2024年12月4日、株式会社cosmobloomは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙構造物システム研究室との共同研究の開始と、プレシードラウンドでの資金調達の完了を発表した。この発表は、宇宙空間での大型構造物の実現を目指す同社にとって重要な節目となる。
本記事では、cosmobloomが注目される理由について、そのコア技術「NEDA」を中心に、近年の宇宙開発トレンドや同社の今後の展望とともに詳しく解説する。
目次
cosmobloomの事業と技術
cosmobloomは、ゴッサマー構造を用いた宇宙構造物に係る解析・設計・開発を担う企業である。
ゴッサマー構造とは
ゴッサマー構造とは、膜やケーブルといった薄くて軽い柔軟な部材から成り立つ構造のことである。
軽量性、展開性、収納性に優れており、一度に運べる質量や体積に限界のあるロケットでの輸送の際も小さく折りたたんで宇宙空間に運ぶことが可能。大型の宇宙構造物を実現するために非常に重要な技術であり、宇宙機の構造様式として注目されている。
しかし、構造の柔軟さゆえに空気や重力などの影響を強く受けるため地上実験が難しい、宇宙空間での挙動を予測するための数値シミュレーションにおける計算が難しいなど、その実現は容易ではない。
宇宙構造物としてはとても有効な反面、様々な技術的課題があるため、現在でも地上実験の方法や数値計算の方法について世界各国で研究がなされている。
cosmobloomのコア技術
同社のコア技術は以下の2つ。
- ゴッサマー構造の解析技術
- 超小型人工衛星の設計・開発~試験・運用の知見
1つ目にゴッサマー構造の解析技術である。
同社は、前身である日本大学理工学部航空宇宙工学科宮崎研究室(現JAXA 宇宙構造システム研究室)時代に、構造物や材料の複雑な非線形挙動を数値的に予測・シミュレーション・解析する非線形弾性動力学解析コード「NEDA」を開発。
「NEDA」は、2010年にJAXAが打ち上げた、太陽の光を推進力として活用する小型ソ-ラー電力セイル実証機「IKAROS」の膜面展開シミュレーションに利用され、ソーラーセイルを主推進装置として利用する世界初の惑星間航行の成功に貢献するなど、確かな実績を積み上げてきた。
2つ目に、超小型人工衛星の設計・開発~試験・運用の知見だ。
同社の立ち上げメンバー全員が超小型人工衛星の設計・開発から試験・運用までの一連を経験。実機の開発で得た知見を製品の設計に反映することができ、より品質の高い製品を提供可能としている。
cosmobloomは、これらのコア技術:「NEDA」と衛星開発の経験を用いて、ゴッサマー宇宙構造物の解析・設計・開発を検討しているお客様に実現可能なソリューションを提供。
さらに、「NEDA」を活用しながら超小型衛星に搭載可能な超軽量の膜面アンテナや、膜面式デオービット(軌道離脱)装置などの開発にも取り組んでいる。
そして最終的には、ソーラー電力セイルや特定の光を遮断して宇宙望遠鏡の観測を補助するスターシェードシステム、宇宙太陽光発電システムなど「次世代の宇宙構造物システム」の社会実装を目指しているのだ。
cosmobloomの技術が期待される理由
cosmobloomの「NEDA」をコアとするゴッサマー構造物の解析・設計・開発技術のメリットは、ロケットの限られたスペースを効率的に活用することを可能とするところである。
衛星など宇宙機を打ち上げる際、現状の輸送方法はロケットに限られている。そのため、大きな構造物を宇宙に運ぶ場合でも、ロケットの限られたスペースに収容する必要がある。
さらに、ロケットで荷物を運ぶ際に小型化が求められる理由として、打ち上げコストが重量や体積に比例して増大する点が挙げられる。特に、ペイロード(積載可能重量)に制約があるロケットでは、輸送可能な重量や体積を効率的に活用することが極めて重要だ。
従来は剛体のパネルを折り畳んで収納する手法が一般的であったが、この方法でもロケットの積載容量や重量を圧迫するため、大型構造物を宇宙で実現させるには不向きである。
