の通信網は、切れ目なく切替えが可能な一体の通信網にはなっていない。
これまで、衛星通信を利用するには専用のアンテナや端末が必要だった。また、スマートフォンと衛星を直接つなぐダイレクト通信(D2D:Direct to Device)であっても、基本的には4Gや5Gが届かない場所での補完手段という位置づけにとどまっている。

衛星通信と地上通信網を統合するメリット
両者を一体で運用できれば、通信のあり方は大きく変わる。
第一に、サービスの種類や利用エリア、対応端末といった制約を小さくできる。通信は状況に応じて最適な経路へ自動で切り変わるため、ユーザーは「衛星通信を使うか、地上通信を使うか」を判断する必要がなくなる。
第二に、常時接続を前提とする新産業への対応である。自動運転車、空飛ぶクルマ、ドローンなどは、都市部でも山間部でも安定した通信を必要とする。地上と衛星を統合的に制御できれば、これらの技術を全国規模でサービス展開できる可能性がある。
実現に向けての課題|周波数干渉
衛星通信と地上通信の統合運用の実現に向けての課題の一つが、「周波数干渉」である。
従来、衛星通信と地上通信は異なる周波数帯の電波を使用してきたため、相互に影響を与えにくかった。一方、スマートフォンと衛星を直接接続するD2D方式では、携帯電話と同じ周波数帯の電波を衛星側でも利用する必要がある。その場合、電波が重なり合う「干渉」が発生し、通信品質が低下する恐れがある。このため現状では、衛星通信を利用できるエリアや条件が制限されている。
統合運用を実現するには、干渉を回避しながら、地上の通信状況や端末の位置に応じて衛星と地上の電波を動的に制御する技術が不可欠となる。
楽天モバイルの宇宙戦略基金事業
開発する技術
今回、楽天モバイルが採択された宇宙戦略基金事業では、AIにより衛星通信を管理・制御する機能「次世代衛星通信AI」を開発することで、以下の2つの技術の実現を目指す。
- 衛星通信と地上通信の基地局設備から各ネットワークがカバーしているエリアの情報を取得し、AIが状況に応じて衛星通信の停止と起動を自動で切り替える技術
- 衛星通信と地上通信の干渉調整、衛星通信の周波数変更、同時に処理可能な通信量の最適化などをAIで制御し、災害時やネットワーク混雑時といった状況に応じて最適な通信環境を確保するネットワーク総合運用技術
楽天モバイルの強み
楽天モバイルは、米国の AST SpaceMobile と連携し、スマートフォンと低軌道衛星を直接つなぐD2D(Direct to Device)技術を推進してきた。
2023年4月には低軌道の実証衛星「BlueWalker 3」と市販スマートフォンとの直接通信による音声通話試験を実施し、世界で初めて成功している。
さらに、楽天モバイルは仮想化技術やOpen RANを採用した商用ネットワークを構築してきた実績もある。東京大学との連携のもと、仮想化Open RAN環境の提供や、低軌道衛星を活用した広域通信の研究開発を行い、AIによる衛星通信の管理・制御に関する検証を積み重ねてきた。
衛星とつなぐだけでなく、「どう制御するか」まで踏み込んできた点が、今回の研究開発につながっていくだろう。
さいごに
スマートフォンと衛星の直接接続は、すでに世界各地で実証が進んでいる。ただし、それを安定した社会インフラとして運用するには、周波数干渉の抑制や通信量の最適化など、ネットワーク全体を制御する技術が欠かせない。
今回の「次世代衛星通信AI」は、衛星と地上ネットワークを横断的に管理する仕組みを国内事業者が担うことを目指す取り組みといえる。
地上と宇宙を別々に扱ってきた通信の構造は、今後変化していく可能性がある。基地局の延長線上に衛星を組み込み、状況に応じて自動で制御できるようになれば、通信はより広い範囲で安定して利用できるようになる。
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