打ち上げ方角を自在に決定!AstroXが気球から発射するロケットの姿勢制御試験に成功
©AstroXの画像を使用

2023年12月22日、福島県南相馬市のロケット開発ベンチャー企業であるAstroX株式会社は、同市の福島ロボットテストフィールドにて、弾道ロケット(サブオービタルロケット)「FOX」の姿勢を制御する装置の試験に成功したと発表した。

同社は地上に固定されていない気球から発射するロケットを開発しており、姿勢制御装置は目的の方向に打ち上げるために重要な装置となっている。

本記事では、AstroXの概要と同社の姿勢制御装置の試験内容について簡単にご紹介する。

AstroXとは

AstroXは、小型の人工衛星を宇宙に輸送するためのロケットを開発する企業である。

2022年5月に設立された後、同年7月に東日本大震災及び原子力災害で失われた福島県沿岸地域の産業の回復を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」のビジネスアイデア事業化プログラム「Fukushima Tech Create」に採択。

そして、2022年12月にシードラウンドにて東北をはじめとした地域の会社や起業家に投資を行うスパークル株式会社等から5000万円の資金調達を実施している。

2023年4月には、本社所在地である南相馬市と連携協定を締結。

南相馬市は同社の他、民間ロケットを開発するインターステラテクノロジズや人工衛星を用いた宇宙実験サービスを開発するElevationSpaceなど宇宙企業の拠点があり、航空宇宙産業の盛り上がりを強めている地域だ。

AstroXはロケットの開発を促進することで同社及び連携する市内事業者の企業価値の向上等を図ると同時に、事業拡大による雇用創出を通じて市内経済の更なる発展を目指している。

気球から打ち上げるロケット!?

AstroXのロケット打ち上げ方法は一般的な方法とは少し異なる。

ロケットの打ち上げ方法として一番多いパターンは固定された地上の発射台からロケットの燃料に点火して打ち上げる方法だが、同社は気球によって地球の成層圏までロケットを放球した後、空中で点火して発射するロックーン方式を採用している。

ロックーン方式には、ロケットの打ち上げにおいては空気抵抗のある状況での移動に大量のエネルギーを必要とするため、ロケットを成層圏まで気球で運んでから打ち上げることで燃料コストを削減できるなど、様々なメリットがある。

【※ロックーン方式についての詳細はこちら

一方で、気球を用いることによる重量的な制限や発射時のロケットの不安定さから、成功の難易度は非常に高い

不安定さの理由の1つに、水平方向に力が加わった際に気球自体が回転してしまうことがある。また、回転した場合は慣性で回り続けてしまうため、静止させるのが困難であるのだ。

同社は2022年12月に放球中の気球にて水平方向の姿勢制御を行い、モデルロケットを空中発射可能か確認する試験を実施している。

見事成功し、世界で初めて姿勢制御を用いて気球からロケットを発射した企業となった。

姿勢制御装置の試験概要とその仕組み

今回の試験では、この2022年に実施された空中発射試験の成果を元に開発した姿勢制御システムの性能評価が行われた。

姿勢制御装置は重さ約160kg、全長約2m。装置の内部でフライホイールと呼ばれる円盤が地面と垂直な方向(縦方向)に高速回転しており、その円盤を倒すように傾けることで装置全体が水平方向に回転する力を生み出す「ジャイロ効果」を利用している。

これは、自転車で走行中に車輪を横に傾けると自転車の行き先が円を描くように曲がるのと同じ現象である。

前回の空中発射試験では小型のモデルロケットが使用されたが、今回はそれを大型化したサブオービタルロケットの実物サイズ(全長約6.5m)を使用。

福島ロボットテストフィールド内で、クレーンで装置やロケットを吊り上げ、ロケットの角度を変えながら自在に打ち上げの方角を定める性能を確認したという。

今回の試験の次は屋外での点火試験、その次は成層圏での試験とのことだ。

姿勢制御装置の試験の様子 ©AstroX

AstroXが解決する課題

AstroXが開発しているのは、世界的に急成長している宇宙産業の重要なインフラだ。

現在、約40兆円の世界の宇宙産業市場は2040年には約120〜160兆円になると予測されているが、その中でも衛星を使ったサービスなどの発展により人工衛星の需要が大きく伸びており、それに伴い小型衛星の打ち上げ需要が急増。

しかし現在、日本国内では衛星を宇宙に運ぶロケットが不足しており、国内の小型衛星のほとんど100%を海外ロケットで打ち上げている状況にある。

この打ち上げ能力不足は、国費の流出に寄与しているなどし、日本の宇宙開発の大きな課題である。

その課題を解決して日本が宇宙産業を一大産業にできるよう、AstroXはロックーン方式での高頻度•低価格での打ち上げを実現するべく研究開発•サービス展開に取り組んでいるのだ。

さいごに

いかがでしたか。

AstroXは現在、正社員、副業問わず、ロケットの開発経験を有するエンジニアを募集しているという。

その他の職種も随時採用を開始していくとのこと。宇宙業界の知識や経験がなくても挑戦できる職種もある。

同社の求人情報は、航空・宇宙企業に特化したマッチングプラットフォーム「スぺジョブ」にも掲載されている。

気軽に相談も可能なため、気になる方は上記のWEBサイトをチェックしてみると良いだろう。

参考

AstroXのサブオービタルロケット「FOX」、姿勢制御装置の統合試験に成功

AstroX社、南相馬市と「衛星打上げロケット開発」促進に向けた連携協定を締結

AstroXが展開する『ロックーン方式』の可能性とは!?

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