
国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在ミッションに向け、2025年3月13日(木)午前8時48分にJAXAの大西卓哉宇宙飛行士を乗せたクルードラゴン宇宙船(Crew-10 )が打ち上げられる予定となっている。
本記事では、大西宇宙飛行士の経歴やミッションの概要、ISSでの主な活動についてご紹介。さらに、打ち上げの流れやクルードラゴンの特徴等についても簡単に解説している。
目次
大西卓哉宇宙飛行士 PROFILE
JAXAの大西卓哉宇宙飛行士は1975年生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業後、1998年に全日本空輸株式会社(ANA)に入社。2009年、日本人宇宙飛行士の候補者としてJAXAに選抜され、2011年にISS搭乗宇宙飛行士として正式に認定された。
ISS滞在経験はこれまでに1回。2016年に第49次長期滞在クルーのフライトエンジニアとしてISSに約113日間滞在した。滞在中には、日本人として初めて、ISSに物資を輸送するシグナス補給船をロボットアームで把持するミッションを遂行し、成功させた。
2020年には、ISSの搭乗員をサポートする技術者を統括し、運用の指揮をとる「JAXAフライトディレクタ」に認定。ISSの日本実験棟「きぼう」運用管制業務に従事。
そして2023年11月に今回実施されるISS長期滞在ミッションの搭乗員としてアサインされた。
今回のISS 長期滞在ミッションについて
搭乗する宇宙飛行士
大西宇宙飛行士は、SpaceXが開発したクルードラゴン宇宙船(Crew-10)で2025年3月13日にISSに向かい、約半年間の長期滞在を予定している。
Crew-10はSpaceXの有人宇宙輸送システムの10回目の乗組員交代ミッション。大西宇宙飛行士にとっては宇宙飛行・ISSの長期滞在として2回目となり、日本人宇宙飛行士のISS長期滞在としては13回目となる。
今回のミッションを担う宇宙飛行士は、大西氏を含めて4名。NASAの二コル・エアーズ氏、同じくNASAのアン・マクレイン氏、そしてロスコスモスのキリル・ぺスコフ氏である。
アン・マクレイン氏は2回目、二コル・エアーズ氏とキリル・ぺスコフ氏は初の宇宙飛行。4人全員がパイロット経験を持つことが特徴のメンバーだ。
大西宇宙飛行士は今回、パイロットをサポートするミッションスペシャリスト(搭乗運用担当者)を担当。
2020年に野口宇宙飛行士もクルードラゴン宇宙船のミッションスペシャリストとして搭乗しており、その際は宇宙船の飛行状況(飛行シーケンス、タイムライン、宇宙船テレメトリ及びリソース消費等)を監視する役割機器のモニターなどを担った。
打ち上げの流れ
大西宇宙飛行士らが搭乗するSpaceXのクルードラゴン宇宙船は、高さ8.14m、直径4mの有人宇宙船。最大7名が搭乗可能で、帰還時には海面に着水する仕様となっている。
このクルードラゴンを宇宙へと運ぶのは、SpaceXが開発したファルコン9ロケット。2段式のロケットで、下部の第1段ブースターは再利用可能なのが特徴だ。今回使用されるブースターは2回目の打ち上げとなる。
今回のミッションにおける打ち上げの流れは下図の通り。

打ち上げ後、第1段ブースターは第2段と分離後、地上へ帰還して着陸する。
その後は第2段エンジンが燃焼を開始。第2段エンジンも所定の軌道に到達すると燃焼を停止して分離する。それからは、クルードラゴン宇宙船は自力で飛行することになる。
ISSでの注目のミッション
ISS到着後およそ半年間にわたり、大西宇宙飛行士は科学利用や有人宇宙技術、民間利用等における様々なミッションを実施する。
ここからは、大西宇宙飛行士が行う予定のミッションの一部をご紹介する。
超小型衛星放出ミッション
「きぼう」日本実験棟は、ISSで唯一 エアロックとロボットアームの両方を備え、超小型衛星の放出ニーズに応えることができる。
現在、三井物産エアロスペース株式会社やSpace BD株式会社 などの事業者が、「きぼう」を活用した超小型衛星放出事業を展開しており、これらの企業を通じて、民間企業や研究機関が開発した超小型衛星、さらには国際協力プロジェクトに関わる超小型衛星の放出が行われている。
