
株式会社岩谷技研による世界初の「気球での宇宙遊覧フライト」の打ち上げが、2025年4月から6月頃に予定されている。
本記事では、他社の状況も踏まえながら、同社の気球による宇宙遊覧フライトの事業化に向けた取り組みやその強みについてご紹介する。
目次
岩谷技研と気球による成層圏飛行
岩谷技研は、2016年に北海道で設立された企業で、高高度ガス気球および宇宙関連技術の開発を手掛けている企業である。
特に、気球を活用した「宇宙遊覧フライト」に注目が集まっており、世界初となる商業運航の実現に向けて事業を推進している。
このサービスでは、高高度ガス気球によって高度18,000〜25,000mの成層圏を約1時間にわたり飛行し、眼下に広がる青い地球と上空の宇宙空間を船内から楽しむことができる。ロケットやスペースプレーンを用いたサブオービタル宇宙旅行のように無重力体験はできないものの、比較的、長時間の宇宙遊覧を可能にする点が特徴だ。
さらに、特別な訓練や宇宙服などの特殊な装備を必要とせず、誰もが気軽かつ安全に宇宙を体験できるのも大きな魅力のひとつ。加えて、価格面でも競争力があり、岩谷技研は将来的に100万円での宇宙遊覧サービス提供を計画している。
同社は現在、2025年春に予定されている世界初の気球による成層圏旅行の実施を目指し、技術開発や運用試験を推進中。
また、同社のサービスは気球による宇宙遊覧サービスにとどまらず、その技術を活かした宇宙港(射場)のシステム開発や、実験・ロケット打ち上げ用途の高高度気球の設計・製造・運用のワンストップサービスなど、多岐にわたる事業展開を行っている。
世界の「気球による成層圏旅行」開発の現在
気球を利用した成層圏旅行を開発する企業は、岩谷技研だけではない。ここからは、世界の成層圏旅行市場の現状を見ていこう。
Space Perspective(アメリカ)
気球を利用した成層圏旅行を開発する企業の中でも特に有名なのがアメリカのSpace Perspectiveだろう。
2019年に設立された同社は気球型宇宙船「Neptune」を開発しており、2024年の商業飛行開始に向けて2021年から搭乗券を販売。日本では株式会社エイチ・アイ・エスが3年間の独占販売権を入手して予約も受け付けていた。
Space Perspectiveはこれまでに1800枚以上のチケットを販売し、2024年に高度約30,000mの無人飛行にも成功しているが、開発が遅れており、商業飛行の開始予定は2026年に延期されていた。
また、2025年1月に賃料滞納が原因で立ち退きを命じられており、倒産の危機に直面していると、複数の海外メディアで報じられている。
Zephalto(フランス)
2016年に設立されたフランスの企業Zephaltoも気球を利用した成層圏旅行を目指す企業の一つだ。
フランス宇宙機関(CNES)等、様々な機関と提携し、成層圏飛行技術を開発。2024年10月時点で、加圧されたカプセルを水素気球で持ち上げ、高度約6㎞まで上昇することに成功している。
しかし、成層圏旅行を実現するためにはま与圧技術、耐寒設計、降下制御、通信、コスト管理といった複合的な技術を確立する必要があり、商業サービスの提供には時間を要すると考えられる。
岩谷技研、世界初の事業化へ。同社の強みとは
上記のような企業がある中で、岩谷技研は世界で初めて、気球による成層圏飛行を民間で実現させようとしている。
同社の強みとしては、以下の3つが挙げられる。
- 安定した技術開発と試験の継続
- 独自技術による安全性・確実性の向上
- 長期的な事業展開と戦略的パートナーシップ
1. 安定した技術開発と試験の継続
他の気球を利用した成層圏旅行を開発する企業には、開発初期の試験成功などの発表はあるものの、その後の開発遅延や資金調達の難航によって商業化が遠のくケースが多く見受けられる。
一方、岩谷技研は、毎月のように北海道を拠点に実験を重ね、確実な技術データを蓄積。
2022年の係留飛行[*1]からわずか2年で最高高度20,816mの成層圏到達に成功しており、安定した開発進捗を見せている。そして、これは有人気球飛行として国内初の記録であり、商業運航の実現に向けた大きな一歩となった。
