宇宙太陽光発電に不可欠!?被ばくダメージを自己回復「曲がる太陽電池」とは
©株式会社PXPの画像を使用

2024年6月11日、次世代太陽電池で世界に挑戦する株式会社PXPは、宇宙における強い放射線環境に極めて強い耐性を示す「曲がる太陽電池」を開発したことを明らかにした。

本記事では、この「曲がる太陽電池」の宇宙業界における可能性についてご紹介します。

宇宙利用に期待!PXP社の自己回復電池

PXP社はこの度、「曲がる太陽電池」と呼ばれる自己回復強化型のカルコパイライト太陽電池を開発した。カルコパイライト太陽電池とは、従来のシリコンではなく、カルコパイライト(黄銅鉱)型の多元化合物を用いた次世代電池のこと。

本電池は被ばくによるダメージを熱と光によって自己回復する能力を持ち、過去の試験では、電子線による宇宙環境での約100年分に相当する量を被ばくしたとしても劣化しないことが確認されるなど特殊環境での利用にも期待が寄せられる。

しかし実用化の面では、電子線よりもダメージが大きい陽子線による被ばくは、自己回復が追い付かず劣化が発生するという課題があった。

そこでPXPが宇宙利用に向けて開発したのが、自己回復能力を強化したカルコパイライト太陽電池である。

この新たに開発された電池は、宇宙の静止軌道上で約100年、低軌道上では約400年分に相当する陽子線被ばくに耐え、自己回復によって性能を完全に維持。

さらに低温環境や弱い光でも、自己回復効果が十分に誘発されることも明らかとなり、宇宙環境における実用化が期待されている。

陽子線被ばく量と自己回復強化型太陽電池の性能維持率
陽子線被ばく量と自己回復強化型太陽電池の性能維持率 ©株式会社PXP

超軽量×長寿命×低コストで宇宙技術に貢献

カルコパイライト太陽電池は耐放射線性が強いだけでなく、宇宙でのミッションに適する以下のような特徴も持っている。

超軽量

髪の毛の100分の1ほどの薄い膜でも十分に太陽光を吸収可能であり、従来型のソーラーパネルの10分の1という超軽量性を実現。

過酷な屋外環境に耐えうる封止をしたとしても1平米で僅か800gという軽さである。

これにより、搭載可能な重さが決まっているロケットでも、積載量の軽量化に伴いコストの低減に繋がる。

柔軟性が高い

次に、薄くて曲げやすく柔軟性があることが挙げられる。狭いロケット内に小さく収納して打ち上げ、宇宙で展開することで、より大面積の太陽電池を搭載できる。

また曲げたままでも発電できるため、曲面にフィットさせ、これまで太陽電池を搭載できなかった箇所にも対応でき、宇宙機全体の発電量を増やすことができる可能性も秘めているのだ。

高耐久で長寿命

さいごに、カルコパイライト太陽電池は衝撃や振動に強い高耐久性を持ち、厚くて重い強化ガラスも不要

ロケットの振動に耐える必要のある宇宙機への搭載に適しており、小さな宇宙デブリとの衝突に耐えることも期待されている。

また、長寿命であるため、長い期間のミッションを遂行する宇宙機にも適している。

他の太陽電池との組み合わせで変換効率も強化

カルコパイライト太陽電池は上記のような素晴らしい特徴を持つ一方で、宇宙用の太陽電池としては光電変換効率が十分でないという課題もある。

そこで、PXPは昨今話題となっているペロブスカイト太陽電池とカルコパイライト太陽電池を積層させた、二層構成の太陽電池を開発中だ。

ペロブスカイト太陽電池とカルコパイライト太陽電池は吸収する光の波長が異なるため、変換効率を高くすることが可能。

地上で用いられてるシリコンは一般的に15~20%の発電効率であるが、これら二種類の太陽電池を積層させると30%を超える高い効率が期待できる。

また、ペロブスカイト太陽電池もカルコパイライト太陽電池同様、超軽量性、柔軟性、高耐久性といった利点を持ち、カルコパイライト太陽電池のメリットも保つことができるのだ。

宇宙太陽光発電との相性も抜群!?

カルコパイライト太陽電池とペロブスカイト太陽電池を組み合わせた太陽電池は、宇宙空間で太陽光を収集し、そのエネルギーを地球に送る宇宙太陽光発電の実現にも貢献できる技術。

宇宙太陽光発電では数100m~数㎞の大型宇宙構造物を必要としており、実現するにはいくつかの部品に分けてロケットで輸送し、宇宙で組み立てるなどの必要がある。

この過程で重要なのは、輸送効率を最大化し、組み立ての柔軟性を確保することだが、ここでPXPの開発する超軽量で柔軟性のある太陽電池が大いに役立つ。

本電池は、一度に大量に輸送できるため、コストを抑えるとともに、宇宙での組み立ても容易にすることが考えられる。

また、ペロブスカイト太陽電池も、最近の研究では非常に高い放射線耐性を有することが明らかとなりつつあり、宇宙空間の過酷な環境下でも長期間にわたって安定した性能を維持することが期待されるのだ。

株式会社PXP 最高技術責任者の杉本広紀氏は、以下のように述べている。

現状では、まだペロブスカイト太陽電池は熱や光に対する耐久性の課題をクリアする必要がありますが、将来的には超長期の運用が必要とされる宇宙太陽光発電システムに不可欠な技術となり得ると期待しています。

株式会社PXP 最高技術責任者 杉本広紀氏

PXPは、まずは超軽量×長寿命×低コストのカルコパイライト太陽電池を開発し、その後、さらに超高効率性も備わったカルコパイライトとペロブスカイトを積層させた太陽電池の開発を行う予定とのことだ。

PXPの開発ロードマップ
PXPの開発ロードマップ ©株式会社PXP

さいごに

いかがでしたか。

PXPの開発するカルコパイライト太陽電池は製造に必要なエネルギーも従来の半分以下であり、低環境負荷な太陽電池としても期待されている。

宇宙用としては開発中であるが、地上ではすでに同太陽電池を搭載したEV三輪車の実証実験も始まっている。

今後、この技術がどのように成長していくのか、非常に楽しみである。

参考

世界初!次世代ソーラーEV三輪車

PXP HP

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

フォローで最新情報をチェック

おすすめの記事