
2026年10月9日、防衛省は、人工衛星の機能が失われた際に迅速な回復を図るため、「即応宇宙輸送能力」に関する調査研究を開始すると発表した。
本記事では、調査研究の概要や実施背景、国内宇宙産業への影響について解説する。
防衛省、「即応宇宙輸送能力」の調査研究を開始
即応宇宙輸送能力と調査研究の目的
即応宇宙輸送能力とは、必要な人工衛星を短期間で宇宙へ打ち上げるための輸送能力を指す。
現在、防衛省・自衛隊は、人工衛星を利用した情報収集や通信、宇宙空間の監視などの能力強化を進めている。
一方、有事を含むさまざまな状況で人工衛星の一部が失われた場合、その機能を迅速に回復することが安全保障上の課題となっている。
今回の調査研究は、こうした事態に備え、防衛省・自衛隊が必要とする即応的な宇宙輸送能力の具体像を明らかにすることを目的としている。

ロケットの性能・製造・打ち上げ方法を幅広く検討
今回の調査研究では、即応宇宙輸送能力を実現するうえで必要なロケットの性能に加え、製造方法や打ち上げ方法など、宇宙輸送に関わる幅広い要素が検討対象となる。
小泉進次郎防衛大臣は10月9日の記者会見で、必要な宇宙輸送能力を実現する方法にはさまざまな可能性があると説明。国内宇宙産業が持つ技術力や創意工夫を活用し、幅広い考えを募る方針を示した。
また、米国では発射通知から24時間以内に打ち上げを実施した事例があることにも言及した。こうした迅速な打ち上げを実現するには、ロケットの性能に加え、機体の製造体制や打ち上げ準備の効率化なども重要となる。

防衛省が即応宇宙輸送を重視する背景
人工衛星をさまざまな防衛活動に活用
防衛省・自衛隊は、人工衛星を情報収集、部隊間の通信、位置情報の取得など、さまざまな防衛活動に活用している。

情報収集では、情報収集衛星や民間衛星が撮影した画像を収集・分析し、日本周辺の軍事動向などを把握している。こうした情報は、安全保障上の情勢分析や、自衛隊の警戒監視・部隊運用に関する判断に役立てられている。
通信面では、Xバンド防衛通信衛星「きらめき」が、離れた場所に展開する部隊間の情報共有や指揮統制を支えている。また、測位衛星からの信号は、部隊や装備品の位置把握などに役立っている。
こうした衛星の機能は、陸・海・空の各部隊が連携して活動するうえで重要な役割を担っており、防衛省は宇宙空間の安定的な利用を確保するための取り組みを進めている。
衛星機能を維持するための「機能保証」
一方、近年の宇宙空間では衛星への妨害や攻撃、スペースデブリの増加など、安全保障上の脅威やリスクが高まっている。こうした状況を踏まえ、防衛省は2025年7月に策定した「宇宙領域防衛指針」で、宇宙システムの「機能保証」を重点分野の一つに位置付けた。
機能保証とは、衛星への妨害や故障などの脅威に備え、必要な宇宙システムの機能を維持し、機能が損なわれた場合にも迅速に回復できるようにする取り組みである。
具体的には、衛星を防護する能力の強化や、衛星の機能が損なわれた際に迅速に補完する体制の整備を進める方針だ。
その実現に向けて、同指針では小型ロケットの能力向上と即応化に関する実証や、複数の任務に対応し、運用開始に必要な検査を迅速に行える「即応型マルチミッション衛星」の実証を掲げている。
今回発表された即応宇宙輸送能力に関する調査研究も、衛星機能の迅速な回復を目指すものであり、防衛省が掲げる「機能保証」の方針に沿った取り組みといえる。
国内ロケット企業や射場への影響は
防衛省が民間宇宙輸送サービスの利用者となる構想
今回の発表で、宇宙産業の観点から注目されるのが、民間事業者の投資や事業化を後押しするという防衛省の方針である。
小泉防衛大臣は、調査研究を通じて防衛省・自衛隊が必要とする輸送能力を明確にし、その需要を民間事業者に示す考えを説明。さらに、将来的には防衛省が民間事業者から提供される宇宙輸送サービスの利用者となり、安定的な需要を生み出すことを目指すとした。
これは、政府が継続的な顧客となることで、民間企業の事業展開や設備投資を後押しする「アンカーテナンシー」と呼ばれる考え方である。
宇宙輸送事業では、ロケットの開発・製造や射場の整備などに多額の先行投資が必要となる。そのため、防衛省が将来的な利用者として必要なサービスや需要を示すことは、民間事業者が投資や事業化を判断する材料となる。
国内で進むロケット製造・射場整備の取り組み
現在、日本の宇宙輸送分野では、ロケットの打ち上げ高頻度化に向けて、製造体制の強化や射場設備の整備が進められている。
例えば、JAXAの宇宙戦略基金では、ロケット部品の量産化や製造工程の自動化などを支援している。ロケットの製造には多くの工程と人手を要するため、生産効率の向上や製造時間の短縮が課題となっている。
また、射場についても、複数のロケット事業者が共通して利用できる設備の実現に向けた検討が進められている。ロケットは機体ごとに形状や仕様が異なるため、燃料供給などに使う接続設備を個別に用意する場合、事業者の投資負担や打ち上げ準備にかかる時間が増加する可能性がある。
こうした製造・射場設備の効率化は、ロケットの打ち上げ頻度を高めるとともに、即応宇宙輸送に対応するための基盤にもなり得る。
一方、即応宇宙輸送では、通常の打ち上げ回数を増やすことに加え、緊急の要請にどのように対応するかが重要となる。例えば、ロケットや部品の事前確保、射場の利用日程の調整、即応体制を維持するための費用負担などが、事業化に向けた検討課題になると考えられる。
さいごに
防衛省が発表した「即応宇宙輸送能力」の調査研究は、人工衛星の機能喪失に備え、必要な衛星を迅速に宇宙へ輸送するための能力や実現方法を検討する取り組みである。
国内では現在、ロケットの製造効率化や射場設備の共通化など、打ち上げ頻度の向上に向けた技術開発が進められている。今後、こうした取り組みの成果が、緊急時の迅速な打ち上げにも活用できるかが重要な視点となる。
また、防衛省が将来的に民間宇宙輸送サービスの利用者となる方針を示したことで、防衛需要と民間宇宙産業の関係も注目される。今後は、防衛省が求める具体的な輸送能力や利用条件がどのように設定され、民間企業の事業化につながっていくのかが焦点となる。
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