[*1]係留飛行:気球や航空機をロープやワイヤーで地上とつなぎ、一定の範囲内で浮揚・移動させる飛行方法
2. 独自技術による安全性・確実性の向上
岩谷技研は、気球飛行実験を重ねる一方で、人間が滞在可能な環境を保つための与圧キャビンや生命維持装置、長距離通信装置等、様々な技術開発を推進。これらの改良を重ねることで、より安全かつ快適な宇宙遊覧フライトの実現を目指してきた。
その中で、気球からの吊りひも取付方法、真空下でのキャビン内の結露防止装置、気球をコントロールするサーバなど、気球を利用した成層圏旅行に必要な技術の特許を20種以上取得。
こうした技術の積み重ねが、同社のサービスの安全性の向上と実現可能性を高めている。
3. 長期的な事業展開と戦略的パートナーシップ
岩谷技研は、上記のような技術を武器に、宇宙遊覧フライトにとどまらず、宇宙港のシステム開発や高高度気球運用のワンストップサービスなど、多角的な事業展開を進めている。 これにより、同社の技術は単なる宇宙観光ビジネスにとどまらず、研究開発や産業用途としても応用可能なものとなっている。
また、岩谷技研は、宇宙をすべての人に開かれたものとすることを目指し、「宇宙の民主化」を掲げたプロジェクト 『OPEN UNIVERSE PROJECT』 を主催。このプロジェクトを通じ、宇宙遊覧フライトの事業化および普及を推進している。
同プロジェクトには、株式会社JTB、アサヒグループジャパン株式会社に加え、2025年1月には日本航空株式会社(JAL)が新たに参画。JALとの協業により、宇宙遊覧の体験設計や技術開発、人材育成といった分野で、JALの航空運送事業で培われた知見やアセットを活用しながら、新たな価値創出を目指しているのである。
さらに現在は、一般向けのプロモーションとして 「OPEN UNIVERSE チャレンジ」 を実施。2025年の商業フライト第一号機のネーミングを一般公募し、関心を高める取り組みも進めているのだ。

さいごに
いかがでしたか。
気球による宇宙遊覧は事業化が困難であることが伺える。しかし、岩谷技研は段階的な技術実証を積み重ね、安全設計を徹底し、さらに異業種との協業を進めることで、着実に商業運航の実現へと歩を進めている。
もし、2025年に予定されている「気球による宇宙遊覧」の初フライトが成功すれば、旅行の選択肢として「宇宙」が加わり、多くの人々にとって宇宙がより身近な存在となるだろう。 これまで身近にない体験であった宇宙旅行が、一般の人々にも開かれる新たな時代が始まるかもしれない。
今後、岩谷技研が気球による宇宙旅行の夢を現実のものとし、業界を牽引していけるか、その挑戦に期待が高まる。
また、同社は現在、複数のポジションにて人材を募集している。同社の働き方に興味のある方はぜひこちらをご覧いただきたい。
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参考
- 岩谷技研、宇宙開発を加速させる高高度気球の設計・製造・運用のワンストップサービスを開始
- 宇宙戦略基金に岩谷技研が連携機関として参画、ロケット打上げ高頻度化へ射場基盤技術をSPACE COTAN株式会社と共同開発
- 岩谷技研とJALが宇宙遊覧体験の事業化を目指し協業を開始
- 世界初の気球での商用宇宙遊覧フライト、記念すべき第一号機の名前をあなたの手で。OPEN UNIVERSE PROJECTがネーミング募集キャンペーンを開催!
- 宇宙遊覧商業運航へ向け、自社開発有人気球で国内初の高度20,816m到達
- This Luxury Space Balloon Lets You Glide 100,000 Feet Above the Earth With a Cocktail in Hand
- Space Perspective Successfully Completes Development Flight 2
- Space Perspective HP
- どれだけ安全?岩谷技研による日本初の気球での宇宙飛行(SPACE CONNECT)
- HISアメリカ法人、Space Perspective社に出資
- Zephalto Xアカウント
- Zephalto HP