超小型衛星は、比較的安価に開発できることから、近年、世界中で開発・利用が活発化 している。
その打ち上げ機会を確保することは、国際的な協力関係の強化、技術実証や教育の機会の提供 に貢献するだけでなく、事業者による利用サービスの展開を通じた新たなビジネス機会の創出にもつながり、社会・経済の発展に寄与するだろう。
今後も、九州工業大学とスリランカのArthur C. Clarke Institute for Modern Technologiesが開発した「Dragon Fly」や、静岡大学の「STARS-Me2」 など、様々な超小型衛星の放出が予定されている。
細胞の重力センシング機構の解明
宇宙生物学において、「細胞がどのように重力を感知するのか?」は、未解明の重要な課題の一つとされている。
微小重力環境下では、宇宙飛行士に筋萎縮や骨量減少などの生理的変化が生じる。しかし、細胞がどのように微小重力を感知し、組織・個体レベルでの変化へとつながるのかはいまだ明らかにされていない。
この仕組みが解明されれば、地上における寝たきり状態の病態メカニズムの理解が進み、予防・治療法の開発につながる可能性がある。 特に高齢化社会が進む中で、この研究は医療や福祉の分野にも貢献することが期待されている。
今回の実験では、細胞を微小重力環境下で培養し、顕微鏡を用いたリアルタイム観察を行い、その比較・解析を進める。
この実験は3回に分けて実施されており、今回の実験はその最終段階となる3回目。過去2回の実験では、軌道上で培養した細胞のふるまいをリアルタイムで観察し、重力変化に対する細胞の応答反応の検出に成功している。
第3回目となる今回の実験では、大西宇宙飛行士が第2回目で確認された細胞の応答反応を指標とし、重力感知に関与すると予測されるシグナル経路の遮断や増強の影響を調査。これにより、細胞がどのように重力を感知し、それが筋萎縮や骨量減少につながるのかというメカニズムの解明を目指す。
JEM船内可搬型ビデオカメラシステム実証2号機(Int-Ball2)
ISSで活動する宇宙飛行士を支援する船内ドローン「Int-Ball2」は地上の管制員の操作によりISS内を⾶び回り、写真や動画の撮影を宇宙⾶⾏⼠の代わりに⾏うことで、宇宙⾶⾏⼠の作業時間を⼤幅に軽減するためのロボットである。
2017年からISSにて無重⼒空間での姿勢・移動制御に関する基本実証を⾏ったInt-Ball初号機の後継機として2023年に打ち上げられ、遠隔カメラとしての定常運⽤を開始した。
また、カメラ運用だけでなく、Int-Ball2そのものを使った技術実証に係る利⽤も計画されている。
例えば、バーチャルISSを開発する宇宙スタートアップの株式会社スペースデータとKDDI株式会社は、ISSのInt-Ball2とバーチャルISSのInt-Ball2の動きを比較することで、技術精度とバーチャルISSの再現率向上を図る実証を2025年4月から開始する。
⼤⻄宇宙飛行士のミッション期間では、Int-Ball2を使った技術実証に向けた準備として、障害物回避などのより⾃律的な処理技術の実証や他宇宙ロボットの共同作業の実証などを行う予定とのことだ。
打ち上げ・配信情報
大西卓哉宇宙飛行士が搭乗するクルードラゴン宇宙船(Crew-10)の打ち上げ情報は以下の通り。
- 日時:2025年3月13日(木)午前8時48分(日本時間)
- 場所:米国フロリダ州ケネディ宇宙センター 39A射点
打ち上げおよびISS到着の様子は、JAXAのYouTubeチャンネルで生配信される予定だ。
「きぼう」での長期滞在ミッションをまとめるフライトディレクタによるわかりやすい解説とともに配信するとのこと。ぜひご覧いただきたい。
さいごに
いかがでしたか。
今回のCrew-10ミッションでは、大西卓哉宇宙飛行士が約半年間にわたりISSに滞在し、科学研究や技術実証、超小型衛星の放出など多岐にわたるミッションを遂行する。
今回ご紹介したミッション以外にも、多種多様の実験・実証が予定されているので、興味のある方はぜひJAXAが発表しているプレスキットをご覧いただきたい。
ISSでの活動は、日本の宇宙技術の発展だけでなく、地球上の生活にも貢献する可能性を秘めている。
日本人宇宙飛行士の活躍とCrew-10ミッションの成果に期待です!