2025年1月8日、株式会社Pale Blueは、イタリアの宇宙企業D-Orbitの小型衛星「ION Satellite Carrier」に同社が開発する水イオンエンジンを搭載し、2025年に2回の打ち上げを行うことを発表した。
本記事では、今回の宇宙実証における注目ポイントをご紹介する。
目次
Pale Blueの水エンジンについて
Pale Blueは、2020年に創業した東京大学発の宇宙スタートアップ。安全無毒で環境にも優しい「水」を燃料とした小型衛星用エンジンの開発および社会実装に取り組む企業だ。
従来、小型衛星にはエンジンが搭載されていないことが通常であったが、近年では軌道制御や軌道離脱、デブリとの衝突回避のためにエンジンを搭載する小型衛星が増え続けており、水エンジンは最先端の推進システムとして注目されている。
同社の水エンジンには、大きく分けて以下の3つの種類がある。
- 水蒸気式エンジン(水レジストジェットスラスタ)
- 水イオンエンジン(水プラズマ式エンジン)
- 統合推進システム
まず、水蒸気式エンジンは、内部にある液体状態の水を蒸発させて、水蒸気にして噴き出す。燃費は比較的高くはないが、瞬間的に大きな推進力を出したり、小回りを利かせたりすることができる。
次に、今回実証を行う水イオンエンジンは、水を水蒸気にしたうえでさらにエネルギーを加えて水のプラズマをつくり、高速で噴き出すことで推進力を生成。非常に燃費がよく、効率よくエンジンを動かすことができるが、大きな推進力を出したり小回りを利かせたりすることは苦手となる。
そして、統合推進システムは上記2つを統合させたハイブリッドタイプで、1つのモジュールで様々な推進機能を提供可能だ。
どの水エンジンシステムも従来のエンジンのようにキセノン、ヒドラジンといった危険性のある物質を使用しないため取り扱いが容易で、地球上に豊富にある水を使用するため低コスト。
さらに同社は、水エンジンの低推力という弱点も克服しており、小型衛星を運用するのに十分な推力を達成している。
今回の注目ポイント
① 最高水準のトータルインパルスと柔軟性を実現
今回宇宙実証を行うPale Blueの1U+水イオンエンジン「PBI」は、サイズがおよそ1U(10㎝×10㎝×10㎝)で、総重量2㎏以下の超小型エンジン。
この中に、電子機器や推進タンク等、すべてのシステムが収められており、キューブサットのような小型衛星にも搭載可能だ。
水エンジンならではの特長である安全性、調達性、低コスト等のメリットに加えて、市場に出回る類似サイズの製品の中では最高水準のトータルインパルス 7,000Nsを実現。
トータルインパルスは推力を時間で積分した値であり、水イオンエンジン「PBI」は推力が0.35mNほどではあるが、非常に長い時間にわたって推力を生み出すことができる。
よって、長時間のエンジン起動により最終的に大きな速度を得られるため、軌道遷移のようなミッションも行うことが可能だろう。また、同エンジンを複数個搭載してクラスタ化できるためより大きな推力を瞬間的に必要とするミッション等にも柔軟に、幅広く対応することができるのだ。
② 水イオンエンジンの宇宙実証は世界初
Pale Blueはこれまで、ソニーのSTAR SPHEREプロジェクトにおける衛星「EYE」等により、水蒸気式エンジンの宇宙実証は実施してきた。
今回、水イオンエンジンの宇宙実証としては同社初、そして世界初の試みとなる。
水イオンエンジンを搭載するD-Orbitの「ION Satellite Carrier」は、小型衛星・超小型衛星用の軌道上輸送システム。
複数の衛星や機器をそれぞれの目的の軌道に届けるために自力で軌道変更ができ、これまで14件のミッションに成功。複数の衛星放出、ミッション機器の運用、宇宙実証を行った実績がある。
Pale Blueの水イオンエンジンを軌道変更ミッションの実績が豊富な「ION Satellite Carrier」に搭載することで、信頼性のある同衛星のシステムを使用して水イオンエンジンの推進機としての性能や信頼性を評価し、宇宙での実績を取得することができるのだ。
打ち上げについて
Pale Blueの1U+水イオンエンジン「PBI」の宇宙実証に向けた打ち上げは、2025年6月および10月に予定されている。
D-Orbit 共同創業者 兼 CCO Renato Panesi 氏は、以下のようにコメントしている。
水推進技術は、まさにD-Orbitの考える持続可能な宇宙事業へのコミットメントに合致しています。Pale Blueの革新的な推進ソリューションを進歩させるため、軌道上実証に何度も成功し、実績があるION Satellite Carrierを活用して支援できることを非常に嬉しく思います。
Pale Blueの水イオンエンジンが宇宙でどんな活躍をするのか注目だ。
さいごに
いかがでしたか。
Pale Blueは、複数のポジションで求人を募集している。
同社の働き方に興味がある方は、ぜひこちらをご覧いただきたい。