2023年10月26日から11月5日、日本自動車工業会が主催する、モビリティの未来を考える展示会「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」が東京ビッグサイトにて開催された。
会場には111万2000人が来場。「乗りたい未来を、探しに行こう!」をテーマに、最新のモビリティ技術の展示や体験型コンテンツが提供された。
様々なジャンルのモビリティが並ぶ同イベントにおいて、この記事では「宇宙」に焦点を当て、イベントのハイライトやそこから見えた宇宙モビリティの未来について執筆した。
「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」とは
JAPAN MOBILITY SHOWは、1954年から2019年まで46回開催されてきた新型車やコンセプトカー、先進技術などを展示する世界最大級の自動車展示会である「東京モーターショー」が生まれ変わったイベントである。
今年のJAPAN MOBILITY SHOWは自動車業界の枠を超えて他産業やスタートアップも参加し、その参加企業・団体数は東京モーターショー 2019の192社を大きく上回る475社。
未来の東京の生活やスポーツ・遊び、食などを体験できるプログラム「Tokyo Future Tour」やクルマ・バイクファン向けイベント、モビリティの未来を支える水素エネルギーを使ったライブステージ、ビジネスマッチングイベントなど、多彩なプログラムが展開された。
自動車業界も参入!様々な宇宙モビリティ
宇宙モビリティのコーナーは「Tokyo Future Tour」の一角にあった。
トヨタは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発している月面を人を乗せて移動するモビリティ「ルナクルーザー」を展示。
ルナクルーザーには、トヨタが培ってきた燃料電池技術や自動運転技術、ランドクルーザーの悪路走破技術など、様々な自動車関連技術が活用されている。
次に、下図の月面を走る車(月面ローバー)も自動車メーカーである日産とJAXAが共同研究している宇宙モビリティだ。
月面は砂地や起伏など路面環境が過酷であり走行用のエネルギーも限られるため、月面ローバーは様々な路面環境における高い走破性や効率的な走行性能が求められる。
日産は、電動で4つのタイヤの回転力を個別制御して加速性やコントロール性を高める自社技術「e-4ORCE」やモーター制御技術を応用し、月面ローバーの駆動力制御についてJAXAと共同研究を進めている。
他にも今年の4月に民間企業として世界初の月面着陸に挑戦した宇宙ベンチャーispaceの月着陸船と月面探査車、ブリヂストンの月面探査車用タイヤ、Starlinkなど様々な宇宙に関わるものが展示された。
また、別エリア「スタートアップストリート」では岩谷技研の宇宙遊覧ができる気球も展示されていた。
宇宙モビリティの未来~トークセッションハイライト
JAPAN MOBILITY SHOW 2023では、様々な領域のプロがその領域のモビリティの未来を語るトークセッションも行われた。
宇宙分野では元宇宙飛行士の山崎直子氏、ispace代表取締役CEOの袴田武史氏、ElevationSpace代表取締役CEOの小林稜平氏が登壇。
最初にそれぞれの企業の紹介をした後、一般人も宇宙に行ける時代が近づいてきたとして、山崎氏が改めて宇宙に行った感想を述べた。
山崎氏は国際宇宙ステーション(ISS)で撮影した集合写真も見せながら、「無重力は面白いし楽しいし、新しい可能性が沢山ある。人類は無重力に慣れる力を持っていて、大きな適応能力があると感じた」と語った。
次に、月輸送サービスの提供を目指す袴田氏が、想定している未来として「人類が宇宙に進出するのは遠からず来ると思う。我々としては2040年くらいから1000人くらいが月で生活をして働いて経済を作る時代を作っていきたい。」と回答。
そして、その未来を早く実現するために必要なことは「ある程度物事を進めるには新しい技術は実はあんまり要らない。もちろんその先すぐに新しい技術も必要ですが、今できるのはリスクを減らして安定的な宇宙の開発に挑むこと」と意見した。
一方で、同様に未来を実現するための課題として、小林氏は「色んな産業のプレイヤーが宇宙開発に関わるのが重要であるが、実績のない新しい技術を使うハードルが高いこと」と述べた。
宇宙開発は莫大な資金がかかってる事業のため、使用される部品等は技術実証がされていることが重要であり、実績がない部品は取り入れられにくい。
ElevationSpaceは宇宙空間での技術実証を従来よりも簡単、高頻度、気軽にできるサービスの開発をしており、この課題を解決する。
いち早く低リスクで現状を一歩進めるために古い技術を活用することと、その先を見据えて新しい技術を発展させること。この両方があることが日本の強みの1つであり、両方を大切にすることで未来に早く近づくことができるのだろう。
セッションの後半では、山崎氏が日本の強みに関して「日本には幅広い産業があり、総合力が強いので色々と連携することができる」と意見。
また、小林氏は「日本は自動車産業を中心として製造業に大きな強み、ポテンシャルがある。それらの技術をどんどん宇宙に転用していくことで、日本ならではの強みができてくる」と述べた。
宇宙は地球と同じ“フィールド”であるので、あらゆる産業が参入可能で、かつ多くの産業が参入することにより発展する。日本は宇宙産業と他の産業が連携しやすく、特に製造業は技術なポテンシャルがある。これらを活かすことで海外とも戦っていける産業を作ることができるのだろう。
最後に袴田氏は「一から宇宙に参入するには時間がかかるので、元々から宇宙の仕事をしている方の協力が必要」と述べた。
宇宙モビリティを含めた宇宙産業の発展には、長年培ってきた宇宙技術を持つJAXAなどの組織が今後どのような役割を担っていくかが非常に重要だ。
さいごに
いかがでしたか。
展示ではルナクルーザーや月面探査車など、自動車の技術が宇宙に転用された製品も多く展示されていた。
自動車や航空などの異業種が宇宙業界に参入することで地球と宇宙の境が曖昧になり、宇宙がどんどん身近な存在になっていくのだろう。
2年後に開催される次回のJAPAN MOBILITY SHOWは今回からどのような変化があるのだろうか、非常に楽しみだ。