Firefly Aerospace、民間初の月面撮影サービス実現へ
©Space Connect

2025年6月18日、ロケットや月着陸船を開発する米Firefly Aerospace(ファイアフライ・エアロスペース)は、2026年に開始予定の月面観測サービス「Ocula」を発表した。民間主導の月面観測サービスとしては世界でも初期例の一つとなる見込みであり、その動向に注目が集まっている。

本記事では、「Ocula」のサービス概要、期待される役割、今後の計画について紹介する。

Oculaについて

Fireflyが開発を進める「Ocula」は、将来的な月面探査や資源開発、さらには宇宙安全保障までを見据えた、次世代の月周回観測インフラである。

このサービスは、同社の月周回機「Elytra(エリトラ)」に、NASAのクレメンタイン計画などで実績を持つローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)製の高解像度光学望遠鏡を搭載することで実現される。

観測は紫外線および可視光線の2波長帯に対応しており、月面の詳細な地形や鉱物分布を高精度かつ継続的に取得することが可能。得られたデータは、着陸地点のマッピングや鉱物資源の探索など、有人・無人を問わず将来のミッションに不可欠な基礎情報として活用される予定だ。

さらに、「Ocula」の観測機能は、科学分野への応用も視野に入れている。たとえば、2032年に月へ接近するとされる小惑星「2024 YR4」の高精度観測が計画されており、月周回軌道からの天体観測という新たなアプローチが期待されている。

こうした技術的可能性に加えて、「Ocula」は安全保障の観点でも重要な意義を持つ。宇宙領域把握(SDA:Space Domain Awareness)のインフラとしても機能することで、地球近傍空間や月周辺の動態をリアルタイムで把握することが可能となるからだ。

月面経済圏の構築が現実味を帯びる中で、「Ocula」はその持続的な観測・監視の中核的存在として、産業・科学・安全保障の各分野にまたがる価値を生み出すポテンシャルを秘めている。

Firefly Aerospace(ファイアフライ・エアロスペース)のOculaが提供予定のサービス例
Oculaが提供予定のサービス例 ©Space Connect

NASA LROの代替手段としてのOcula

LROの老朽化

「Ocula」が注目を集める最大の理由のひとつは、NASAが長年運用してきた月探査機「LRO(ルナー・リコネサンス・オービター)」の後継機能を、民間が担いうる点にある。

LROは2009年の打ち上げ以降、15年以上にわたって月周回軌道から観測を継続してきたが、機体の老朽化が進んでいる。

特に、姿勢制御に不可欠な慣性計測装置(IMU)はすでに寿命が近づいており、2018年以降は節電運用に移行し、必要時のみ再起動といった限定的な運用*1が続いている。

このような背景を受け、Oculaは、NASAが今後も高解像度の月面データを取得し続けるための補完的な選択肢、さらには将来的な代替手段としての期待を集めている。

代替のメリット

Oculaは、高度約50kmで20cm分解能の画像取得*2を達成し、NASA LROの50cm*3を大きく上回り、性能の違いからも代替するメリットは大きい。Fireflyは、こうした高精細データを政府機関のみならず、商業セクターに対しても低コストで提供する方針を示している。

国家資産の後継機能を民間が担うという構図を示すだけでなく、政府主導だった観測インフラの再定義にもつながることが今回の代替に当たる注目ポイントの1つである。

NASAの月探査機LROが撮影した月面と地球の画像
LROが撮影した月面と地球の画像 ©NASA

「Blue Ghost Mission」から広がる展開計画

Oculaは単発の技術実証にとどまらず、持続的かつスケーラブルな観測インフラとして段階的に展開されていく計画である。


初期運用の起点となるのが、2026年に予定されている月面着陸ミッション「Blue Ghost(ブルーゴースト) Mission 2」だ。このミッションでは、月周回機「Elytra(エリトラ)」が月着陸船と共に打ち上げられ、Oculaサービスの初号機として投入される予定となっている。

Elytraは、月の裏側に着陸するBlue Ghost着陸船およびそのペイロードに対し、中継通信などの支援機能を果たす。その後、月周回軌道上に移行し、5年以上にわたって観測ミッションを継続する設計だ。
さらに2028年には、「Blue Ghost Mission 3」においても別機体のElytraの投入も計画されている。

この新型周回機では、画像取得性能や観測項目の拡充が予定されており、同様に長期運用を前提とした観測が行われる。こうした段階的な展開に加えて、Fireflyは宇宙機製造能力の拡張にも着手している。

Elytraの投入数を増やすことで、月周回観測の再訪時間(リビジットタイム)の短縮を図り、よりリアルタイム性の高いデータ提供を目指す。
これにより、宇宙領域把握(SDA)や資源探査、探査ミッションの支援といった多様なユースケースに対し、より柔軟で応答性の高い観測インフラの構築が可能となる。

Fireflyは、こうしたOculaの技術・運用モデルを将来的には火星や他の天体にも展開していく構想を描いており、単なる月探査サービスではなく、民間主導の深宇宙観測基盤としての発展を目指している。

さいごに

2025年6月時点において、月面への直立着陸を完全な形で成功させている民間企業は、Fireflyが唯一の存在*4である。

その実績に裏付けられた確かな技術力は、同社が展開する月面観測サービス「Ocula」にも受け継がれており、持続的かつ高精度な観測能力を、商業ベースで安定的に供給できる点において、これまでにない先駆例として、今後注目に値する。

参考

Firefly Aerospace, “Firefly Announces New Lunar Imaging Service ‘Ocula’” (Press Release, 2025‑06‑18)

SpaceNews, “Firefly announces commercial lunar imagery service” (2025‑06‑18)

NASA, "About LRO"(Official Page)

NASA, "Lunar Reconnaissance Orbiter"(Official Page))

Firefly Aerospace, "About OCULA" (Official Page)

参考脚注

*1NASA “LRO Weekly Status Update” (2019‑05‑20)

*2 Firefly プレスリリース(2025‑06‑18)
*3 NASA LRO Instrument Handbook v.5 (2024)

*4 NASA “BG‑1 Mission Status” (2025‑03‑03)

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