そのため、宇宙機や構造物における軽量化と収納時の小型化は、経済性と技術的実現性の両面から不可欠な要件となっている。
また、近年では、超小型衛星や小型衛星の台頭により、小型・軽量化技術はさらに重要だろう。
これらの衛星は、従来の大型衛星に比べ、低コストで迅速な開発が可能であり、多くの場合、複数の衛星を1つのロケットでまとめて打ち上げる「ライドシェア」方式が採用されている。これにより、ロケットの限られたスペースを効率的に活用しつつ、多様なミッションに対応できるようになった。
一方で、複数の衛星を同時に打ち上げる場合、1つの衛星が占有できる体積や重量はさらに厳しく制限される。そのため、超小型・軽量ながら高性能な構造物の設計が求められる状況にある。
当社は、これらのような課題に対し、独自に開発・保有する非線形弾性力学解析コード「NEDA」を用いて解決を図る。
「NEDA」を活用することで、ロケット積載時には軽量かつ小体積(数十㎤)に収め、宇宙空間では大型な構造物(数十㎥)に展開可能なゴッサマー構造を信頼性高く実現。この技術により、ロケットの積載効率を向上させるだけでなく、宇宙空間での大型構造物の実現にも貢献するのだ。
共同研究と資金調達で開発を加速
ゴッサマー宇宙構造物の開発~製造まで JAXAとの連携を強化
今回、同社は前身であるJAXA 宇宙構造物システム研究室と共同研究契約を締結した。同研究室の宮崎康行教授は、cosmobloomのCTOも兼任している。
同研究室は、宇宙構造物の構造概念、構造工学(特に、構造動力学)を究める研究チームだ。特に、ゴッサマー構造を宇宙構造物に適用することでこれまで実現が困難であったミッションの実現を目指す他、ゴッサマー構造を核とする宇宙科学ミッションについて研究し、ソーラーセイルミッションや系外惑星直接撮像ミッションについて検討。
また、微小重力環境下における土壌の動きや機械への反応を分析する「テラメカニクス」の理論を研究し、厳しい表面環境でも安定して掘削できるサンプル・リターン技術(探査機で採取した土壌や岩石を地球に持ち帰る技術)の開発にも取り組んでいる。
cosmobloomは、同研究室との正式な共同研究契約を通じてJAXAプロジェクトを含む柔軟展開構造物関連のミッションにおいて開発から製造までの連携を強化し、次世代の宇宙構造システムの実現を目指すとしている。
超小型衛星向け軌道離脱装置の開発から着手
今回、同社はプレシードラウンドにおける資金調達の完了についても発表した。この資金調達により、宇宙空間での大型柔軟展開構造物の実証を兼ねた開発を進める予定である。
具体的には、超小型衛星向けに設計された、世界最小クラスの膜面デオービット装置の開発を行う。この装置は、膜面を展開して空気抵抗を利用し、衛星の軌道離脱を支援するものである。
収納時は、超小型人工衛星のミッション機器の搭載を阻害しないような実現10cm四方の1/4サイズの構造を持ち、宇宙空間では面積としておよそ1万倍となる、3m級に展開するように設計される予定だ。
また、2030年頃には、携帯電話やPCなどの端末と直接通信が可能な数メートル級の膜面アンテナの開発も計画しているとのこと。
同社は、これらの技術開発の先に、柔軟展開構造物を活用した2.5km級の宇宙太陽光発電システム(以下、SSPS)の実装を目指し、開発を進めていく方針である。
さいごに
いかがでしたか。
現在、商業宇宙ステーションや月周回宇宙ステーションの建設計画、さらには月面開発計画など、大型の宇宙構造物を必要とするプロジェクトが数多く進行している。
こうした状況の中で、地球から宇宙へ効率的に荷物を運ぶ技術がますます求められている。cosmobloomの「NEDA」をコアとする技術は、軽量かつ小型化された構造物を宇宙空間で大規模に展開できる点で、輸送コストを削減し、これらのプロジェクトを実現するための重要な役割を果たすだろう。
今後の同社のさらなる活躍に期待したい。