宇宙実験をコスパ良く!IDDKの自動バイオ実験装置、4月に日本初の打ち上げへ
©株式会社IDDKの画像を使用

2025年2月21日、株式会社IDDKは、無人でも自動で作動する宇宙バイオ実験装置「Micro Bio Space LAB(MBS-LAB)」のトライアルミッション「MBSLAB-ZERO」を地球低軌道で稼働させる実証実験を実施すると発表した。

同ミッションでは、ドイツのATMOS Space Cargo社開発の貨物帰還カプセル「PHOENIX Capsule」に宇宙バイオ実験装置を搭載し、2025年4月にSpaceXのロケット「Falcon9」で打ち上げられる予定である。

本記事では、このプロジェクトの概要やMBS-LABの特徴、そしてこの挑戦が宇宙バイオ研究にもたらす意義について詳しく解説する。

MBS-LABで宇宙実験が手軽になる理由

宇宙環境における実験では、微小重力など特殊な環境を活かした研究開発を可能にし、地上では得られない成果が期待できる。

例えば、タンパク質結晶の生成実験により薬の開発が加速し、植物の成長や食品保存技術の実験は長期宇宙探査や食糧問題に貢献。また新たな素材の誕生により、地球上の産業に革命を起こす可能性もある。さらに、有人宇宙探査・月面探査のための技術実証の場としても不可欠な存在だ。

しかし、宇宙実験における最大の課題の一つにコストの高さがある。

これまでほとんどの宇宙バイオ実験は国際宇宙ステーション(ISS)を利用して行われてきたが、打ち上げには多額の費用がかかるうえ、ISSの実験スペースには限りがある。さらに、宇宙飛行士による操作が必要であるため、実験計画の柔軟性にも制約があった。

こうした課題を解決できるのが、IDDKの無人自動バイオ実験装置「MBS-LAB」だ。

「MBS-LAB」のコア技術:MID

「MBS-LAB」は、人工衛星に搭載して打ち上げるだけで、宇宙環境を活用したバイオ実験・実証ができる装置だ。

その核にあるのは、同社が特許を取得した、光学レンズ不要の半導体センサーベース顕微観察技術「Micro Imaging Device(MID)」である。

MIDは指先サイズのワンチップであり、超軽量かつ省スペース化を実現。チップの上に観察対象を乗せるだけで、高精細かつリアルタイムに生体サンプル観察を行うことが可能である。

そして、宇宙ミッションでは宇宙に輸送するもののサイズや重さが大きいほど打ち上げ時のコストが高くなるため、MIDでは打ち上げコストを削減可能であり、これにより、研究機会の拡大にも繋がるのだ。

MIDチップ
MIDチップ ©株式会社IDDK

オートメーション運用を実現

IDDKは、このMIDを無人の宇宙空間で使用できるようにするため、自動のバイオ実験装置「MBS-LAB」を開発した。

これにより、宇宙飛行士の作業時間やリソースに依存せず、より自由なタイミングで宇宙環境を活用した実験が可能になる。

また、MBS-LABは多様なユーザーニーズに応えるためのオートメーション用オプションパーツラインナップ(様々な生物種に対する観察ユニットや培養チャンバーなど)の拡充を図り、ユーザーのアイデア次第で自由度の高い実験装置や手順を組むことも可能。

これにより、商業利用や学術研究において高いコスト効率と柔軟性を実現することができるのだ。

MBS-LABパーツリスト
MBS-LABパーツリスト ©株式会社IDDK

初の宇宙ミッション「MBSLAB-ZERO」の目的

「MBS-LAB」として初のミッション「MBSLAB-ZERO」は、商業・学術向けの宇宙環境利用研究プラットフォームの構築に向けた第一歩となる機能実証実験だ。

このミッションの目的は、以下の3つ。

  1. オートメーション運用の実証
  2. リアルタイムのデータ取得実証
  3. ISS以外での宇宙バイオ実験の可能性を実証
ミッションイメージ
ミッションイメージ (株式会社IDDKのプレスリリースから引用)

1つ目は、MID技術が地球低軌道(LEO)の微小重力環境下で電源供給やデータ管理システムなど、自動化されたシステムで連続的に顕微観察が行えることの実証。これにより、無人運用による実験環境の可能性が広がることが期待される。

