アンテナのAirbnbインフォステラ、初めて地上局サイトを開設!?

2022年11月14日、株式会社インフォステラは、北海道スペースポートでお馴染みの北海道大樹町に、人工衛星の地上局サイト(宇宙事業者がアンテナを設置できる場所:以下、大樹サイト)が開設したことを発表した。

同社は、宇宙の人工衛星との通信を行う地上局(アンテナやその周辺機器など)に関する事業を行っている。

主な事業は、世界中の事業者が所有するアンテナの“シェアリング”を可能にするオンライン上のサービス「StellarStation」の提供。

インフォステラは2018年より商用サービスとしてStellarStationを運用しており、衛星運用のための地上システムを一気通貫で事業者に提供するGSaaSサービスのパイオニアとなった。

そんな同社が、今回初めて自社の地上局サイトを開設した

本記事では、その理由について迫る。

地上局とは?

前提として、まずは地上局とは何かということを知る必要がある。

地上局とは、宇宙にある衛星や宇宙機と通信を行うための設備(アンテナやその周辺機器など)である。

衛星との通信はいわゆる無線通信。

地上局と衛星で電波をやり取りすることで、衛星を制御するためのコマンドを送ったり、衛星が取得した情報を受け取ったりと、データを送受信することが可能となる。

衛星事業者は、衛星との通信を行うために、自分で地上局を持つか、地上局を所有するオーナーと契約する必要があるのだ。

地上局に関する人工衛星の課題

次に、インフォステラ解決を目指している課題について説明する。

その課題とは、アンテナにグローバルにアクセスしたいというニーズがあるにもかかわらず、地上局の数が少ないため、通信機会が少ないことである。

アンテナとの電波のやり取りが可能な衛星の範囲には限界があるため、衛星の電波がアンテナに届かない地域では衛星の運用ができない。

また、近年打ち上げが増加している地球低軌道を周回する小型衛星は、地上からみて速いスピードで移動しており、1つの地上局と通信できる時間は1回あたりわずか10~20分程しかない。

通信可能なエリアが限られる上、受信可能なデータの総量も少ないのだ。

また、アンテナを複数所持または契約する場合には、労力や費用がかさんでしまうという問題もある。

特に他国でアンテナを使用する場合は、規制の問題なども考慮しなければならないのである。

インフォステラのソリューション ーStellarStation

上述した問題に対する解決策の一つとして、インフォステラは「StellarStation」を提供している。

StellarStationは、例えるなら、アンテナのAirbnb。

地上局を持つオーナーは、アンテナの非稼働時間を他の衛星に貸し出し、収益に繋げることができる。

また、衛星運用者は、一度のセットアップで、世界中の地上局にアクセスすることが可能。

労力や費用を抑えて、他国のアンテナを使用し、展開する衛星ビジネスに役立てることができるのだ。

StellarStation ビジネスモデル
© インフォステラ

StellarStationでは、インフォステラがアンテナを所有するのではなく、アンテナの所有者と衛星事業者を繋げる。

アメリカの通信衛星大手企業Viasat、AWSなど、複数の国に地上局を所有する企業とも提携するなどし、サービスの価値を高めている。

ホスティングサービスで顧客基盤の拡大を

ここからが本題である。

StellarStationは衛星事業者にも地上局の所有者にもメリットがある優れたサービスだが、一部の衛星事業者には適さない。

日本、または世界中でサービスを展開したいと考える衛星事業者のうち、プロジェクトの都合上アンテナにフルアクセスしたい場合や、機密性の高いプロジェクトを行う場合は、StellarStationは不便である。

しかし、大樹サイトで行う特定の衛星運用者のための専用アンテナのホスティングサービスは、この課題を解決する。

つまり、大樹サイトの開設によって、顧客基盤を拡大することができるのだ。

ホスティングサービスとは、衛星通信事業者の追跡・通信用地上局を日本に設置するための専門サービスのこと。

第三者のアンテナを時間借りするStellarStationとは異なり、利用者がアンテナを専用で使用する。

そのため、フルアクセス機密保持の需要に対応できるのだ。

利用者は、衛星を運用する5年、10年、あるいはそれ以上の期間を契約し、衛星追跡用のアンテナや関連機器を、アンテナ設置用の敷地内に持ち込む。

土地や電力、光ファイバーなどのインフラは、インフォステラが整備しているものを使用することになる。

大樹サイトに関して、インフォステラは現在すでに米国の主要な宇宙事業者2社とアンテナを設置運用する契約をしている。

加えて、ごく近い将来、大樹サイトの追加拡大を必要とするだけのパイプラインもあるとのことだ。

大樹町にアンテナを設置するメリット

今回、地上局サイトが大樹町に設置された理由についても紹介しよう。

日本にアンテナが必要な事業者は、日本でサービスを展開する日本の衛星事業者か、グローバルにサービスを展開する海外の衛星事業者である。

グローバルにサービスを展開する場合、人工衛星は、地球全体を観測可能な軌道に乗せることが好まれる。

地球の南極と北極付近を縦断する、地球から数百キロメートル程の低軌道は、地球全体を観測するのに最適な軌道。

北海道大樹町は、この軌道の衛星の追跡アンテナを設置するのに、地理的に最適な場所である。

従って、大樹町のアンテナにはグローバルにサービスを展開したい衛星事業者が集まりやすいのである。

また、大樹町は自治体としても宇宙活動への高い関心と理解があり、町全体でインフォステラの取り組みを全面的に歓迎し、協力していることも、選択の理由となったという。

インフォステラの今後は?

インフォステラは、今後も世界各地に地上局を増設し、お客様に最高品質のサービスをコスト効率の良い方法で提供していくという。

日本においては、米国や世界の宇宙関係者が大きな関心を寄せる沖縄でも、特定の衛星運用者専用の地上局サービスの開始について協議を進めているとのこと。

沖縄にアンテナを設置することで、例えば、日本の南方(太平洋・東シナ海)のような地域における、違法漁業の監視や対策といった海上での衛星画像利用が期待される。

衛星が画像を撮影してから数分以内にその画像を地上で取得することが可能となり、ユーザー、特に海事関係者が、リアルタイムで意思決定できる可能性が高くなるのだ。

さいごに

地上局の整備・運用を衛星運用者に提供する地上局ビジネスは、衛星ビジネスとともにグローバルに展開するサービスが増大しており、世界中の企業が競合となる。

近年は、イタリアのLeaf spaceなどのスタートアップや、AWS ground station、Microsoft Azure Orbitalなど巨大企業も地上局ビジネスに参入。

競争が激しさを増してきたこの業界の中で、インフォステラはアジア太平洋地域、欧州、中東、アフリカ、米州の各地域でネットワークを展開

StellarStationと地上局ホスティングの両サービスを強化し、事業を拡大している。

地上設備の構築はライセンス関連や国際的な規制なども含め、衛星事業者にとって煩わしい作業。

かかる労力とサービスの品質の面で、どれだけ顧客から信頼を得られるかが今後の鍵となるだろう。

参考:

インフォステラ、北海道大樹町に新しい地上局サイトを開設

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