NTTデータ、子会社Marble Visionsを設立|垂直統合による衛星事業戦略

宇宙産業は、国家主導の開発領域から民間ビジネスへと急速にシフトしている。様々な技術が商用化したことで、ロケットの低コスト化や衛星の小型化が進み、地球観測分野では高頻度・高解像度データの取得が現実のものとなった。

そういった中、大手システムインテグレーターであるNTTデータも観測衛星サービスを提供する新会社、株式会社Marble Visions(以下、Marble Visions)を設立した。本記事では、NTTデータがMarble Visionsを通じて進める観測衛星事業の戦略について解説する。

NTTデータが設立「Marble Visions」

Marble Visionsは、NTTデータが宇宙分野での事業拡大を目的として、2024年7月に設立した地球観測衛星サービス企業である。

同社の最大の特徴は、「垂直統合」の実現にある。
NTTデータはこれまで、衛星画像を活用したデジタル3D地図事業『AW3D』を展開してきた。同事業は130か国以上、4,000件超のプロジェクトで活用されるまでに拡大している。一方で、これまでは衛星画像を他の宇宙機関や衛星事業者から調達し、それを基にサービスを提供する形を取っていた。

そこでMarble Visionsでは、衛星の開発から運用、データ取得、利活用までを一体化する「垂直統合」モデルの構築を進める。これにより、データの取得段階からサービス設計までを一貫して担う体制へと転換する。

AW3D 東京都の高精細版3D地図
『AW3D』東京都の高精細版3D地図(NTTデータのPRTIMESリリースから引用)

なぜ、NTTデータの子会社が衛星を開発するのか

データを外部調達に頼る企業の課題

NTTデータはこれまで、自社の地理空間情報サービスやデータ分析事業を進めるなかで、衛星データも活用してきた。同社を含め、日本では従来、衛星データ分析会社の多くは宇宙機関や衛星運用企業が取得したデータを利用する形でサービスを提供しているが、このモデルでは初期投資を抑えられる一方、以下のような課題が存在する。

1|観測制御の制約

外部の衛星データに依存する場合、観測タイミングや撮影条件を自社の判断で柔軟に決めることが難しい。

例えば、災害発生直後の観測や特定地点の定期モニタリングなど、顧客要件に応じた観測を実現するには、撮影の優先順位を柔軟に調整できる体制が求められる。しかし外部衛星を利用するモデルでは、観測計画の主導権は衛星運用側にあり、自社の顧客要望を最優先で反映させることは容易ではない。

2|データ差別化の限界

外部から取得する衛星データは、同一の観測データが複数企業に提供されることも多く、サービス差別化の余地が限定されるという課題もある。解析アルゴリズムやアプリケーション層での付加価値創出は可能であるものの、観測性能そのものが共通であれば、データ基盤レベルでの競争優位性を確立することは容易ではない。

また、そもそも衛星のスペックがニーズに合致しない場合もある。特に高頻度観測や立体観測など、新たな価値を生む観測能力は衛星設計段階から組み込まれる必要がある。

Marble VisionsにおけるNTTデータの戦略

Marble Visionsの設立により、NTTデータは自社で衛星を保有・運用する体制へと踏み出した。これにより、観測タイミングや撮影条件の自由度を高め、データ品質および提供価値の向上を図る方針だ。

NTTデータは、これまでAW3Dで培ってきた解析技術やサービス設計力を強みとする。これに加え、2025年2月からは株式会社パスコおよびキヤノン電子株式会社がMarble Visionsに出資・事業パートナーとして参画。パスコは衛星運用を、キヤノン電子は衛星製造を担う体制となっており、製造から運用、データ活用までを一体で進める枠組みが整えられている。

こうした体制のもと、2030年を見据えて開発を進めているのが「光学衛星観測システム」である。構成は三つの要素から成る。

  1. 40cm級高分解能・高指向精度の小型光学衛星
  2. 複数機の協調運用による立体視観測および50km幅以上の広域観測
  3. 世界最高水準の3次元地図情報の生成および提供

簡潔に言えば、「高精細に撮影できること」と「頻繁に観測できること」を組み合わせることで、準リアルタイムに近い3Dマップを生成することを目指す構想である。本システムはJAXA宇宙戦略基金「高分解能・高頻度な光学衛星観測システム」の事業者としても採択されており、開発が加速している。

Marble Visionsが開発する光学衛星観測システム
Marble Visionsが開発する光学衛星観測システム(NTTデータの情報をもとにSpace Connectが作成)

打上げ計画と事業展開

初号機打上げ・サービス開始は2027年

Marble Visionsは、小型光学衛星による段階的なコンステレーション構築を通じて、観測サービスの商用化を進める計画を示している。

まず2027年度上期に初号機を打ち上げ、軌道上での技術実証と運用体制の確立を図る。その後、同年度中のサービス開始を目標に、実際の顧客利用を通じて運用ノウハウを蓄積していく方針である。

さらに2028年度までには8機体制を構築する計画が示されている。複数衛星を連携させることで観測頻度を高めるとともに、同一地点を異なる角度から撮影する立体観測を可能にし、3次元情報の取得能力を強化する狙いだ。

3D地図から、様々な事業領域への展開を目指す

コンステレーションの形成は、単発的な画像販売から、継続的な観測サービスへの転換を意味する。複数衛星により一定周期で同一エリアを撮影できる体制が整えば、都市の変化把握やインフラの劣化監視など、時間軸を前提としたサービスが可能になる。

その具体例が地図更新である。日本の道路地図や建物地図の基盤となる地図情報レベル2500(縮尺1/2500相当)は、一般に40cm級の解像度を持つ航空画像などを基に整備されている。

Marble Visionsのサービスが実用化されれば、広域を効率的かつ高頻度で観測できるため、自治体における公共地図の更新や、道路・住宅地図など民間地理情報サービスの更新頻度向上につながる可能性がある。

事業展開としては、こうした地図基盤の高度化を出発点に、都市分析、インフラ管理、災害対応、交通、デジタルツインなど様々な分野へ拡張していく構想である。NTTデータが持つシステム構築力と顧客基盤を活かし、宇宙データを社会実装まで結びつけるモデルを目指している。

さいごに

NTTデータとMarble Visionsが進める観測衛星事業は、衛星開発・運用・データ解析・サービスを一体化することで、従来分断されていた日本市場における宇宙データ産業の構造を変化させる試みといえる。

特に、高分解能・高頻度観測による準リアルタイム3D地図は、都市デジタルツインやスマートシティ、防災・安全保障分野など幅広い応用を持ち、日本の宇宙関連企業群の中でも独自のポジションを形成する可能性がある。

観測衛星コンステレーションの形成が進む2027年以降、Marble Visionsが国内外の地球観測市場においてどのような存在感を示すのか、その動向が注目される。

参考

Marble Visions 公式WEBサイト(2026-02-26閲覧)

衛星データで“地球の今”を見える化 NTT DATAの宇宙ビジネス最前線(NTTデータ, 2026-02-26閲覧)

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