2つ目は、微小重力環境でのリアルタイムデータ取得の実証。微小重力下でのMIDやセンサーから顕微観察や実験環境のデータをリアルタイムに取得できることを実証し、生物サンプルを用いた幅広い研究に活用できることを示す。

3つ目は、ISS以外での宇宙バイオ実験プラットフォームとしての可能性を示すことである。

2030年に予定されているISS運用終了後を見据え、今後はその代わりとなる宇宙ステーションや人工衛星のプラットフォームが必要となる。今回の打ち上げではMBS-LABを用いることにより人工衛星での宇宙バイオ実験プラットフォームが実現可能であることを実証し、ISS以外での宇宙バイオ実験手段となり得ることを示すのだ。

「MBS-LAB」が実証成功すれば、日本発の技術による宇宙バイオ研究の新たな道を開くだろう。特に、創薬、アンチエイジング、再生医療、コスメなどの分野において、宇宙環境を活用した研究が地上の研究以上の成果をもたらす可能性がある。

MBSLAB-ZEROの外観
MBSLAB-ZEROの外観 ©株式会社IDDK

宇宙バイオ研究がもたらす未来の展望

様々な企業・機関とのミッションを予定

IDDKは、宇宙バイオ実験装置「MBS-LAB」を活用した商業・学術向けミッションをすでに複数計画している。

例えば、ミドリムシの宇宙培養実験である。

食用として利用可能なミドリムシの屋外での大量培養を世界で初めて成功させた株式会社ユーグレナ、小型ポンプ技術等のパイオニアである高砂電気工業、IDDKは、宇宙用の小型細胞培養装置を共同で開発しており、株式会社ElevationSpaceが開発する宇宙実験ができる小型衛星サービス「ELS-R」に搭載する予定だ。

また、株式会社IDDKと金沢大学、文教大学、立教大学の教授らを中心とした共同研究グループが、宇宙空間で誘発される骨密度低下、放射線障害、概日リズム障害を予防する治療薬開発に向けて実施する宇宙実験においても、IDDKの宇宙バイオ実験装置が使用される。

この実験では宇宙にある魚のウロコにある細胞を観察し、またその結果を地球に帰還させる予定となっている。

IDDKは実験を行ったサンプルを地上に戻すサンプルリターン技術の開発を進めている複数の人工衛星パートナーと提携しているため、実験時にすでにサンプルリターン技術を実証済みのパートナーを選定することができ、実験の成功確率を高めることができる

さらに、これら以外にもIDDKはリジェネソーム株式会社と宇宙環境におけるエクソソーム生産装置の共同研究を実施。

また、アラブ首長国連邦のMohammed Bin Rashid Space Centre(MBRSC)とIDDKのワンチップ顕微観察技術(MID)を用いた宇宙バイオ実験のサービスをUAEの科学者や研究者に向けて提供すると共に、共同でその他の国々に広めることを目的とした戦略提携を締結するなどし、サービスの拡大を図っている。

MBS-LAB(筐体搭載前)
MBS-LAB(筐体搭載前)©株式会社IDDK

2026年に商用打ち上げ開始へ

IDDKは宇宙バイオ装置「MBS-LAB」について、2026年に商用フライトミッションの打ち上げを計画している。

宇宙環境での実験・研究は、地球に住む人々への貢献だけでなく、人類の生活圏の宇宙への拡大を支え、新たな事業や産業の創出や既存産業の拡大などの産業的インパクトも期待される。

同社は人工衛星だけでなく、新たな宇宙ステーションなどとも連携し、下図のような多様な産業や分野の研究支援において高頻度かつ低コストで手軽に利用できる「軌道上実験サービス」プラットフォームの確立を目指しているのだ。

IDDKの「軌道上実験サービス」活用期待分野 ©Space Connect株式会社
IDDKの「軌道上実験サービス」活用期待分野 ©Space Connect株式会社

さいごに

いかがでしたか。

「MBS-LAB」の登場によって、宇宙バイオ実験がより手軽でコスト効率よく行える新時代が始まろうとしている。

IDDKの挑戦は、単なる技術革新にとどまらず、宇宙バイオ研究の民主化と産業応用の促進につながる大きな一歩となるだろう。今後のIDDKの動向に注目したい。

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スぺジョブ

参考

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